ロマンのようなもの

「お願いします、名前さん」

「いや、あの、ほんと土下座とかやめて」

彼の誕生日の翌日、朝から家を訪ねてきた彼を自室に上げる。
妙に大きな荷物を持っているなと思いそれどうしたの?と訊ねると彼は紙袋から大量の服を取り出した。
それは普通の服ではない、所謂コスプレ衣装に分類されるもので。

「桃井さんが僕の誕生日にくれたんです!彼女の気遣いを無碍には出来ないと思いませんか?」

「...すっごい卑怯な手使うね。...さつきちゃんなんでこんなのを...」

一着広げてみればそれはナース服で、二着はメイド服、婦人警官、ミニスカサンタ、修道服と種類は様々だ。

「...多くない?」

「桃井さんがそれだけ僕の名前さんへの愛を理解してくださっているということです!」

「ちょっと大きな声出さないで」

彼があまりにもテンションが高くなっているようで大きな声を出したので私は慌てて部屋の窓を閉めた。

「...じゃあ...取り敢えず一着だけ着るから...どれがいい?」

「!じゃあこちらからお願いします!」

彼がそう言って広げて私に見せてきたものはサンタ服だった。

「もうクリスマスどころか正月も終わっちゃったけど...」

「はい、すみませんがあと2年はクリスマスにデート出来ないと思いますので...ですので今日がクリスマスということにしてください!」

それは来年も再来年も彼がウィンターカップに出場すると宣言しているようなものだった。
常に勝つことしか考えていない彼の前向きさは尊敬している。
まぁでも勝利以外への欲求も強すぎるのはこちらとしては時々困ってしまうのだけれど。

「わかった。あの、じゃあ着替えるからちょっと部屋から出てくれる?」

「え、気にしなくて大丈夫ですよ。なんならお手伝いしますから」

頼むから目を輝かせてこちらを見るのはやめてほしい。

「出ていってくれないなら着ないからね」

「...はい」

私がそう言うと渋々彼は部屋から出ていった。
いっそこのまま部屋の鍵を閉めてやろうか、なんて考えたけれど彼の荷物が置きっぱなしである以上このまま彼を追い出してしまうわけにもいかない。
というかそんな事をしてしまえば普通に後が怖いので私は彼の指定したサンタ服に着替えた。
それを着て鏡の前に立って自身の姿を確認してみたけれどちょっとスカートが短すぎるのではないかと顔が引き攣った。
身体のラインに沿ったデザインな上少し動いただけで簡単に下着が見えてしまいそうなそれ。
ケープが付いているのでそれを羽織ればなんとかいやらしさは薄れたけれどそれでも短すぎるスカート丈はどうにもならない。
黒のロング手袋に白のニーハイを履いて完成だ。
改めて鏡を見てみたけれどこれはなんというか、そういうDVDに出てくるお姉さんが着ているような、そんな風にしか見えなかった。

「名前さん、もう入ってもいいですか?」

彼の声のかけるタイミングの良さに本当は覗かれていたのではないかと勘繰ってしまった。
私は扉に近付いて彼が扉を押せないようにしてから返事をした。

「...変な事しないって約束してくれるなら開けてもいいよ」

「え、そんな...僕やる気満々なんで無理ですけど」

最初からコスプレしてエッチなことをする気満々でしたと堂々と言う彼にため息が出そうになった。
ではダメだと突っぱねるけれど彼は扉のノブをがたがたと下げようとしたのを私は必死で抑えつけた。
これじゃまるでホラー映画だと思いながら恐怖のあまりつい鍵を掛けてしまった。

「ちょっと名前さん!なんで鍵なんかかけるんですか!!酷いです!!」

「身の危険を感じたからだよ!」

ドアをバンバンと叩きながら開けてくれと騒ぐ彼にどうしようかと悩んでいると彼は叩くのをやめて先程より落ち着いた声で話しかけてきた。

「すみません、はしゃぎすぎました。
でも違うんです。可愛い格好をした名前さんを見て触れて、英気を蓄えたかったといいますか...その、3年間クリスマスにデートが出来ないことが寂しい気持ちもあって少しはそういう気分が味わえたらなって...」

