久しぶりの再会

「名前ちゃんただいまぁー!!」

体育館に入るなりリコ先輩、カントクは私に思い切り抱き付いた。
ふらつきそうになるのをぐっと堪えて彼女を受け止め顔を見るとそれはもう良い笑顔をしていた。

そして部員達へ号令の声をかけ海常高校との練習試合が決まったことを報告した。
話題は当然テツヤ君の元チームメイト、黄瀬君の話へと移行していく。
そんな話で盛り上がる中体育館が段々騒がしくなっていく。
気付けば大勢の女子生徒が押し寄せていたのだ。
見る分には華やかでいいのかもしれないけれどこの後の光景を知っている身としては苦笑いを浮かべてしまう。
壇上に座ってファンの女の子にサインをする黄瀬君を見るテツヤ君の顔は無表情のまま彼と目が合うとお久しぶりですと他人行儀に思える挨拶をした。

ファンへの対応を終えテツヤ君に話しかける黄瀬君をテツヤ君は軽くあしらった。
学校にすら行けなくなる程彼の心を抉ったバスケ部での出来事から約8ヶ月。
覚悟を決めてからの彼は本当に変わり黄瀬君に対しても至って冷静に話を出来る事を現実で自分の目で見られたことにホッとした。
以前から試合では何度も観ているけれど中学からモデルが出来るだけあって本当に美形だなぁと改めて思っているとどこからか彼目掛けてボールが飛んできた。
それをすんなりと取った彼、そんなところもスマートだ。
ボールを投げつけた火神君は取られることは分かっていたようで好戦的な笑みで黄瀬君を挑発し2人で1on1をすることになった。

結果として先程自身が見せたプレイを模倣され敗北するという火神君にとって精神的にも辛いであろう負け方をした。
黄瀬君はがっかりとした表情でテツヤ君を勧誘した。

テツヤ君はそれを丁寧にお断りした。
黄瀬君はどうして、とテツヤ君を説得しようとしていたけれどその言葉にもう彼との考え方の相違が出ていて見ていて少し胸が痛みを覚えた。
黄瀬君には一切悪意がないと、それを知っているから。

今のチームメイトとキセキの世代を倒すと宣言した彼に黄瀬君は顔を渋らせた。
改めて本気だとテツヤ君が伝えると黄瀬君はそんな彼を見て笑みを浮かべた。
その笑みはあまり良い意味のものではなかったように見えた。







「カントクといつの間にあんなに仲良くなったんですか?」

黄瀬君が帰り部活を終え2人で自宅への道を歩く最中彼にそう訊ねられた。
いつの間にと言われても殆ど初めて会った時からリコ先輩はあんな感じだったので最初からとしか言いようがなかった。

「カントクって裏表がない感じでしょ?それでみんなにも平等に分け隔てなく接してくれて。
...だからなんか私も甘えたくなって...ね」

テツヤ君はそうですか、と返事をしたけれど少し面白くなさそうな顔を見せた。
今までなんやかんや彼程仲の良い友達は出来たことがないのでヤキモチを妬いているのかもしれない。

「テツヤ君は幼馴染だけど今は恋人だから、比較の対象になんてならないよ」

「それはそうですけど...名前さんにとってカントクはもうそんな比較の対象に上がるくらい特別な人になったんですね。
やっぱり妬けますよ、そんなの」

彼はそう言って私に抱き付いた。
もう暗いとはいえ既に家のすぐ近くまで帰ってきてしまっている。
知り合いにでも見られたらと思うと気が気じゃない。

「わかったから、テツヤ君今日ご飯食べたらうちにおいで。
沢山甘えてくれていいから」

「...つい最近も同じ話をしたと思うのですが、貴方時々僕のこと子供だと思って接していませんか」

彼は私の頬を両手で摘んで引っ張った。
今日のこれは少し痛かった。
でも眉間に皺を寄せた私を見るとすぐにパッと手を離した。

「いくら同じ家にご両親がいたとしてもいつまでも中学の頃と同じように我慢が効く保証なんてないということをくれぐれも理解しておいてください」

再び私の手を取り歩き出した彼の隣を歩く。
少し怒った顔をしている彼の耳が赤くなっていた。
彼をただ揶揄ってしまったかのようになったことを反省してごめんなさいと謝るともういいです慣れていますと投げやりな返事が返ってきてしまった。
手を離されることはなかったので彼が本気で怒っているわけではないということは分かっているけれど。

中学の頃壊れてしまった彼に『テツヤ君になら何をされたっていい』と言った言葉はその場しのぎの言葉などではなかった。
だからそれは今だって同じなのだけれどさすがにこちらから積極的に彼を誘うような気にはなれない。
この身体でそういう経験はないけれどそれなりの事を前の世界では経験してきたからこそ。
あんな事を彼ともするのだろうかと考えるとやっぱり恥ずかしくて。

「...じゃあやっぱり今日は来ないで」

「嫌です行きますよ。...何もしないのでその分甘やかしてください」

子供扱いしているわけではないけれどこんな彼を見て可愛いと思わない女の子なんているのだろうかとしみじみ思った。


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