いつものことながらバスケをしている時の彼は本当に別人だなとしみじみ思う。
いや、それは寧ろ逆なのかもしれないけれど。
私といる時の彼が少しおかしいのだと、そう言った方がいっそしっくりとくる。
「名前ちゃんの淹れてくれた紅茶凄く美味しいね!」
「本当?よかった。お母さんがお気に入りのお店で買った茶葉なの」
保温ボトルに入れてきたものだから淹れ立てではないけれど香りはまだしっかりと残っていて確かに美味しかった。
今日は前回同様にテツヤ君のストバスの見学をさせてもらっていた。
今日はさつきちゃんも一緒に。
「なんだか名前ちゃん、会う度に綺麗になってる気がする。
やっぱり女の子って恋をするとどんどん綺麗になっていくのかな?」
「そ、そんなことないと思うけど...」
彼女と友人になったとはいえこの手の話題は少々気まずいものがある。
だって彼女はテツヤ君の事を好きだった女の子だ。
それも私よりずっと前から。
正直私が彼女に勝っているところなんて一つもない。
それがはっきりとわかるのは容姿だ。
こんなに可愛くてスタイルも良い彼女ではなく私を好きになったテツヤ君は少し変わっていると今でも思っている。
「名前ちゃん今駄目なこと考えてるでしょ?
だめだよ、そういうの。テツ君が可哀想だよ!」
まるで私の心を覗いていたかのようなことを言う彼女にどきりとした。
私は何も言えずにただ苦笑いを浮かべることしか出来ずに紅茶を飲んだ。
「ていうか今日会った時から思ってたんだけどぉ...」
彼女は私の耳に顔を近付け人には聞こえないように小声で囁いた。
「最近胸おっきくなったでしょ」
「んぐっ!ゴボッ、な、なに言って...!」
彼女の予想外の言葉に飲んだ紅茶が変なところに入ってしまい盛大に咽せてしまった。
彼女は笑って大丈夫?と言いながら私の背をさすった。
彼女の指摘はなにも間違っていない。
でも急激に大きくなったわけでもなく今だって身体のラインが目立つ格好をしているわけでもないのにどうして彼女はそれに気付いたのか。
女の勘にしたって出来すぎだ。
「名前さん、どうかしましたか?」
「あ、テツ君おつかれー」
1ゲーム終えたらしくテツヤ君が汗を拭いながらこちらにやってきた。
なんとか呼吸を整えなんでもない、と彼に伝えるものの彼は納得のいかない顔をしてさつきちゃんに声をかけた。
「桃井さんなにがあったんですか?」
「んー?ごめんねテツ君。女の子同士のヒミツだから、ね、名前ちゃん?」
さつきちゃんの回答にやはり腑に落ちないと言った表情を浮かべながらテツヤ君は私の隣に腰をかけた。
ちょっと距離が近すぎるのではないかと言う前に彼に抱きしめられた。
いつものことといえばいつものことだけれど今日は誠凛のメンバーだけではなく彼の中学時代の友人達が勢揃いしているのだからさすがに恥ずかしい。
さつきちゃんに助けを求めるような視線を向けるが彼女は目を輝かせて私達を見ている。
「おい、テツが抜けたからさつき代わりに入れ」
「えー私?」
青峰君がコートからさつきちゃんに声をかけた。
さつきちゃんを誘うよりもテツヤ君を呼び戻してほしいと青峰君に視線を送るが彼は一瞬テツヤ君を見た後口パクで何かを言ってもう一度さつきちゃんを呼んだ。
多分青峰君は諦めろと言っていた気がする。
「じゃあ私ちょっと行ってくるね?」
無情にもさつきちゃんはコートに入り私達はベンチで2人きりになってしまった。
テツヤ君は至近距離でじっと私を見ている。
気まずくてコートの方に視線を向けると黄瀬君がゴールを決めたところだった。
そんな彼と目が合い彼は無邪気に笑って私にピースサインをしたので私も同じように返すとテツヤ君に顔を掴まれ強引に彼の方を向かされた。
「黄瀬君より僕を見てください」
「っ、ご、ごめん、あの、テツヤ君?」
「はい」
外だというのにまったく離れようとしない彼。
まぁそれはいつものことなのだけれど。
「...皆いるし、あの、離れてもらえない?」
「名前さんが正直に教えてくれたら離してあげるかもしれないです」
確約はしてくれないのかと内心思いながら彼を睨むもそんな事で動じる彼ではない。
ただじっと私を見ている。
私はしょうがないかと諦め彼の耳に口を近づけた。
「最近胸が大きくなった?って、さつきちゃんに聞かれただけだよ...」
「...なるほど」
テツヤ君は私の胸に視線を落とす。
あまりにも遠慮のない視線がなんだか恥ずかしくなって彼の目を手で覆った。
でもやはり彼が慌てる様子はない。
「やっぱり桃井さんって鋭いですよね。
確かに名前さんの胸は前より大きくなりましたよね」
「こ、声が大きいから!!」
今度は彼の口を塞ぐとその手の腹をべろりと舐められ私は慌てて手を離した。
「テツヤ君!!」
「すみません、無意識でした」
彼から距離を取ろうとした所を手を取られバランスを崩した所でベンチに倒れてしまい彼はそのまま私に覆い被さった。
身の危険を感じ声を上げそうになった所で彼の身体が私から遠ざけられた。
「おい黒子、テメェはほんとに見境ねぇ奴だな!