そんな言い方をされてしまっては私は何も言い返せなくなってしまう。
こんな無茶苦茶な彼でもバスケに関しては誰よりも真剣に取り組んで努力を重ねていることを知っている。
そんな彼がクリスマス、なんて、実際のところそんな余裕はない筈だ。
つまりさっきの言葉は私に申し訳ないと思っているということだろう。

それを察した私はおそるおそる扉の鍵を開けた。
するとすかさずドアノブが降り扉が開けられて飛び込んできた彼に抱きつかれた。
その勢いで後ろによろめいた私は彼と一緒にベッドにダイブしてしまった。
なんて都合の良い場所にベッドがあるのだと内心現状にツッコミを入れてしまった。

「可愛いです!こんなに可愛いサンタさんは僕のところ以外には絶対に行かないでくださいね!」

「っ、痛いってば!」

私の両手を掴んでベッドで四つん這いで覆い被さった彼は遠慮なしに私の身体を舐め回すかのように見た。
というかこの体勢では下着が見えてしまっているのではないかと不安になって足をもぞもぞと動かそうとしたけれど彼は私の脚の間に自身の膝を割り込ませてそれを防いでしまった。

「今日は白い下着なんですね。
赤いサンタ服に白の下着なんていかにもクリスマスって感じがいていいじゃないですか」

「えっち!変態!もうっ!なんでテツヤ君っていっつもこんな風になっちゃうのっ!?」

必死で脚を閉じようとしたれどもう片方の膝も入れられてしまい更に大きく広げられてしまった。

「僕がえっちなのは貴方のせいですよ。
貴方がこんなにえっちな格好をしているからです」

無理やり着せたくせに何を言うのかと怒鳴りつけたくなった。
そんな事を言いながら彼は耳元に顔を近付けペロリと舌を這わせた。
思わず私が漏らしてしまった声を聞いて彼は楽しそうな表情を見せた。

「いい子にしていた僕にサンタさんからプレゼントが欲しいです」

どの口が言うのだと言い返そうとしたところで唇を塞がれ舌を捩じ込まれた。
必死で逃げようとしたけれど彼がそれを許してくれる筈もなく簡単に絡め取られて弄ばれてしまう。
やめさせたいと思っている筈なのに、彼の舌が気持ち良すぎて次第に力がどんど抜けていく。
それに気付いた彼は抑えつけていた手を一度解き指を絡める形で握りなおした。
そのまましつこいくらい濃厚なキスが数分続けたらた後ようやく唇は解放され、私は乱れた息をなんとか整えることが出来た。

「僕、ウィンターカップで優勝しました」

だからいい子の僕にプレゼントをください、と。
本当になんて卑怯な手を使うのだろうかと。
それを上げられてしまえば私は何も言えなくなってしまうことなんて分かっているのだろう。

「プレゼントはいらないのでサンタさんが欲しいです」

そう言って先程とは比べ物にならないほど優しいキスをした。
本当に狡い、タチが悪い。
でもそれ以上に問題なこと私がチョロすぎるということだ。

「...じゃあ後でコレ、テツヤ君も着てね」

「!それって着たら今からこのままシてもいいってことですよね?なら着ます!」

あっさりと折れた私はせめてもの仕返しにと言った意地悪を彼はあっさり受け入れてしまった。

結局私はその後彼の気が済むまで思う存分食べられてしまい翌日筋肉痛に悩まされることになってしまった。





(もうこれっきりだからね)

(え、まだまだ桃井さんからの誕生日プレゼント消化しきれてませんよ)

(...もう今度は鍵開けてあげないから)

(あの程度の鍵なら僕開けられますので大丈夫ですよ)

(!!??)


end