いよいよインターハイ予選が始まる。
練習はハードなものになっていき部活を終え帰宅する頃には帝光でハードな練習を重ねていたとはいえ元々それ程体力がある方ではないテツヤ君もへとへとになって夜家にくることは殆どなくなっていた。
彼はそれが物足りないようでその分登校する前に私を抱きしめる時間が延びたように思う。
「寂しい思いをさせてすみません」
「毎日会えてるし大丈夫だよ」
彼は私の返事に難色を示した。
これは拗ねているなとすぐに気が付いてまた落ち着いたらデートしようねと提案するもあきらかに自分の機嫌を取る為に言った言葉だと彼はすぐに気付いたようで不貞腐れた顔をされてしまった。
「...中学の時はもっと会えなかったわけだし、今はほんとクラスも部活も一緒でこうやって登下校まで一緒に出来るようになったから、だからほんとそれだけで幸せなんだよ」
彼が恋人として過ごす時間が足りていないことを言っているのは分かっていたのだけれどそれもまた私の本心で。
フォローになっているかは分からない、でも取り繕うよりもいいかと思い本心を伝えた。
すると彼の表情は少し和らいだように見えた。
「わかりました。でも少し寂しかったので今日は名前さんの方からキスしてください」
「え...まぁ、はい、わかった」
別にそれ程酷いことはしていないのではないかと思いながらも私は周りを見渡して人がいないか確認してから彼にキスをした。
すると彼はあっさりといつもの彼の表情に戻り行きましょうかと手を繋いだ。
これは彼に上手く乗せられてしまったのだなとすぐに気が付いたけれどそれを言葉にはしなかった。
彼のそんなところも嫌いではないからだ。
好きな人の我儘というものはやはり信頼されているから、好意を持たれているからこその甘えからきているものだと分かっているから。
彼の事を私にとって誰よりもかっこいい人だと思っているのも本心だけれどそれ以上に可愛く見えているのもまた事実だ。
「身体、大事にしてね。テツヤ君無理しすぎちゃうから」
「はい、名前さんを悲しませるようなことはしませんよ」
彼の言葉を聞いて本当だろうかと考えてしまったのは中学時代の彼を知っているから。
本当に苦しいときや辛い時は彼が殆ど何も話してくれないことを知っているから。
それが私を信頼していないわけではなく私が大切だからこそだという事を知っているから。
「頑張ろうね、テツヤ君」
「はい、絶対に負けません」
私が、私だけが彼にしてあげられることなんて何もないけれと。
でも見守ってほしいと、それを望んでくれたから私はテツヤ君を信じて見届けるから。
貴方がどれだけバスケを好きだということを多分私が1番知っている筈だと、それは自信を持って言えるから。
「尊敬してる。大好きだよ、テツヤ君のこと」
「...嬉しいですけど今から部活なのにどうしてこのタイミングでそんな...」
言いたくなっただけだよと返すと彼はほんのりと頬を染めた。
普段はこちらが恥ずかしくなるようなことばかりだから久しぶりに彼のそんな反応の彼を見て嬉しく思った。
「ご存知だと思いますが僕負けず嫌いなのでまた後ほどしっかりとお返しさせていただきますからね」
彼はそう言って繋いでいた手を指と指を絡める形に握り直した。
「新協戦の後、楽しみにしておいてくださいね」
「...暫く試合が続くんだしもう少ししてからでもいいんじゃない?」
確かに試合の後普段程がっつり練習をすることはないから時間には余裕はあるけれど試合となるとまた普段の練習とは違う疲労があるだろうし、そう思って彼にそう伝えてみたけれど彼は首を横に振る。
「貴方とそういった時間を設けた方が僕は元気になれますから」
そんな言い方をされては私も何も言えなくなってしまう。
本当に怖い男の子になってしまったと、大人になる頃の彼を想像して楽しみではあるけれどそれ以上き恐ろしいと思った。
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