優しい先輩

試合の翌日授業で居眠りをして寝ぼけて教師の頭を掴んでしまった火神君は呼び出しを食らってしまった。
そんな目立つ彼のおかげ、と言っては火神君に失礼だけど同じく居眠りをしていたテツヤ君は影の薄さま相まってお小言を逃れることが出来た。
火神君は苛立ちを抑えきれずに彼を睨んでいたけれどそれも当然の事だろう。



昼休み先輩方に呼び出された私達は買い出しを指示された。
私はマネージャーということで免除され先輩達と屋上で一年生のみんなの帰りを待つことになったのだけれど。

いってらっしゃいと彼らを見送り私は一緒に屋上に向かう。
その途中でみんなのジュースを買う先輩達を見て本当に優しい人ばかりだと改めて思った。
トレーニングが目的とはいえ高校生が2800円のパンを奢るだなんてあまりにも太っ腹な行動だと思うし。

「名字は何がいい?」

日向先輩が自販機にお金を入れて私にそう訪ねた。
別に何もしていない私まで奢ってもらっていいのだろうかと悩みながらも伊月先輩にたまには先輩らしいことをさせてくれと私が遠慮せず済むよう気遣う言葉をかけられ厚意に甘えることにしてミルクティーを買ってもらった。

お礼を言ってそれを受け取ると日向先輩に頭を撫でられた。
少し驚いて顔を見上げると日向先輩はしまった、という顔をした。

「っと悪い。なんか小さくて妹?がいたらこんな感じか?って思っちまって」

「日向んとこは弟だもんな」

テツヤ君以外の男の子に頭を撫でられたのは初めてだったので少しびっくりしてしまった。
彼からすれば私はチビの後輩にしか見えないだろうし本当に言っている以上の意味なんてないのだろうけど。
私が本当に年相応でテツヤ君がいなければときめいてしまったのでは?なんて考えた。
外見だけではない、誠凛のみんなはみんな良い人ばかりで優しくかっこいいことを知っているから。

「可愛いのはわかるけどあんまり名前ちゃんに触りすぎない方がいいと思うわよ。
怒りそうな人がいるからね」

リコ先輩はそう言いがらも私は遠慮なく可愛がるけどと言い私の頭を撫でた。

「怒るってどういうことだ?
あ、名字もしかして彼氏いんのか?」

生意気だと言って彼は私の頭を今度はくしゃくしゃと撫でた。

「ちょっと日向君!女の子の髪をそんな風にしちゃダメでしょう!」

リコ先輩はそう言ってクシで私の髪を整えてくれた。
別に対して気にしてはいなかったのだけれど文字通り私を可愛がってくれるリコ先輩のその行為の方が私を気恥ずかしくさせた。

「んでんで、名字ちゃんの彼氏ってどんな人?もしかしてうちの部の1年の誰かだったりして!」

小金井先輩は興味深々ということを隠さずに私に詰め寄った。
そんな彼を今そんなことをしたらセクハラになるらしいからやめておけと伊月先輩は止めに入ってくれたけれど小金井先輩は嘘!?と驚いていた。
彼に許可を得ていたし話てもいいのだろうけどどうしようかと悩んでリコ先輩を見るとすぐにそれを察しリコ先輩はいいの?という顔をしたので私は頷いた。

「黒子君と付き合ってるんだって」

「そっか、黒子と......」

リコ先輩の言葉をそのままさらりと受け流しそうになったところで小金井先輩は固まり場が一瞬静寂に包まれた。
そして一気にざわつきを取り戻す。

「え!?黒子?黒子ってうちの黒子ぉお!?」

「それ以外ないでしょ!何言ってんの?」

なぜこんなに先輩達が驚いたのか分からなかったけど困惑する小金井先輩にリコ先輩は呆れ顔でそう言った。

「いや、コガが驚くのも無理ねぇよ。
あいつあんな感じで...意外だな」

「ほんとにな。なんかあいつが生意気に見えてきたな。
いやまぁ元々ちょっと思ってたけど」

伊月先輩と日向先輩も小金井先輩と同じ考えらしくうんうんと頷いた。
しかし私のせいでテツヤ君が生意気だと言われてしまったのは少し申し訳ない。
でも私にとっては可愛くて仕方のない男の子なのだけれど確かに歳が近い同性の男の子から見れば冷静すぎて少々可愛げがなく見えるというのも納得はいくので何もフォローは出来なかったのだけれど。
それにそんな事で彼らがテツヤ君に態度を変えるような人達ではないことを知っているのだから。
土屋先輩はまぁまぁと日向先輩をたしなめて水戸部先輩は心配しておろおろとしていた。
本当に良い先輩しかいない部だと改めて実感した。

その後屋上に移動しながら主に小金井先輩に色んな質問をされ答えられる質問には答えていたけれど私の事はともかくテツヤ君側の質問には勝手に話してしまうのはどうかと思い言葉に詰まってしまうと切り込みすぎだと伊月先輩が止めに入ってくれた。
小金井先輩もしつこく食い下がることはなく素直にごめんなと謝ってくれたのだから本当に人が良い先輩だと思った。




「名前さんもどうぞ、凄く美味しいですよ」

テツヤ君は自分のパンを半分ちぎって私にくれた。
放課後は部活もあるのにこんなに貰ってしまっていいのだろうかと躊躇しつつも半ば強引に私の手に握らせたので彼の厚意に甘えることにした。
カツにフォアグラだなんて正直くどいのではないかと思っていたけれど確かに驚く程美味しかった。

「...しかし言われてみれば黒子って
名字には態度違ってた気がするな」

「いやもう2人がそういう関係だって知ったらめちゃくちゃいちゃついてるようにしか見えなくなっちまった」

伊月先輩と日向先輩の言葉を聞いてテツヤ君はお話ししたんですねと私に言った。
私がそれに頷くも彼は普段と変わらない表情でパンを食べた。
でもその時の彼はいつもより幸せそうに見えた。
それはただパンが美味しかったから、そういうことにしておいた。


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