新しい光

「部員も増えるしマネージャーが来てくれて嬉しいわ!私このチームでカントクをやらせてもらっています。
2年の相田リコ、よろしくね!」

放課後初めての部活の前にテツヤ君達より少し早く体育館に入り挨拶をした私を彼女は歓迎してくれた。
彼女の言葉に続けて宜しくお願いしますと頭を下げた。
彼女はイメージしていた通り明るく優しい雰囲気の女の子だった。

「あの、カントクってお呼びしたらいいでしょうか?」

部員達が彼女のことをそう呼んでいるのは知っているけどカントクである前に先輩でもある。
普段は使い分けた方がいいのだろうかと少し気になったので一応確認することにしたのだ。

「そうね!あ、でも折角可愛い女の子の後輩が来てくれたからねー!
名前で呼んでほしいなって気持ちもあるわね!
あ、貴方の事は名前で呼んでもいい?」

「あ、はい。わかりました。
では周りの目もありますし部活中以外はリコ先輩と呼ばせていただきますね。
私の事は好きに呼んでいただいて大丈夫です」

「じゃあ名前ちゃんって呼ばせてもらうわね!男所帯で何かと不便なこともあると思うけど私も出来る限りフォローするから宜しくね!」

差し出された手を握る。
彼女は満面の笑みを浮かべる。
かっこよくて可愛い女性だと思った。
もしも私が男の子に生まれていたら彼女のような人を好きになっていたんだろうなぁと思う程。





「(こういう時どこを見ていればいいんだろう)」

体育館に部員が集まりそれぞれ自己紹介が済んだところでカントクの指令を受け一年生皆がTシャツを脱いだ。
カントクはみんなの身体をじっと見て軽く評価と指導の言葉をかけていく。
そんな中テツヤ君が少し遅れて体育館に現れた。
誰もそれに気付かないのだから不思議な話だ。
彼は平然と最初からいましたと言ってのけたのだから本当にタチが悪い。
でも彼のそんな度胸の良さも選手としてはきっと強味があるのだからと私は気付かないふりをした。

カントクに促され彼も服を脱いだ。
最後に彼の肌を見たのは小学生になる前だったと思う。
他の部員の肌を見た時以上に気まずくて視線を逸らすと視界の隅で彼がこちらを向いたことに気が付いたけれど私は知らないフリをした。

わざとではないけれどその時偶然しっかりと見てしまった火神君の身体に感嘆の声をもらしそうになった。
一体どれだけ鍛えあげればあんなに筋肉を付けられるのだろうとただただ感心してしまった。

ついがっつりと見てしまったせいで彼と目が合ってしまった私は誤魔化すように笑うと彼は少し驚いたような表情をしてすぐに私から視線を逸らしてしまった。

その日はカントクが部のきまりなどを軽く説明しそのまま解散となった。
先輩達に挨拶をし帰り支度をしていた私にテツヤ君は不服そうな顔をして近付いて苦言を口にした。

「見惚れちゃうくらい火神君の身体は好みでしたか?」

「っ、そ、そんなこと思ってないよ!!」

テツヤ君は私から顔を背けて冗談ですと言った。
でもその顔はとても冗談で言っている風には見えなかった。

「...火神君と少し話をしたいです。
すみませんが今日は先に帰ってもらえますか?」

この流れではまるでテツヤ君が火神君に難癖を付けにいくようにしか聞こえないけれどそうでない事は知っている。
素直に頷いた私の頭を撫でた彼はもう普段の優しい表情をした彼に戻っていた。
彼が目だけを動かし周りを確認すると一瞬唇が触れ合った。

そしてすぐに距離をとってちゃんと帰れたかメールをくださいねと言って体育館を出ていった。

多分彼のことだろうから誰にも見られないタイミングを狙うことなんて簡単なことなのだろうけれど。
やっぱりこちらとしては心臓が持たないのでやめてほしい。



家に帰って夕食とお風呂をすませた後少しだけ話しませんかと彼からメールが届いた。
母に少しだけ彼の家に行ってくると伝えるとあまり遅くならないようにねと簡単に許可をもらえた。
こういう時恋人という立場になる以前から築いてきた幼馴染という関係に助けられる。
多分そうでなければ高校生になった今こんな時間に異性に会いに行くなんて許してもらえなかったと思うから。


「火神君と話したい事ちゃんと話せた?」

「はい、彼は中学時代の彼らに似ていました。
...でも彼らとはどこか違う気がするんです」

彼が多くを語らないのはいつものことだ。
でもその表情はどこか楽しそうで。

「仲良くなれるといいね」

「はい。あ、でも名前さんはダメですからね」

彼に向けられたじっとりとした視線。
先程の誤解はまだ解けていないらしい。

「...テツヤ君の事が好きなんだってば...」

「はい、知ってます。それが聞きたかっただけです」

本当に彼はタチが悪い。


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