中学時代のマネージャー

昨日テツヤ君が拾った犬は彼そっくりだった事もありテツヤ2号と名付けられバスケ部みんなで面倒を見ることになった。
その上で必要なものを買う為に私は一旦部活を抜け買い出しに出た。
買い物を終え体育館に戻るとそこには誰もおらず今日の予定を書いたホワイトボードにはプール練習と書かれていた。
どうしたらいいだろうかと思い携帯を開くとメールが一件届いていた。
リコ先輩からだ。

『入り口近くに置いてある荷物を持ってここまで来てね』

メールには分かりやすい地図の画像が添付されていた。
指定されたバッグは持ってみるととても軽かった。
何が入っているのだろうかと中を覗いてみるとそこに入っていたのは水着だった。
おそらくこれを着ろということなのだろうということはすぐに理解したけれどプール練とは言えマネージャーの私が水着に着替える必要性はあるのだろうかと疑問を抱いた。
でも見てしまった以上無視するわけにもいかず指定された場所へと向かった。

私はその時重要なことを忘れていた。
そこには彼女が現れるのだと言う事を。







「テツ君!久しぶり!会いたかったぁ!」

更衣室でリコ先輩の用意した水着に着替えプールサイドに足を踏み入れた時そんな声が聞こえ私はそこで思い出した。
桃井さんが会いにきているということを。
テツヤ君に抱き付いた彼女を見て私は慌てて隠れてた。
その時一瞬火神君と目が合った気がした。

プールは声がよく響くからみんなの声は離れていたってよく聞こえた。
彼に会い嬉しそうに抱き付いた桃井さんを普段と変わらないやや素っ気ない態度で接する姿に色んな意味で複雑な気持ちになった。

私がいない世界での彼の事は分からないけれど今の彼の事は知っているから。
きっと明確な告白をされていないからこそ強く拒絶をしていないのだと思うけれど彼の態度は彼女にとって少し残酷に思えた。
というか何よりも私に対しても、だ。
彼と思い合って付き合っている私がいる上で女の子の抱擁を受ける彼に私は初めて苛立ちを覚えた。
それを嫉妬と呼ぶのだと自覚すると少し恥ずかしくなったけれどこれは彼を好きであれば当たり前の事だろうと自分を納得させた。

2人とも悪意はない。
多分彼女はテツヤ君が私と付き合っていることを知らない。
テツヤ君の好きなところを語る彼女は女の私から見てもそれはそれは可愛かったし理解出来た。

だからあまり彼女を責めたくなんてなかった。
でも一つだけ目を瞑ることが出来なかった。

それはリコ先輩に対する発言だった。
私は悩みながらも意を決して再びプールサイドに戻った。

「あの、すみません。
私誠凛高校バスケ部でマネージャーをしています、名字名前と申します。
桃井さん、初対面でこんな事を言って気を悪くさせたらすみません。
...私同性間でもセクハラってあると思うんです」

突然現れた私に桃井さんを含めみんなが驚いた顔で私を見た。
その中でもテツヤ君の視線が1番痛いくらいに私に突き刺さった。

「え?」

桃井さんは驚き私の言葉の意味をすぐに理解することが出来なかったようでぽかんとした顔をした。
彼女に悪気がないことは分かっている、素敵なところも沢山知っている。
でも私にとってリコ先輩は大切な人と呼べるくらい大好きな人になっていたから。
そこだけは流す事が出来なかった。

「胸の大きさなんて自分でどうにか出来るものじゃないしたとえ大きくても小さくてもリコ先輩の価値はそんなことで変わらない、そのくらい素敵な女性なんです。
それをましてや異性がいる前でサイズを晒して揶揄うようなこと...あまり褒められたことではないと思います」

そこまで言って少し厳しく言いすぎただろうかと後悔した。
でも桃井さんは私の言葉に顔を曇らせて動揺した顔をみせたけれど私の言葉に納得してくれたようで素直にリコ先輩に頭を下げてくれた。
それを見て私はほっと胸を撫で下ろした。
彼女は賢い人だと知っていたから、だからこそ不躾に人のコンプレックスに触れるような事をしてほしくはなかった。

リコ先輩は私に抱き付いて大好きだと何度も言ってくれた。
私もそんな彼女を抱きしめた。
そんな私達をテツヤ君はじっと見ていたけどその視線は無視して。
ここで彼が私と付き合っているだなんて桃井さんに伝えてほしいなんて望んでいない。
いくら誠凛のみんなが私と彼の関係を知っているとしてもそれを彼女は知らないのだから。
私は今更彼と別れる気なんてないけれどだからと言って彼女を不必要に傷付けることはしてほしくなかった。

この後桃井さんはテツヤ君と2人で話をすることになった。
リコ先輩はいいの?と目線を送ってきたけれど私は頷いた。

プールを去る際テツヤ君は私の手を取り引き留めようとしたけれど私は彼の手を解いてその場を後にした。





「ねぇ名前ちゃん、良かったの?
黒子君が彼女をそういう目で見ていないのは私が見てもわかるけど、でも彼女は違うし...」

「はい、大丈夫です。...正直テツヤ君にはイラッとする部分もありますけど。彼女わざわざテツヤ君にアプローチをする為にここに来たのではないと思いますし」

私が彼女を嫌いになれないのはきっと中学時代学校に行かなくなった彼のことを心配して何度も家を訪ねてくれていた事を知っているからだ。
彼女もテツヤくん同様変わっていくみんなを見て悲しい思いを彼と共有し傷付いた女の子だと知っているから。

「...それよりすみません、この後もう一度抜けてもいいですか?
買い忘れてしまったものを思い出して...」

私のその言葉を聞いてリコ先輩はすぐ許可をくれた。
寧ろ今日はこの後軽い調整をするだけだからそのまま帰っても構わないと言ってくれたので私はその言葉に甘えることにした。
リコ先輩に嘘をつくことは心苦しかったけれど私は大切な事を思い出したのだ。

彼女がここに来ているということはこの日彼も火神君に会いにくる、という事を。


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