こんなとこで何やってんだ!」
「何するんですか火神君、痛いです」
部活中も何かと助けてくれている火神君が彼を引き剥がしてくれたのだ。
彼は本当にいい人だと改めて心底感謝した。
黒子君は私に縋るような視線を向けたけれど私はその視線を無視して火神君に早く連れて行ってと念を送る。
こんなことに慣れている火神君はすぐに察してそのまま黒子君を回収していった。
私はほっと一息ついてよろよろとベンチから起き上がった。
彼と入れ替わる形でさつきちゃんがベンチに戻った。
「テツ君って名前ちゃんにはあんな感じなんだね」
さつきちゃんは楽しそうにそう言ってタオルで汗を拭った。
こうなったのは彼女のせいなのにと恨めしい視線を送るけれどジャージ姿で汗をかいていてもやっぱり綺麗な彼女に何も言えなくなってしまくなってしまった。
美人は本当にずるい。
コートではテツヤ君が緑間君と火神君から何か言われているようだったけれど黒子君は素知らぬ顔をしたものだから火神君にはたかれていた。
それを黄瀬君が仲介に入るのを青峰君は興味なさそうに見ていた。
それにしても火神君は本当にいい人だとしみじみ思う。
今度日頃の感謝を込めてチーズバーガーでも奢ろうと決意した。
「2人が幸せそうでよかった」
無邪気に笑ってそう言ったさつきちゃんを見てなんだかくすぐったくなって。
本当は私となんて友達になりたくなかったかもしれないのに、それでもこうして屈託の無い笑顔を見せてくれる彼女がいつも以上に可愛くて。
「...私が男の子だったらさつきちゃんのこと好きになっちゃってたんだろうなぁ」
「えー本当?私も男の子に生まれてきてたら名前のこと好きになってたよー!
私達両思いだね!」
さつきちゃんはそう言って私に抱き付いた。
私よりずっと大きな胸が身体に押し付けられた。
こんなことを言ってはセクハラになってしまうかもしれないけれどこの胸が無くなってしまうのは惜しい、でも男の子だったとしてもなんだか色々と凄そうだ、なんて想像をしてしまった。
「ちょっと桃井さん!!名前さんといちゃいちゃしていいのは僕だけなんですからね!?」
「...あんなに大声出すの苦手だったのに」
テツヤ君の言葉を無視してさつきちゃんは気が済むまで私を抱きしめたままだった。
これもいつものことだけれどただ見学をしているだけなのにどうして毎度疲れてしまうのだろうかとため息をつきそうになった。
でも明確に私に好意を向けてくれている彼女を見ればテツヤ君がいたからこそ学校の違う彼女とも友達になれたのだと、それに感謝しながら彼女の頭を撫でた。
私に撫でられて嬉しそうな顔を見せる彼女にときめきかけたことはテツヤ君にはけしてバレないようにしようと胸に誓った。
(今度一緒に可愛い下着買いにいこ!テツ君が喜ぶやつ一緒に探そうね!)
(え、ま、まぁ...うん、いいけど...)
(あまり僕を舐めないでください、僕は名前さんが着るならどんな下着でも興奮しますよ!)
(火神君またテツヤ君迎えにきて!)
end