待ちわびた戦い

正邦戦で4ファールをもらい次の試合の事も考え火神君が引っ込むはめになってしまった。
途中テツヤ君と意見のすれ違いで少し揉めてしまったけれど最終的に火神君は納得しみんなを応援する形に落ち着いた。
勿論しばらくの間イライラとしていたけれどそれは彼の負けん気からくるものだし悪い事ではないと思う。
それに信頼からきているのだと分かってはいるけれどテツヤ君の物言いも少し容赦がなさすぎたと思うところもあっただろうし。

そして先輩とテツヤ君で誠凛は無事に決勝へのコマを進める事が出来た。
勝利を喜ぶ部員達を見て、去年の雪辱を果たせたことに涙を浮かべていたリコ先輩を日向キャプテンはまだ泣くのは早いと発破をかけた。
本当にいいチームだと心から思った。
今にも溢れそうな涙を拭ってもらおうとリコ先輩にハンカチを差し出すと彼女はそれを受け取りありがとうと言ってハンカチで目頭を抑えた後すぐに顔を上げ普段のキリリとしたカントクの顔に戻った。

本当にかっこいい、強い人だと思う。
きっと彼女がいなければ誠凛はここまで強くなっていなかったと思う。
多少苦手なことはあれどカントクとしての彼女の力量ががどれほどかということはマネージャーとして1番近くで見ていた私にもよく分かった。

そしてすぐ近くのコートで戦っていた秀徳高校も試合を終えた。
対戦相手との圧倒的なスコアの差が王者としての格を見せつけていた。

午後から誠凛高校はこの王者に挑むのだ。
火神君もテツヤ君も、他のみんなが彼らを見て闘志を燃やしていた。




ロッカールームに戻るとリコ先輩はすぐに部員達に指示を飛ばす。
私にもよろしくねと部員達のケアを頼まれた。
入部してから私はリコ先輩にマッサージを習っていた。
まだ彼女程完璧ではない為彼女程しっかりと選手達にマッサージを施すことは出来ないけれどある程度疲労に効果のあるマッサージは出来るようになった。
それはカントクにもお墨付きを貰っている。

両親も練習に付き合ってくれたのもあって想像よりも早く上達することが出来たのだから本当にありがたい話だ。

試合に備え睡眠を取る火神君を横目に見ながら私は伊月先輩のマッサージをしていた。
その時テツヤ君からの視線が痛いくらいだったけれどそれに気付いたカントクが気を使って私とマッサージを変わったので代わりにテツヤ君のマッサージを施した。
前より少し筋肉が付いた気がすると思い彼を見上げるとふにゃりと顔を緩ませたものだから私は少し恥ずかしくなってすぐに彼の足に視線を戻した。

試合の合間に彼のそんな顔を見ることなんて想像していなかったので油断してしまっていたのだ。

試合の最中はあんなにかっこいいのに時々妙に可愛い表情をするものだから、そういう所が可愛くて仕方ない。
そんな彼にいつも振り回されっぱなしだ。

マッサージを終え一旦お手洗いに抜けた彼が再び戻ってきた時には少し顔付きが変わっていたように見えた。
彼も次の試合に向け気を引き締めたのだろう。
試合開始10分前になり再び試合会場へと入った。
秀徳もほぼ同じタイミングで入場しており両校が再度気合いを入れる為に円陣を組みキャプテンが鼓舞を入れた。
日向先輩のそれは良い意味でリラックスも感じられたし十分な気合いもチームメイトに伝わる良いものだと思った。

テツヤ君だけではない、私もこの学校に入り誠凛高校のバスケ部の一員になれたことが本当に良かったと思った。

試合が始まる直前緑間君に否定に近い言葉をなげかけられたテツヤ君は彼の目をまっすぐ見て自身の言葉を口にした。
それは負けず嫌いの彼らしい言葉。
チームメイトを信頼しているからこそ出た言葉だった。

緑間君はそんな彼を見下ろし眉間に皺を寄せていたけれどきっと彼の気持ちも少しは理解していたのだと思う。
だって緑間君もまたチームメイトを信頼しているのだから。

テツヤ君の事も尊敬し認めてくれていた人なのだから。
もしも彼がそんな緑間君と同じ学校に行っていたとしたらまた未来は変わっていたのかもしれないと思った。

午後5時になった。

いよいよ決勝戦が始まる。

様々な学校が秀徳と誠凛の試合を視察に来ている。
殆どの観客は秀徳が勝つと思っているだろう。
静かに闘志を燃やす火神君が緑間君に宣戦布告した。

試合開始のブザーが鳴りボールが宙に浮いた。

「頑張って...」

無力な私はただ誠凛高校の勝利を祈った。


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