「テツヤ君って昔からやる事が大胆だよね」
彼から今日は先に行きますとメールが届き1人で登校し教室に入ると教室内はいつもより騒がしかった。
みんな窓の外のグラウンドを見ていたので私も近付いて確認してみるとそこには大きく文字が書かれていた。
「宣戦出来なかったので。
それよりもおはようございます、今日は1人にしてしまいすみませんでした。
寂しかったですよね?」
私の手をぎゅっと握って彼は私を見上げた。
椅子に座っている為自然と上目遣いになる彼が可愛くて一瞬ときめいてしまい顔が緩みそうになったが慌てて気を引き締めた。
「大丈夫だよ、おはようテツヤ君」
彼の手を握り返して挨拶をすれば彼は少し不服そうな表情を見せた。
「...寂しいって、思ってくれないことが寂しいです」
ずるい、本当にずるいと思った。
彼は全て計算しているのではないかと、そう思う。
そうでないと説明がつかないほどあまりにも私のツボを抑えすぎていると、そう思うから。
「...テツヤ君のばか...」
彼の手を離そうとしたけれど彼はそれを許さない。
席に着かないと、と伝えたところで表情も変えない。
「予鈴が鳴るまではここにいてください」
彼は高校生になったばかりだというのに、まったく末恐ろしい。
「あ、...テツヤ君、あとでちょっと話があるんだけど。
お昼ちょっと2人きりになれないかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
リコ先輩と話した事をまだ彼に報告していなかったと思いそう持ちかければ彼は二つ返事で了承してくれた。
まぁ別にそれ程深刻な話題でもないからメールで済ませてしまってもいいのだけれど、単純に彼と2人になりたかっただけなのかもしれない。
卒業式の間はずっと一緒にいた分少し寂しい気持ちもあるのかもしれない。
中学時代はもっと会えていなかったのに今は学校も部活も同じだと言うのに、どんどん我儘になっている気がする。
そんなことを考えていると予鈴が鳴った。
テツヤ君は名残り惜しそうな表情で私の手を離した。
彼も同じような気持ちなのかもしれない。
「じゃあ、また後で...」
「はい...」
きっとここが教室でなければ思い切り彼を抱きしめていたと思う。
「あのね、...私達のことなんだけど...どうしよっかって相談なんだけどね。
実はリコ先輩に私がマネージャーになった理由聞かれて。勝手に話すのもどうかなって思って。
話すとなったらテツヤ君との関係も話すことになるからそれを聞きたかったの」
昼休み彼に連れられて来た場所は確かに人気の少ない場所だった。
正確には人の行き来はそれなりにある。
少し先に購買があるのだ。
沢山人は通るけれど皆目的を終えれば昼食を取る為にその場を後にするので結果的にそこに留まる人はいないし目的以外のものはあまり見えていない。
だから私達を気にする人もいなかった。
「ああ、そういうことですか。
...というかそんなのわざわざ確認を取らなくても話してくれて良かったんですよ。
それとも僕と付き合っているってそんなに人に言うの恥ずかしいですか?」
少し拗ねたような顔をした彼が私の頬に触れた。
当然そんな理由ではなかったので慌ててそれを否定した。
「ち、違うよ!でも勝手に話すのもどうかなって...」
「...冗談ですよ。すみません、ちょっと揶揄っちゃいました」
彼は薄く笑ってぷにっと私の頬を摘んだ。
本来私の方がずっと大人な筈なのに彼には振り回されっぱなしなのが少し悔しい。
そんなことを考えながら彼をじっと見つめると彼は大きな目をキョロキョロと動かし顔を近付けた。
すぐに彼が何をしようとしているか気が付いたけれどもう遅い。
唇は触れ合っていた。
「...学校ではダメだってば...」
「すみません、じっと見つめられたのが可愛くて我慢出来ませんでした」
注意したところでサラリとそんな事を言われてしまうのだから困った話しだ。
これは彼が、というよりそんな言葉一つで全部許してしまう自分の方にだ。
多分自分で自覚している以上にまた同じ学校に通えるようになったことに浮かれているのだと思う。
ましてや同じクラスになれたのだ。
「もっとしてほしいって顔に見えるんですけど、僕の勘違いですか?」
「......勘違い...じゃないけどダメ」
彼は眉間に目を閉じて皺を寄せぎゅっと私の手を握った。
「もう、ほんとここ学校ですので...勘弁してください...!」
多分彼は今私を抱きしめたいと思ってくれていて、でもそれを我慢しているのだと思う。
そんな彼を見ていると寧ろ私の方が抱き付いてしまいたくなってしまうのだから困った話だ。
「...今日、部活終わってから...ちょっとだけうち来る?」
「...そんな、...貴方ってほんと時々びっくりするくらい大胆なこと言いますよね」
彼は頬を赤く染めてそう言った。
そんなに凄いことを言ってしまっただろうかと思考を巡らせた。
そういうつもりではなかったけれど確かにそう言われてみれば自宅に誘うという行為はそういった意味で受け取られても仕方のない発言だったかもしれないと気が付いた。
子供の頃から当たり前のように家を行き来していたのであまり深く考えずに言ってしまったのだ。
「あ、あのね、その、そういう意味じゃなくて...」
彼だってお年頃だ。
そういう事を全く考えないわけでもないだろう。
あまり掘り返したくはないけれどそういう知識や欲があるという事は彼に拒絶されたあの時の彼の行動を思い返せば明らかだ。
「わかってます。だからタチが悪いんです...」
彼は自身の額を私の額にぴたりとくっつけてそう言った。
後ろから見ればキスをしていると勘違いされてしまうと内心焦りながらもそんな彼を引き剥がす気にもなれずただただ握られた手を私もぎゅっと握り返した。
「...でも今日は沢山しますから、逃げないでくださいね」
もし、もしもこんな彼と一線を越えてしまえばどうなってしまうのだろうか、なんて想像した私は不純な人間なのだろうか。
その日の午後はあまり授業に集中することが出来なかった。
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