「俺ってお前の彼女になんか凄く嫌われてる気がするんだけど」
授業が終わった後購買で買ったドローパンの封を開けながらヨハンがそう言った。
「ある意味そうかもな」
同じく購買したパンを頬張りつつ十代はヨハンの言葉に曖昧に同意した。
「きっと名前さんはヨハンに嫉妬してるんスよ」
クエスチョンを浮かべるヨハンに翔が捕捉をした。
ますます意味が分からず混乱するヨハン。
見た目も良くデュエルも強い、頭も良ければ誰にでも気さくで裏表がない彼は他人に嫌われるという経験が殆どなかった。
思えば初めて十代から名前を紹介された時から名前からぎこちない態度が伝わってきていたと思われる。
「俺に?····俺は男だぞ」
「そんなの関係ないんスよ」
去年剣山と十代の弟分の座を争って喧嘩した翔には名前の気持ちがなんとなく分かっていた。
翔も名前と十代の関係を後押しした友人の一人だったのもあったので名前の十代に対する惚れ込みようは理解していたこともあって。
「そういうものなのか?···十代、おまえ彼女にフォロー入れなくて大丈夫なのか?」
ヨハンがそう訊ねると十代はとうに食べ終わったパンの袋をくしゃくしゃに丸めゴミ箱に放り投げ、二個目にドローパンに手をかけていた。
「··········かわいいだろ?」
そのヨハンの指摘に答える事をせずに十代はそれはもう良い笑顔で笑った。
「うわぁ······」
その笑顔を見たヨハンと翔は名前に同情した。
嫉妬する名前の気持ちをわかった上でとくにフォローしていなかったのだと知ったのだから。
「お前そんなんじゃ愛想尽かされちまうぜ?」
自分が嫉妬の対象になっている事は解せぬが、目の前の友人の思想と名前の心情を思えば彼女に同情したヨハンが十代に忠告を入れる。
「そんなことさせるわけないだろ?」
早くも二つ目のドローパンを流し込んだ十代はパックのコーヒー牛乳にストローを挿し込みごくごくと飲みはじめた。
「そりゃあまぁ、名前さんが兄貴を嫌いになるなんてそうそうあることではないと思うけれど、もしかしたらもっと好きな人が出来るかもしれないっすよ?」
まぁそれも可能性はかなり少ないとは思うがとは思いつつも翔は名前の為を思いヨハンの言葉に援護射撃を入れた。
「は?」
その言葉にそれはもう真っ黒な笑顔を向けながら飲み干したコーヒー牛乳のパックを握り潰した。
そんな十代にヨハンと翔は顔をひきつらせた。
「そ、そろそろ、いこうぜ」
「おう!」
ヨハンは早々にこの話を終わらせた方がいいと判断して午後の授業に向けて移動を提案すると十代は真っ黒な笑顔をやめそれに同意した。
そんな十代を見て翔とヨハンは安心したかのようにため息をついた。
(十代ってこういう奴だったのか)
友人の新たな一面を見たヨハンだった。
午後の授業が始まるもヨハンは何か違和感を感じていた。
いつも自分に羨むような刺さると例えるのが良いほどの視線を感じなかったからだ。
(彼女はいないのか?)
軽く周りを見渡してみるがそこに名前の姿がなかった。
どうやら授業に出ていないらしい。
その事に気付いた時隣で紙に顔を書いて眠っていた十代がそれを外し、授業を抜けると宣言してこそこそと教室を出ていった。
(なんだ、十代にも可愛いところがあるじゃないか)
そんな十代の姿を見てにヨハンは呆れながらも笑みを溢した。
(そういえば···)
ヨハンは教室を見回し、同じく留学生のジムがいないことに気がついた。
(おかしなことになっていないといいんだが)
まぁただの偶然だろうと自分を納得させ思考を授業に戻していった。
(は?)
