貴方にだけ

彼に一緒の高校に行きたいと誘われそれを承諾した私は母に誠凛高校に行きたいと相談をしなければならない。
新設の私立高校だったのでまだ学力や授業の質など不透明な部分が沢山あった。
他人から見れば幼馴染、もとい恋人になった人がそこを受験するから、なんて志望動機は不純だと反対されてもおかしくはない。
ましてや私立高校だ。
きっとどこの高校に行ったとしても3年後には大学を受験するのだろう。
けして安くはない金額がかかることになる。
だからこそ私はなんと言って説得すればいいか頭を悩ませていた。
でも進路希望の紙にただ一校、誠凛高校とだけ書いたものを見た母は頑張ってね、とそれを承諾してくれたのだ。

何も聞かないのかと訊ねた。
返ってきた言葉はこちらが恥ずかしくなるようなものだった。

「今まで勉強をしろとも一度も言わなくても頑張ってきた貴方が行きたいと思った学校なんだから良い学校に決まってるでしょう」

それは私への信頼から出た言葉だった。
今回の人生で今まで悪い点数を取ったことはない。
単純計算で言えば人の2倍の時間を費やせているのだから当たり前と言えば当たり前で。
でも母はそんな事を知らない。
なんだか騙しているような気分になり少し罪悪感を抱きながらも私は両親の優しさに甘えることを選び彼と一緒に誠凛高校を受験した。

もう絶対に失いたくないと思ったから。







「テツヤ君、あの...これ...」

受験が終わってすぐ、世間はバレンタイン。
あちこちで普段は売っていない珍しいチョコレートが売られていた。
最初は市販のものを買おうかと思っていたのだけれどなんとなく特別なものを贈りたくなった。
だから簡単なものではあるが彼の為だけにチョコケーキを焼いた。
真っ白な箱に入れて水色のリボンをかけたそれを少し緊張しつつ彼は差し出した。

「...僕が貰っていいんですか?」

彼は一瞬驚いた顔を見せそえ訊ねた。
チョコレート自体は小学生に上がったくらいからは毎年贈ってきたというのにどうして驚いたのだろうかと思いながら勿論、と頷くと彼は本当に嬉しそうに笑った。
久しぶりに見た見慣れた筈の笑顔に胸がときめいた。

「これって今年は本命チョコと思って受け取っても大丈夫ですか?」

「...当たり前じゃない。というかもうテツヤ君以外にはあげないよ、多分」

「...多分、は嫌です...でも、ありがとうございます」

彼は私の手からそれを受け取った。
そして今度は私に紙袋を差し出した。

「...今年は貰えないかな、と思っていたので。
僕も用意していたんです」

「え、テツヤ君もチョコ用意してくれてたの?」

はいと返事をした彼からそれを両手で受けとった。
テツヤ君にかぎらず男の子からバレンタインにチョコレートを貰ったのは初めてのことだった。

「受験もありましたし...欲しい、なんて言える立場でもありませんでしたし」

バツの悪そうな顔でそんな事を言った彼。
もうそんなこと気にしなくていいんだよ、と。
今貴方がこうして変わらず私を好きでいてくれるだけで私は幸せだから。
そんな想いを胸に、彼に抱き付いた。

「大好きだよ、テツヤ君」

「...昔はどれだけ僕が好きだとアピールしても躱していたのに、急にこんなに素直になるなんて狡いです。
可愛すぎておかしくなりそうです」

しっかりと抱きしめられ胸が伝わる彼の心臓の鼓動の速さに彼からの想いが伝わった。

「ごめんね。これからはもう逃げないよ。
大好きって沢山伝えるね」

「...夢を見ているんじゃないかって気分です」

ほんのりと頬を赤く染めた彼。
これからどんどん大人になっていく貴方を近くでずっと見守らせてねと願いを込めてもう一度唇に触れた。


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