恋敵のような

面白くない。
名前は目の前に広がる光景に小さくため息をついた。
学園生活最後の年、デュエルアカデミアにて新しい取り組みが行われた
各地に存在する姉妹校からの各成績優秀者、代表生徒の本校留学受け入れである。
生徒達は高い実力を持つ留学生の登場に大いに盛り上がった。
ごく一部の生徒を除いて。
名前はその少数派の人間だった。

デュエル開幕のエキシビションマッチを行ってからというもの、十代はその留学生、ヨハンアンデルセンと意気投合し、急激に親しくなっていた。
名前と十代は若さ特有のカップルのようにイチャイチャするするようなカップルではなかった。
しかし少なくともは名前必死で理性を抑えなければいけないほど十代に好意を寄せていた。

入試試験の日から十代をすきになって2年、身の回りの友人達の助けもあり、ようやく二年の年度末に念願の十代の恋人というポジションを得た名前にとって一瞬で実にあっさりと彼の隣をもぎ取ってしまったヨハンはなんとも腹立たしい存在だったのだ。

「ヨハンは友人でしょう。貴方とは立つ土俵が違うのだからそんな事気にしても仕方ないでしょう?」

明日香は呆れた様子で名前を諭した。
その通りだということは名前自身が一番よくわかっていた。
それでも意識してしまうのには理由があった。
ヨハン自身も十代も同じく精霊の見える人間であったからだ。
今まで見えればいいのになぁ程度に感じていた名前だったが、それはヨハンの登場をきっかけに名前に疎外感、劣等感を強く感じさせた。

(自分にはわかってあげられない事が山程ある)

そんな自分の傲慢な思想に吐き気がした。
十代と私は違う人間なのだから、そう考えたところでまたため息を溢した。











「お、たしか名前だっけ?十代のガールフレンドなんだろう?」

どうしても授業を受ける気にならなかった名前が十代にも明日香達にも教えていない自分だけの場所で寝転がって半分うたた寝のようなことをしているとそう声をかけられた。
ヨハンと同じく留学生のジムクロコダイルクックだ。

隣に座っても大丈夫かと問われたので自身も身体を起こしどうぞと返事を返した。

「体調でも悪いのかい?」

「ううん、ただのサボりだよ」

本来なら授業を受けている時間なのだから当然の質問だ。
なにか言い訳するのもめんどくさく思い正直にそう返した。

「こんなに良い天気の日に教室に籠って授業だなんて勿体無い気がするよな。俺もサボりだよ」

ジムは背中に背負っていたカレンを地面におろし隣に座って木に背を預けた。
そう言って人の良さそうな笑顔を見せるジムに名前も同意した。

「よくここが見つけられたね。
結構この場所って見つけにくいんだよ」

名前はたまにこの場所で授業をサボることがあったが今まで一度も他人に見つかったことがなかったのだ。

「カレンがこっちの方に行きたいと言ったんだ」

そう言ってカレンを撫でるジムは本当に優しい目でカレンを見つめた。

「私も撫でてもいい?」

ジムから勿論と返事をもらいおそるおそるカレンを撫でるとカレンは気持ち良さそうに目を細めた。

「カレンは名前を気に入ったらしいな。」

「そうかな?」

自然と笑みが溢れる名前にジムは穏やかに微笑む。

「どうやらイライラは直ったようだな」

そう言われてみれば先程よりも随分と自身のイライラが和らいでいることに気付いた。
ジムは不思議な存在だった。
初めて話した相手なのにするりと懐に入ってきたがそれを不快に感じさせない。


きっとヨハンもそうなのかもしれない、そう考えた。

精霊が見えるだけではないきっと彼にも人を惹き付ける魅力があったのだと。

「····多分とてもつまらないことで悩んでいたんだと思う。」

心の小さい自分自身に呆れたような顔を見せる名前をジムは茶化すこともなく答える。

「君が悩んでいたのだったらそれはきっととても重要な事だったのさ」

本当に彼は同い年なのだろうかと疑問になった。
自身よりも大人びて見える彼は深く掘り下げることもせずに名前を優しく肯定した。
名前の心は随分と穏やかになっていた。

「·····ありがとう」

「どういたしまして」

感謝の気持ちをそのまま伝えるとジムもその言葉をそのまま受け取った。








カレンが何かに気がついたようでそちらを振り向いたあと葉の揺れる音がした。

つられてそちらを見ると予想外の人物がそこにいた。




「·····十代?」

そこにいたのは十代だった。
名前は驚きのあまり数秒間声が出なかった。
ここには何度も来ていたが他の友人同様に十代にも教えていない秘密基地のような場所であったのだから。

「名前、何してんの?」

そう問う十代の笑顔はなんだか恐ろしく感じた。
彼のそんな雰囲気を察したジムは腰をあげ、邪魔者は消えるよ、と言ってその場を去っていった。

「····じゅ、十代。どうしてここが?」

なんとなく気まずい空気を感じた名前は取り敢えずその疑問を口にした。

「名前サボってる時はいつもここにいただろ?」

そう言ってドサッと名前の隣に腰を掛けた。

「······知ってたの?」

誰にも知られていないと思っていた名前は十代のその返答に驚いた。

「一年間の頃からずっと同じ場所じゃ知ってるに決まってんだろ」

笑顔が消えどこか不機嫌そうに答える十代の言葉に名前は驚いた。
十代とまともに話すようになったのは二年になってからだったのだ。
その頃は目で追っているだけでまともに話すこともほぼほぼなかったのだから。
自分が認識されていた事に驚いた。


「········ジムと何してたんだよ」

「···········えっ·······」

たっぷりと固まったあと十代の不機嫌の理由を理解した名前は顔に一気に熱が集まるのを感じた。

「そんな顔するような事してたわけ?」

「お、お話ししてただけに決まっているでしょう!!」 

間違いなく十代はジムに嫉妬していた。
それがわかった名前は顔がにやけそうになるのを必死で堪えて否定した。

「·······ふーん」

そうそっけなく返しそっぽを向く十代に名前の心臓が爆発してしまうのではないかというほど昂った。

「じゅ、十代!ててててて手!!握ってもいいっ?」

「···なんだよ、いきなり」

不機嫌な顔は戻らなかったが拒否の言葉を言わなかった十代の手をとり両手でぎゅっと握った。

(この手が大好きだった)
(私はこの手に当然のように触れることができるんだ)

そう考えると胸のうちから幸福感が溢れでた。

「···十代、キ、ス···してもいい?」

続いてそう訊ねると驚いたような表情を見せたあと、頭をかきながら声にならない言葉を発したあとため息をひとつついて今度は十代の方から名前にキスを送った。


(何を焦っていたんだろう)

そうして自分をぎゅうぎゅうと力強く抱きしめる十代の背中に腕を回し肩に顔を埋めて全身でたっぷりと十代を感じた。

「あんま勝手にどっか行くな」

鼓動の速さ声帯の震え呼吸に合わせ上下する肩、膨らむ肺、それらがぴったりと抱き合う名前に身体を通して全身から伝わった。
なんと幸福な事なのだろう。

「···はい!」



ひとまずヨハンへの嫉妬は彼方に頬り投げた。



(余計な事を考えるのはやめよう)
(私達恋人同士だものね)