先輩達とのミニゲームで火神君を含め他の部員達との距離が近付いた彼を見て少しホッとした。
部活が終わった後私はカントクに少し残るように声をかけられたのでテツヤ君とは行きつけのバーガーショップで待ち合わせることになった。
「名前ちゃんは中学でも部活をやっていなかったのにどうしてマネージャーをやろうと思ったの?」
カントクが私を引き留めた理由は殆ど事務的な用件だった。
ひと通り話し終え帰る為に一緒に体育館を出る時それを訊ねられた。
「あの...すみません。その理由は私にとっては何よりも大切なことで、でも人によっては不純だと感じる動機かもしれないです。
...またいずれカントク...リコ先輩にはお話したいと思っていますから、少し待っていただけますか?」
事情を話せば彼との関係についても話すことになるだろう。
テツヤ君が私との関係を内緒にしておこうなんて言う筈はないと思うけれど許可も得ずに勝手にに話してしまうのもどうかと思う。
だからその気持ちを伝えた。
「名前ちゃんって見た目通り真面目な子ね。
小柄だけど雰囲気も大人っぽいしそれに...」
彼女は目線を少し下に向けた。
彼女の視線は明らかに私の胸に向けられていた。
「...な、なにかトレーニングとかしてるの?」
彼女は泣きそうな顔をして私にそう訊ねた。
彼女が胸が小さいということが密かにコンプレックスになっていることは知っていたけれどまったくないわけでもないしそれ以上に魅力的なところが沢山あるのだからそんな事を気にする必要なんてないのにというのが本心だ。
でもそれは私の主観でしかなく悩んでいる当人からすればまた話は違うのだろう。
「リコ先輩。私はリコ先輩のスタイルすごくかっこいいと思っていますし、多分何か気にしていると思うんですけどそんなこと考える必要ないです。
図々しく思われるかもしれませんが私リコ先輩と初めて喋った時もし男に生まれていたらリコ先輩みたいな人を好きになるんだろうなって考えちゃいましたから、そのくらいリコ先輩は素敵です」
全部言い終えてちょっと気持ち悪かっただろうかと不安になった。
でもそれは不用な心配だったようでリコ先輩は涙目になって私に抱きついた。
「ありがとう名前ちゃん!!
私こんなに可愛い後輩が出来て本当に嬉しいわ!
日本一を目指して一緒に頑張りましょう!!」
「はい、勿論」
この世界でテツヤ君以外にこんな風に抱きしめられたことは初めてだった。
子供らしく振る舞う努力はしつつもどこかクラスメイトとは距離があり親友と呼べる程の友人もいなかったから。
誰とでも話は出来るし嫌われることもなかったけれど本当に仲の良い友人は出来なかった。
それを不便とも辛いとも思ったことはなかったのはテツヤ君がいたからというのもあったのだろう。
でも今こうして隔てることもなく私に好意を向けてくれた彼女に対しとても幸せな気分になった。
それは自覚はしていなかったけれど本当は心を許せる友人が欲しいと本心では願っていたのかもしれないと私に気付かさせた。
「私リコ先輩に出会えて良かったです」
私も彼女の背中に腕を回して抱きついた。
彼女は可愛い大好きと言って私の頭を撫でてくれた。
全部テツヤ君のおかげだと、心の中で彼に感謝した。
「(...テツヤ君ってやっぱり男の子だったんだなぁ)」
抱き付いたリコ先輩の細い腰にテツヤ君の身体を思い出しその違いに顔に熱が集まった。
勿論普段から私に比べたらずっと逞しい身体だと思ってはいたのだけれど。
リコ先輩と別れ彼との待ち合わせ場所に向かった。
店の外に着いた時窓際の席に座る彼の真ん前に火神君が腰を下ろしたのが見えた。
2人が偶然店で出会う事をすっかり忘れてしまっていた。
テツヤ君にハンバーガーを一つ渡す火神君を見た私はそのまま店を離れテツヤ君にメールを送信した。
もう少し家に近い公園で待っています、と。
これから仲良くなる彼らを見るのが楽しみだと考えながら歩いたその日の夜空はとても綺麗だった。
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