「凄く似合ってるよ」
「...名前さんだって帝光の制服、きっと似合うと思います」
テツヤ君は無事受験に合格した。
分かっていたこととはいえ実際に勉強している姿を間近で見ていた私にとってはとても感慨深い。
卒業式を終え中学が始まるまでの短い休日は殆ど彼と2人で過ごした。
望んでいた学校に通える事が決まった彼は少しはしゃいでいたけれど私と別の中学に通うということには未だに不安に思う気持ちがあるようでその度に私に甘えてきたけれど。
そんな穏やかな日々はあっという間に過ぎていく。
入学式の朝、玄関を出たところで彼と顔を合わせた。
身体に対し少し大きなサイズの制服を身に纏う彼の顔にはまだ幼さが残る。
でも穏やかで品のある顔立ちをした彼に水色のシャツに白のジャケットという上品な色合いの制服はよく馴染んでいた。
「...これからも勉強で分からないところがあったら教えてくれますか?」
「うん、勿論」
不安そうに私の手を握った彼の手を私も握り返す。
「1番の仲良しはずっと僕でいてくれますか?」
「うん、約束するよ」
これからは一緒に登校することも寄り道することも出来ない日々を過ごすのだろう。
「僕も名前さんのこと、これからもずっと1番大切な人です」
「うん、...ありがとう」
今日は入学式だというのに、気を抜いてしまえば泣いてしまいそうだ。
子供として過ごす日々が私をまた幼い子供に巻き戻してしまったのだろうか。
「...名前さん」
テツヤ君は私の手を握ったまま頬にキスをした。
最初に唇にされた時以来許可を得ずにそれをされたことは初めてだった。
もう中学生になる、そろそろこういった事はやめた方がいいと彼に伝えようと視線を合わせた瞬間私は何も言えなくなってしまった。
ずっと一緒にいた筈なのに、いつから彼はこんな目をするようになっていたのだろうか。
「...すみません、でも僕以外には...させないでください。
今はまだこれ以上を望むつもりはありませんから...」
いつかこの人生で特別な人と出会い恋をするかもしれない。
でもきっと彼以上に特別な人なんて現れないだろう。
私も彼ももっと大人だったなら、今すぐ抱きしめて思いの丈をぶつけていたのかもしれない。
彼がこれ以上を望まないと言ったのはきっと既に私の弱さを見抜いているからだろう。
たとえば今彼に本気で告白をされたとしても私はそれに応えることは出来ない。
それは倫理観で言っているだけではなく、ただただ怖いのだ。
それだけ彼が私にとって特別な存在となっている。
でもまだその特別が彼を異性として見ているのか友人として見ているのか家族として見ているのか、未だ明確には断言出来ない。
「...いい友達が出来るといいね」
寂しさはあるけれどそれは私の心からの願いだ。
彼が幸せでありますように、その気持ちに嘘はない。
「...僕は名前さんに僕より仲の良い友達ができたら心から喜べないと思います」
なのに彼はそんな事を言うものだから。
子供特有の素直さというものが時に心臓に悪い。
「もしも出来たらテツヤ君にちゃんと紹介するから」
「...正直仲良く出来る自信がないです」
拗ねたような顔でそう言った彼が可愛くて思わず笑ってしまった。
笑い事じゃないです、と彼は不満げな顔を見せた。
「笑ってごめんね、分かった。ならテツヤ君には内緒にしておくから」
「...それはそれでなんだかモヤモヤします」
テツヤ君は我儘だねと言うと彼はむむむと眉間に皺を寄せた。
ころころと変わる表情がいつか変わってしまうのだと思えば今こうしている時間が愛しいものに思えた。
「そろそろ学校行かないとね」
「...はい」
お互いいってきますといってらっしゃいを言い合って背中を向けて歩き出した。
帰ってくる場所はすぐ近く。
でもそれは近いようで遠くもなるものだと思うから。
振り返って同じように振り返った彼と目が合い再び手を振って前を向く。
こんな日々が永遠に続けばいいのに、そんなことを願いながら私達は中学生になった。
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