新協戦の日、自身よりも小さな選手達をあからさまに見下げた物言いをするお父さん。
そんなお父さんに抱き上げられたテツヤ君はフラストレーション満タンといった様子だ。
そんな彼を見て皆堪えきれず床を叩いて笑っていたけれど彼がボソッとつぶやいた一声でそれはぴたりと止んだ。
それにしも2mもある人に持ち上げられるなんて高さもかなりあるし少し怖かったのでは?と思うのにそれを表情には出さない彼はさすがの一言にすぎた。
「頑張ってね」
そんな彼と目が合い声にださずに口パクでこっそり彼にエールを送ると彼は硬い表情のまま頷いた。
火神君の言葉でみんなユニフォームに着替えコートに入る。
気合いは十分すぎるくらいだ。
最初はお父さんの高さに戸惑いながらもしっかりと高さ対策を練習していた火神君とパスを出すテツヤ君を中心に点数が決まりはじめ結果的には余裕を持っての勝利となった。
最後方に子供のような捨て台詞を投げ付けていったお父さんに火神君は苛立っていたけれどそこで何が言い返すようなこともしなかった火神君はやはり出来た人だとう思う。
お父さんもあんなことを言いながらも自身より背の低いチームメイトとは仲良くやっているようだし悪い人ではないのだろう。
きっと素直すぎたのだ。
何はともあれ誠凛高校は無事公式試合初戦を勝利で収めた。
試合の後今日も寝られなかった火神君の為に買ってきておいた新しい目薬を彼に渡した。
「...名前さんってやっぱり火神君のこと気に入ってるんじゃないですか?」
「そりゃあまぁ、いい人だと思うよ。
なによりテツヤ君の為にも元気でいてくれないと困るしね」
火神君なしではキセキの世代と渡り合えぬということは彼も分かっているようで私がそう返事をすると推し黙った。
素直に受け取った目薬をさす火神君を見て彼が試合前しっかりと眠れる日が早くくるよう願った。
試合以前に彼はまだ成長期が終わっていない気がするから、そんな高校生が睡眠不足というのはシンプルに心配だ。
「...なら僕が眠れなくなったら何をしてくれるんですか?」
「テツヤ君なら添い寝して抱きしめて頭を撫でてあげるよ」
今より子供だった頃どちらかの両親が留守にしていた時間互いの家で過ごすことはよくあり一緒にお昼寝をしたことは何度かあったけれどテツヤ君は決まって私の布団に入りこんでくっついて眠っていた。
今思い返せば本当に子供の頃の彼は可愛いかった。
勿論今も可愛さは沢山残っているけれどあの頃の記憶は別物だ。
「...そんなことをされたら朝まで眠れないの確定じゃないですか」
「人の体温ってあったかいから案外すぐ眠れるよ」
彼の苦言をそう受け流すと彼は眉間にシワを寄せた。
「まるで誰かとベッドを共にしたことがあるような口ぶりですね。
分かってますか?僕の今の年齢と性別を」
「...分かってるけど。
子供の頃は何度もテツヤ君と一緒に寝てたじゃない。それで言っただけだよ」
彼に返した言葉は半分本当で半分は嘘だった。
でも彼以外とベッドで眠ったのなんて前の人生の記憶だから許してほしい。
これは経験ではなく知識と思うことにしたのだ。
私はこの記憶をいつか彼に話すのだろうか?
いや、きっと話さない、話すべきではないと思う。
彼だってそんな夢物語のような話を聞かされたところで反応に困るだろうし自分が他人に話した事がないようなことを人に知られていただなんて複雑な気持ちになるだろう。
それに今は彼は私と同じようにこの世界で生きているのだから。
もう彼は物語の中に存在する主人公ではない、私の大切な幼馴染で恋人だ。
「...さっきご自身が言ったこと、忘れないでくださいね」
「うん、分かった」
別に彼が望むのであれば今夜したっていいのだけれどと考えながらも流石に声には出さなかった。
というよりこの歳でのお泊まりはさすがに両親の許可が下りないと思うし。
これからも試合は続いていく、その間当然授業もあるしテストだって待ち構えている。
だからこそ彼が本当にそんな自体に陥らないよう心から祈った。
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