試合の後で

「名前さんって昔から人たらしですよね」

あの後一旦家に帰りシャワーで汗を流したテツヤ君が朝約束した通り私の家に来た。
そして今ベッドに寝転がって私の膝に頭を乗せている。

「なんのこと?」

「昔から面倒見がよくて男女問わず慕われていたじゃないですか。
小学生の時殆ど同じクラスになれなかった僕としては学校でそれを見る度に凄く複雑だったんです」

じろりと私を見上げた彼の頭をやんわりと撫でながら昔のことを振り返る。
確かに出来る限りの世話はある程度焼いた覚えはある。
やっぱり全く同じよう子供を演じるのは私には難しかったから。
そういう振る舞いをした方が楽だったしやはり子供は可愛く見えていたから。
だから良くも悪くも同級生と距離が出来てしまったのだ。

「でもやっぱり1番仲が良かったのはテツヤ君だよ」

思い返せばやたらと今日は甘えん坊だなと彼に対し思ったことがあった。
それはそういう理由だったのかと今知った。

「というかテツヤ君くらいだよ。
あんなに私と仲良くしてくれたの」

当たり前な話かもしれないけれど小学生の頃はテストもずっと満点を取れていたから、それもあって他の同級生からは距離を取られていたのだろう。
その結果小学生の間は何度も学級委員を務めることにもなってしまった。
社会人を経験した身としては学級委員なんてそれ程大した仕事ではなかったし別にいいかと受け入れてはいた。
彼は私がみんなに慕われていたとは言っているけれどそんな私を疎ましく思う子供はきっと一定数いた筈だと思う。
今思えばそれが仲間外れのようないじめに発展しなかったのは幸運だったとは思う。

「僕はずっと貴方の事好きでしたから」

「...まぁ...そうだよねぇ...」

真っ直ぐ私を見たままそんな話をするものだから、私は気恥ずかしくなって掌で彼の目を覆った。
テツヤ君は私の手首を掴んで剥がしそのまま起き上がる。

「名前さん、こちらに来てください」

彼はベッドに深く腰を掛け足を広げて座りその足と足の間をポンポンと叩いた。
そこに座れということなのだろうということはすぐに分かった。
私は少し躊躇しながらも断れば彼が拗ねてしまうことなんて容易に想像が出来たので彼の言葉に従った。

私が座るとすぐに後ろから抱きしめられた。
私の肩に彼は顔を乗せ頬にキスをした。

それ自体は幼少期からよくあるあった事で慣れてはいるのだけれど抱きしめられたことで昔とは違う体格差に彼が男の子だと再確認させられそれが羞恥心を増幅させた。

「名前さんにとっては今も僕は頼りない男かもしれないけれど僕だって昔よりは大人になれたと思いますので、だから今度は世話を焼くだけではなく僕に甘えてほしいです」

彼は耳元で優しくそんな事を言った。
もう聞き慣れた声ではあるけれど昔から本当に穏やかで優しい声色だと思う。

「テツヤ君は昔からしっかりしていたし強かったから、頼りないなんて思ってないよ。
素直で可愛すぎたから私も構わずにはいられなかっただけで」

可愛いと言ったところで私を抱きしめる彼の腕の力が強まった。
やはりこのくらいの歳の男の子に可愛いはあまり嬉しくない言葉のようだ。

「...名前さん」

彼は私の顔を自身の方を向かせてキスをした。
勿論今度は唇に。
その流れがあまりにも自然でまるで王子様のようだなんて考えてしまった。

「...あまり慌てて大人にならないでね。
そんなことされたら私の心臓がもたないから...」

気恥ずかしくて彼から視線を外すと彼は再び私にキスをした。

「僕だってこうしていると凄くドキドキしてヤバいんです。
だから名前さんも少しはドキドキしてくれないと困ります」

少しどころではないと内心反論しつつも私は抵抗することなく彼の腕に抱かれていた。
それはとても居心地の良い場所だったから。


「今日は練習試合でしたけど公式戦でも絶対彼を、海常に勝ちます」

そう力強く宣言した彼は先程までとは違い戦う男の目をしていた。

「だからずっと僕の側で見守っていてください。
貴方がいてくれたら僕はもっと強くなれますから」

本当は私なんていなくなって貴方は強い人なんだよと、そう知っていたけれど今はそんな貴方と一緒にいたいから。

「うん、ずっと側にいるよ」

今では私よりも大きくなった彼の手をぎゅっと握った。


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