「おめでとう」
「ありがとうございます」
1年生の冬の昇格テストに見事合格した彼は2年生になり一軍に合流し力を認められ無事ベンチ入りを果たしユニフォームを貰えたそうだ。
本当に嬉しそうに報告しにきた彼を心の底から祝福した。
彼の努力も苦しみも、私が知っているものなんてきっとほんの一部なのだろう。
一軍に上がってからも彼は今まで通り、いや、それ以上に努力している。
一軍の通常の練習量が桁違いに上がったようで毎日のように吐いてしまうという報告に関しては大丈夫なのかという気持ちでいっぱいなのだけれどこればっかりは厳しい勝負の世界で戦うことを選んだ彼自身が体力をつける以外解決策はないだろう。
私が彼にしてあげられることは本当にないという事実が胸を締め付けた。
「外部の人間も応援にいける試合の時は教えてね」
「それって応援に来てくれるってことですか?嬉しいです」
こうして当たり前のように彼に抱きしめられるようになって何年経ったのだろう。
抱きしめられる度に少しずつ変化していく彼。
また背が伸びた気がするのは気のせいではないだろう。
そしてその彼との間に出来ていく差が私は全く変わっていないのだということを証明している。
その事実に少し落ち込んだ。
胸はそれなりに膨らんではきたものの身長の方はからっきしだ。
まぁ私は何かスポーツをやっているわけでもなければこれから部活に入り彼のように必死にスポーツに励むことはないと思うので別に支障はないのだけれど。
女性であっても背がすらりと高い人はやはりかっこいいと思うのでそんな女性に憧れる気持ちから背も伸びてくれたらいいのに、と願ってしまう。
「また身長伸びたね。テツヤ君はどんどん大人になっていくね」
「本当ですか?バスケ部のみなさん大きい人ばかりでいまいち実感がわかなくて...正直彼らが羨ましいです」
たしかに彼のチームメイトはみな発育が良い子ばかりだった気がする。
高校生になる頃には驚くべきことに2mを超える子がいた筈だ。
現時点で彼が嫉妬してしまうほど大きな子達がむしろこれからが本番と言わんばかりに大きくなるというのだから。
努力ではどうにも出来ない才能を待って生まれた人間もいればそれを持たずに生まれた人間も山のようにいる。
この世界はどこまでも残酷だ。
でもそれを嘆くことよりも足掻いて前に進むことを決めた彼は本当にかっこいい。
「多分小さいからこそ出来ることって沢山あると思うよ」
「...名前さんよりは大きいです」
褒めたつもりだったが小さいと言われてしまったことが気に触ったのか彼は不満げな声色でそう言い返した。
でも怒って私を突き放すようなことはなく彼は私を抱きしめたまま離れようとしない。
寧ろ抱きしめられる腕には力が入る。
「ごめんね、悪気はなかったの」
「...はい、分かっています」
ろくに言葉を話す事も出来ないうちから一緒にいたのだから誰よりも分かっている。
彼がゆっくりではあるけれど確実に成長しているということを
勿論大きくなったのは身長だけではない。
いつのまにか私より広くなった肩幅、手の大きさ、靴のサイズ。
細かなことを挙げていけばキリがない程に。
「学年が上がったけど勉強の方は大丈夫そう?」
「...最近名前さんは時々意地悪になりますね」
それは彼の事を気遣って出た言葉だった。
けれどやはりあまり干渉しすぎてもよくないようだ。
お節介を焼きすぎたと反省してごめんねと謝って頭を撫でようとしたけれどこれも子供扱いをしていると受け取られ更に機嫌を損ねられてしまうかもしれないと思い彼の頭のすぐ近くまで上げた手を引っ込めた。
でも当の彼はなんだか不服そうた。
「...撫でてくれないんですか?」
「え...あ、うん」
彼の判定基準がイマイチ掴めない。
子供扱いをされるのは嫌だけれど頭を撫でられることはそれに当てはまらないらしい。
男心も複雑なものなのだろうとそれ以上深くは考えずに彼の頭を撫でた。
私の首筋や肩に擦り寄った彼はまるで猫のようだと思った。
どこにも行かずずっと私のそばにいてくれればいいのに、なんて。
欲張りな私はいつもそんな事ばかり願ってしまう。
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