「何か食べる?」
時が経つのは本当に早く、気付けば私も彼も中学3年生になっていた。
互いの家を行き来することは昔よりずっと減った。
それは彼が努力をしている結果なので仕方のないことだと寂しさを感じる自身の心を納得させた。
テスト期間中はよく2人で勉強した。
私が彼にしてあげられることなんて彼の勉強を見てあげることくらいだったから彼が部活を励んでいる時間彼がより理解しやすいよう教え方について学んだりして過ごした。
その甲斐もあり彼は少し成績が向上したというのだから嬉しい話だ。
そんな彼がテスト期間でもないのに私の家を訪れた。
ふだんであればまだ部活に励んでいる時間だというのに。
事情は聞かずに彼を家に上げると彼は私の部屋に上がるなり隣に寄り添うように座った。
けれど彼は何も話そうとしない。
私はそんな彼に当たり障りのない言葉をかけた。
でも彼から返ってきたのは大丈夫です、という言葉だった。
彼はただ静かに私の肩に頭を預け目を閉じている。
彼の様子を見れば何かあったのだろうと容易に想像ができた。
勿論ただ疲れがたまっているだけという可能性もないとはいえないのだけれど。
でもそれなら家で休むことを選ぶ筈だから。
彼はきっと誰かに甘えたかったのだと思う。
「久しぶりに一緒にお昼寝でもする?」
「...なんてこと言うんですか」
あまり露骨に心配していますと悟らせないように軽い口調でそんな提案を持ちかけた。
彼は私の言葉を聞いて顔を上げた。
彼の顔が少し赤い。
こちらとしてはあれだけ普段から私に抱きついているというのに何を今更、という気分だ、
「疲れてるのかなと思ったからいいかなって。
ほら、おいで」
背を預けていたベッドに上がり布団をとんとんと叩いて彼誘うと戸惑いながらも彼はベッドに腰を掛けた。
「今日の昼お布団を干したばかりだから気持ちいいよ」
「あ、ちょっ、と!」
そのまま彼をベッドに寝転がらせて私も隣に寝転び布団を掛けた。
動揺しているのか彼の視線がきょろきょろと泳ぎ始めた。
こんな彼はレアかもしれないと考えながら彼の背中をさすった。
「久しぶりに子守唄も歌ってあげるから」
「...僕そこまで子供ではありません」
不貞腐れたようにそう言った彼。
でも背中を撫でる私を振り払うようなことはしなかった。
「布団に入ったら私の方が眠くなってきちゃった」
「貴方が寝たかっただけなんじゃないですか...」
きっと眠気を誘ったのは干したて布団のせいじゃない。
もっとずっと暖かくて心地よい、彼がすぐ側にいたからだ。
「おやすみ、テツヤ君」
「...おやすみなさい、名前さん」
貴方が沢山悩んで苦しんでいるのに、何も言って、してあげられなくてごめんなさい。
無理にでも弱音を吐かせてあげるのが正解だったのかもしれない。
でもきっと彼は私にそんなことを求めていないと思うから。
私は何も知らない、ただの彼の幼馴染。
貴方が何を思い出何をしようとそんなことで私はあなたを見限ったりしないから。
話したいことはなんだって聞くよ。
話したくないであろうことは気付いていないふりをするよ。
都合のいい、なんて言いかた嫌だけれど。
でも私は貴方にとってそうでありたい。
少しして隣であっさりと眠ってしまった彼を見る。
きっと心身共に疲れていたのだろう。
最近大人びた顔を見せるようになった彼の寝顔は以前のあどけなさを感じられた。
そんな寝顔に安心して私も目を閉じた。
眠りに落ちていく私の頬に何か柔らかいものが触れる。
それが何かなんて分からない筈がない。
それは何度も何度も味わった感触だから。
「...大好きです」
小さく小さく囁かれたその声を聞こえないふりをして私は眠った。
優しい温もりが私を包み込んで。
きっと私は大人になることが怖くなってしまったのだろう。
それにより何も変わらずいられる保証なんてないのだから。
私はこの心地よい温もりを失うのが怖くてたまらないのだろう。
だから狡い私はまだ何も気付かないふりをする。
焦らないで、どうかまだ子供のままでいさせてと願う。
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