貫いた強さ

私は前の人生でも今の人生でも体育の授業くらいでしかバスケに触れてこなかった。
もっとも今の人生で小学生の頃彼がバスケに興味を持ち一緒に真似事のような事はしたけれどそれは遊びの域でしかなかったと思う。
それからすぐに経験者の荻原君と出会い素直に教えを聞き入れる彼を気に入った荻原君は真剣にテツヤ君とバスケに打ち込むようになっていき、私は自然と見学に回らせてもらうようになっていた。
楽しそうに、懸命に夢中になってバスケにのめり込んでいく彼を見ている時間が本当に好きだった。

彼がレギュラー入りを果たしてから暫く経った後、練習試合で初めて帝光学園バスケ部員としてプレイをする彼を応援する為に見学に行った。
その時一番に思ったことはとにかく凄い、その一言にすぎた。
彼だけではない、素人目から見ても彼からパスを受けゴールを決める彼のチームメイトはその能力も体格も同じ年齢の子供には見えないほど規格外で。
そんなこと知っていた筈なのに実際に自分の目で観る彼らは想像を遥かに越えていて。
手を伸ばしても届かない、そんな存在に思えた。

自身の特質を活かす為感情を、存在感を消し仲間にパスを出し続ける彼。
努力に努力を重ねて身に付けたスキルで戦う彼。
そんな彼を心から尊敬している。
それでも生まれた頃から共に過ごしてきた私はそんな彼が知らない人になってしまったように思えて寂しさを感じてしまった。

圧倒的な点差をつけ勝利した彼らは笑っていた。
その笑顔が見られるうちはまだ良い。
見学に来ていた私に笑顔を見せてくれたテツヤ君に小さく手を振り口パクでお疲れ様と言った。
少しして彼に女の子が話しかけた。
それが誰かという事を私は知っている。

彼が私から視線が外れたタイミングで彼に何も告げずに静かに体育館を後にした。
彼はきっとすぐには帰れないだろうから、そう自分に言い訳をして。

うっかり見えてしまった対戦相手の選手達の何もかも嫌になったようなそんな表情にも気付かなかったふりをして。


「昨日は一緒に帰ろうと思っていたのにどうして先に帰ってしまったんですか?」

「あーごめん、試合の後ってミーティングとかあるのかなって思ってたから。
他校の人間がいつまでも敷地内にいるのもどうかなって思って」

一瞬ざわついた心に蓋をしてすぐにこんなにもそれらしい言い訳が浮かぶのは彼より長く生きているからだろうか。
彼は少し残念そうな顔をしながらも私の言い分に納得してくれた。

「かっこよかったよ、凄く。
テツヤ君が一番目立ってた」

「ありがとうございます。
でも僕が目立っていたなんて言われたの初めてです。
まぁ僕のプレイスタイル的には寧ろ目立ってはいけなのでいいのですが」

チームの為に、レギュラーの座を勝ち取る為に選んだ道を迷うことなく突き進む彼は誰よりもかっこいい。
彼のチームメイトだってみんなそんな彼を認めてくれている。

「三軍の僕と毎日一緒に居残って練習に付き合ってくれた友達がいるんです。
僕の可能性を信じ助言をくれた人も。
彼らがいたからこそ今の僕がいます」

誰の話をしているのか私は知っている。
テツヤ君ががどれだけ彼らに感謝しているか伝わってくる。

「帝光に入って良かったです。
あんなに凄い人達と一緒にバスケが出来て、本当に嬉しいです」

試合の最中には見せない彼の笑顔。
私は見慣れた筈のその笑顔。

貴方がずっとこうして笑っていられたら良いのに。
本心ではそう願ってしまう私を彼はどう思うのだろうか。
彼の努力と決心を否定するようなことを望んでしまう私を。

「また、応援に来てくれますか?」

きっと貴方は優しいから、そんな事を考えている私を知ったところで嫌ったりなんてしないのだろうなと考える私は自惚れているのだろうか。

「うん。...何度でも、応援に行くからね...」

私には何も出来ないけれど。
心から貴方を尊敬しているから。
大切な幼馴染、家族とさえ呼べる程近くで見てきた一番の友達。

「嬉しいです」

お願い、どうか私を忘れないで。
いつか貴方に私以上に大切な人が出来たとしても今この瞬間貴方の一番の友達だった私のことを、どうか、どうか。


next