名前の居場所なんて既に検討がついたいた十代は真っ直ぐそこへ向かった。
いつもは自分がそこに立ち寄ることは、ない。
名前が一人になりたいと思っている時に行く場所であったから十代はその名前の気持ちを尊重していた。
それにも関わらずそこに自然と足が向いたのは所謂虫の知らせ、というものなのかもしれない。
はっきりとは聞き取れないがそこから名前ともう一人、明らかに男の声が聞こえてきた。
どうしようかと一瞬迷いはしたがまどろっこしい事が嫌いな十代は遠慮なくその場に足を進めた。
そこに名前といたのはヨハンと同じ留学生のジムだった。
ひきつりそうになる自身の顔を必死て抑え口角をあげ、何をしていたのかと聞いた。
その質問に同様したような態度を見せる名前に十代の苛立ちは増していった。
するとジムは立ち上がり邪魔物は消えると告げその場を立ち去った。
その際に十代の肩に軽く手をあて余裕を感じるような笑顔を向けたジムに内心物凄い苛立ちを感じさせられた。
「····じゅ、十代。どうしてここが?」
おそるおそるそう訊ねる名前に対する苛立ちをなんとか抑え込み
「名前サボってる時はいつもここにいただろ?」
そう伝え先程ジムが座っていた場所より名前に近い場所に自分も腰を降ろした。
自分がこの場所にいる事を十代が知っていたことに驚く名前に内心呆れながらも返事を返す。
「一年の頃からずっと同じ場所じゃ知ってるに決まってんだろ」
名前にも誰にも伝えてはいなかったが十代自身も一年の頃から名前を意識していたのだ。
加えて自分を見つめる熱を帯びた視線に気付いた十代は名前を捕まえようとすることは何度かあった。
それでも視線が合うとすぐに逃げ出してしまう名前に十代はどうするべきかと考えていた。
そうこうしている間にセブンスターズやエド達とのいざこざ、斎王の白の結社の件など立て続けに事件が起きた事でその事は後回しになっていた。
そんなゴタゴタが片付いた後、周りの友人達の介入により直接名前と話をする機会が増えた事をきっかけに名前に交際を申し出たのだった。
その時ぼろぼろと大粒の涙をこぼしそれに答える名前にどうしようもない愛しさと喜びを感じた事を今でも鮮明に記憶している。
「········ジムと何してたんだよ」
そんな十代だからこそ、そんな名前だからこそ、見えない場所で自分以外の男と二人っきりでいたことに腸が煮えくり返る思いを味わっていた。
十代のその質問に対しみるみる熱をもっていく名前にますます苛立ちが増していった。
しかし、とうの名前はにやけるのを必死で我慢したかのような顔で何もしていないと否定した。
名前が自分を裏切ることなんてない、と分かってはいるつもりだった。
十代自身も現時点の自分の苛立ちに驚いていた。
それでも目の前でこの状況でだらしない表情を見せる名前には心底ため息をつきたい気持ちになり素っ気なく返し名前から視線を外した。
「じゅ、十代!ててててて手!!握ってもいいっ?」
「···なんだよ、いきなり」
すると名前からそんなすっとんきょうなお願いを投げ掛けられる。
そんな名前に否定も肯定もしないでいる十代の態度を名前は肯定と判断し、十代の手を両手で握った。
そしてなんとも幸せそうな笑みを浮かべる名前に十代はなにも言えなくなってしまった。
「···十代、キ、ス···してもいい?」
遠慮がちに今度はそう訊ねる名前に十代はたまらず握られた手をほどき両手で彼女の肩を掴みそのまま名前の唇に自身の唇を押し当てた。
幸せそうな表情をこちらに向ける名前に気恥ずかしくなった十代は痛いくらいの力を込め名前を抱き締めた。
(くそっ、結局心臓の音とか全部伝わっちまう)
名前が十代を想うのと同じ、いや、それ以上に自身が名前に夢中になってしまっていることに内心舌打ちをするが、どうしようもなく目の前の少女が愛しくて仕方がない十代は気恥ずかしさを感じつつも名前を抱き締める力を緩めなかった。
自身の背中にそれはもう幸せそうに腕を回す名前に
「あんま勝手にどっか行くな(俺以外の男の元に)」
そう伝えると腕の中の少女は笑顔のまま素直に頷いた。
(とりあえずジムはシメる)
翌日十代に八つ当たり気味にデュエルを挑まれるもジムはそれに快く応じるなんとも爽やかなジムのその態度に十代の苛立ちはようやっと和らいだ。