甘すぎたジュース

「あ、おい、名字」

昼休み自販機に飲み物を買いに教室を出た。
テツヤ君も一緒に来ようとしていたけれどお手洗いにも寄りたかったのでそれを断り彼の分の飲み物も私が買ってくることにした。
勿論彼は最初は渋っていたけれどついでだからとたしなめ1人で教室を出たのだ。
そして自販機の前で何を買おうかと悩んでいたところに顔を見せたのは火神君だった。
先程教室で既に大量のパンを食べていたというのに彼はまた両手にパンを抱えていた。

「もしかして、足りなくて買い足し?」

「おお、最近いくら食っても腹が減って仕方ねぇんだよ」

彼はなんとか片手でパンを持ち自販機にお金を投入し顎でそちらを指した。

「奢ってやるから好きなの選べよ」

「...え、なんで?」

突然彼がそんなことを言った理由がわからず戸惑っていると彼は気恥ずかしそうに制服のポケットから私があげた目薬を取り出した。

「2回も世話になったからな。
たいしたもんじゃねぇけどお礼っつーことで」

あとこれもと言って彼は持っていた菓子パンを私の手に握らせた。
優しい人だということは知っていたけどこんなに律儀だとは思っていなかったので少し驚いてしまった。
というか名前すら把握されていないのでは?と思っていたくらいだ。

「...ありがとう、じゃあお言葉に甘えて」

まだ高校生である彼にご馳走になるのもどうかと思いはしたもののとりあえず今回は彼の厚意に甘えることにした。
彼にお礼を伝え今度はテツヤ君の分を買おうと財布を出した私にもう一本買うのか?と火神君は訊ねた。

「テツ...黒子君の分だよ」

すると彼は少し渋い顔をしながらも私が入れるより先に再び自販機にお金を入れた。

「黒子には俺が買ったって言わなくていいからな」

「え、でも教室帰ったら絶対お金返そうとすると思うんだよねぇ...だから言わないと変なことになっちゃうと思うから」

テツヤ君には代金は後でいいといって教室を出てきてしまったから。
テツヤ君も何かと奢ってくれようとするけれど彼もまだ親からお小遣いを貰っている身であるのでなにも理由がない時に奢り奢られるのは無しとしている。
そうでなくても小さな頃から彼のご両親にはよくしてもらっているし誕生日やクリスマスにプレゼントをもらったり食事をごちそうになったりしているのだから。

「...しゃーねぇな、じゃあまぁ、別に言ってもいいぜ」

火神君は渋々私の言葉を聞き入れてくれた。
見た目は一見怖そうなのに本当に物分かりがよく落ち着いた人だ。
火神君と一緒に教室に戻るとテツヤ君は火神君を見て首を傾げた。

「...どうして火神君と一緒だったんですか?」

「別に、たまたま同じタイミングになっただけだ」

火神君はぶっきらぼうにそう言って席に座り買い足したパンをむしゃむしゃと食べ始めた。
私は彼の隣の席のクラスメイトに少し席を借りると声をかけ座らせてもらった。

「はい、これ。火神君の奢りだから」

「え、...火神君ありがとうございます」

背中を向けている火神君にテツヤ君がお礼を言うと火神君はおーと一言返し二つめのパンを開封した。
テツヤ君は事情がわからず頭にクエスチョンを浮かべていた。

「一体どうしたんでしょうか」

「...そういう気分だったんじゃないかな?」

なんと説明してもいいか分からなかったので私は彼の疑問を適当に受け流し先程火神君に買ってもらった期間限定フレーバーの紅茶のパックにストローを刺し一口飲んだ。
というか説明をするとまず私が奢ってもらったことに対して変にヤキモチを妬きそうだと思うから。
なんというか彼は私に尽くしたいというか、甘やかしたい願望が少し強いのだ。

「あ、美味しい。テツヤ君私の一口飲む?」

「はい、いただきます」

テツヤ君は私の紅茶を一口飲んだ後自身のパックジュースにもストローをさして私にどうぞと差し出した。
彼のジュースは私には少し甘すぎた。

「あ、火神君も一口飲む?」

買ってくれたのは火神君だしと思ってそう声を掛けたけれど彼は振り返り甘いものは苦手だからいいと言った。

再び背を向けた火神君からテツヤ君に視線を戻すと不機嫌な顔でこちらを見つめる彼に、しまったとすぐに後悔した。

「...いまここで間接的にではなく直接しましょうか」

「ご、ごめんなさい。それは勘弁してください」

彼がやろうとしていることをすぐに理解して謝罪の言葉を口にした。
彼はまったく、と呆れて私の紅茶を奪うと一気に飲み干してしまった。
そして彼は彼の飲んでいたジュースを私に押し付けこちらをどうぞと言った。

私はそれを素直に受け取り喉に流し込んだ。
でもやっぱり私にとってそれは甘すぎた。


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