気まずい食卓

本当にギリギリの試合だった。
みんなが限界まで力を出し切り誠凛高校は無事勝利を収める事が出来た。
再びロッカーに戻ると限界まで張っていた緊張が解けたのか試合に出ていたみんなは動けなくなるほど疲労していた。
中でも火神君は深刻だ。

取り敢えず移動する為に火神君を誰かが抱えることになりジャンケンで決めることになったのだけれどよりにもよっていちばん華奢なテツヤ君が負けてしまったので不格好になりながらテツヤ君は火神君をおぶろうとした。
ただでさえ彼も試合で疲れているのだから私も一緒に2人で支えて移動しようと言ったのだけれどそれをテツヤ君は全力で拒んだ。

そして無理やり歩き出した彼が早々に火神君を落としてしまったのは改めて言うまでもないことだろう。
店に着くと黄瀬君と笠松先輩が2人でもんじゃ焼きを食べていた。
そんな偶然にみんなが驚く中取り敢えずこのままではいられないので火神君にタオルを差し出した。
分かっていたのにごめんねと心の中で火神君に謝罪をして。
中に来ていたTシャツまで汚れず済んだ事だけが幸いだ。




「あの、テツヤ君、私あっちにいた方がいいと思うんだけど」

「...今日はさすがに疲れたので、僕を回復させる為だと思ってここにいてください」

以前彼は黄瀬君にはあまり近付いてほしくないと言っていたしリコ先輩の隣に座ろうと思っていた私を彼は手を握って引き止めた。
そんな私達を火神くんと黄瀬君は訝しんで見た。
そういえばまだ火神君は私達が付き合っていることを知らないのかもしれないと気が付いた。
先輩達に報告した時一年生のみんなはいなかったし当然部活中は私もテツヤ君も必要以上の話をしなかったし揶揄うようなことを言う先輩もいなかったから。
どうするのだろうと思って彼を見るけれど首を傾げられただけだった。
この状況で可愛い、なんて思ってしまった私もだいぶ気が緩んでいるのかもしれない。

「あの、お邪魔してしまいすみません」

目が合った笠松先輩にそう言って頭を下げると大袈裟すぎるくらい彼は動揺し私から顔を背けてしまった。

「あーすんません、笠松先輩は女性が苦手で、いつも女の子に話しかけられたらこんな風になってしまうんスよ」

「あ、そう、なんですね...」

そんな描写はあっただろうかと記憶を辿ってみたけれどイマイチ思い出せなかった。
忘れているだけかもしれないけれどもしかしたら設定としてあったのかもしれないと思いそれ以上深くは考えないことにした。
でも試合中の彼はカッコよかったしモテそうだから平凡な私に対してすらこの反応なのだから普段は苦労しているのではと内心考えた。

「名前さん」

「な、なに?」

テツヤ君はじろりと私を見た。
もしかして笠松先輩をかっこいいと評したことを読み取られてしまったのだろうか?
だとしたらいくらなんでも感が良すぎて少し怖い。

「ていうか黒子っちが女の子のこと名前?で呼ぶの珍しいってか、そもそも男に対してもしないっスよね?」

黄瀬君の言葉に火神君も言われてみれば、と同意した。
私はどうするのかと思いテツヤ君を見るとあっさりとそれを言葉にしてしまった。

「はい、彼女は僕とお付き合いしていますから、特別な人なので」

黄瀬君も火神君も一瞬固まり黄瀬君は驚きのあまり大声を上げそうになった。
それに気付いたテツヤ君は即座に彼の口を手で塞いだ。
その時彼は鼻まで覆ってしまったかは黄瀬君は息が出来ないと呻き声をあげながらテツヤ君の腕をぺしぺしと叩き訴えた。

「静かにすると約束出来ますか?」

いつもとなんら変わらぬ表情でそんな事をしている彼に火神君も笠松先輩も若干引いている。
黄瀬君がぶんぶんと頷いたのを見てようやく解放し黄瀬君はぜえぜえと肩で息をしていたのを見てやっぱりテツヤ君は怒らせてはいけないと再認識させられた。
一体これで何度目だろうか。

「それにしても黒子っちに彼女なんて...正直そういうことに興味あるなんて思ってなかったっスよ」

「恋人がほしいと望んでお付き合いしたのではなく彼女が大切な人だったから誰にも渡したくなくてお付き合いをしているんです。
なので別に黄瀬君に仲良くしてほしいわけでもないので彼女とまで親しくしていただかなくて結構ですので」

前も思っていたけれどやっぱり彼に対する物言いは少し棘があると思った。

そしてそんな話をしている間に緑間君と高尾君が店に現れた。
顔を見た途端2人は出ていこうとしたけれど豪雨に負ける形ですぐに店内に戻った。
高尾君によって連れていかれてしまった笠松先輩の先に緑間君が座る。
テツヤ君、火神君、黄瀬君に緑間君という気まずいメンバーのなかで最も場違いな私は逃げ出したくなったけれどそれを察したテツヤ君に手を掴まれてしまっていた為逃げ出すことは出来なかった。
気まずい空気の中テツヤ君がお腹が空いたから注文しましょうと言ってメニューを開いた。
マイペースにも程があると思う。

テツヤ君は焼き上がったお好み焼きを私のお皿に切り分けてくれた。

4人が話しているのを聞きながら私は静かにお好み焼きを食べた。
そういえば混ぜて焼くだけとはいえ彼の作ってくれた料理を食べるのは初めてだと気が付いた。

気まずい空気の中でもその時食べたお好み焼きは美味しかった。


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