時として傷付ける

私はうっかりしていた。
彼らを探しに出たはいいものの2人がどのストバス場で出会うのかまでは特定出来ていなかった。
1箇所めは違った、2箇所めも。
果たして間に合うのだろうかと次のストバス場を地図で確認し必死で走って到着したところで誰かとぶつかってしまった。
尻餅をつきそうになったところで腕を掴まれて私は倒れずにすんだ。

「す、すみませんでした」

慌ててお礼を言い見上げた彼を見て私は目を見開いた。
なんせ私を支えてくれたのは青峰君だったのだから。
固まる私に眉間に皺を寄せるも彼は気をつけろよ、と声をかけその場を立ち去った。
そんな彼の背中を見送った後私はコートに入り茫然と立ち尽くしていた火神君に声をかけた。

「は、な、なんでお前ここに...」

「...買い出し、忘れたものがあって、また出てたの」

突然私が現れたことに驚く彼に持っていた袋を彼に見せた。
それは本当にさっき買ったものだ。
備品ではない、彼に使う為に買ったテーピング用のテープとコールドスプレーだ。

「...ごめん、鬱陶しいかもしれないけれど今はこれだけさせて」

私は袋からテープを取り出し彼に見せた。
火神君は苛立ちを感じながらも私の言葉を聞き入れベンチに座ってくれた。
こんなことをしても気休めにしかならないことは知っているけれど知ってなお放ってなどいられなかった。
火神君とはこの後しっかり家で休むと約束してくれたのでその場で別れた。
リコ先輩には黙っていてほしいと頼まれたのを一応了承はしたけれどそんな嘘が彼女に通じる筈がない事を知っている私は苦笑いを浮かべてしまった。
それに何も言わなかった火神君もきっとそんなこと理解しているのだろうなと思った。







「名前さん...」

その後もう一度ドラッグストアにより念の為治療用の衛生商品を買い足し家に帰ると自宅の前でテツヤ君が立っていた。
どうやら部活の方は終わったらしい。

私は家の鍵を開けドアを開き中に入る。
彼がただその場に立ち尽くして動こうとしなかったので私は閉じかけたドアを抑え彼に声を掛けた。

「入らないの?...話したいことがあって待ってたんでしょう?」

「あ...は、はい、すみません...」

彼は気まずそうな顔でそう言って家に入った。
私は先程走り回ったせいで汗だくだったので先にシャワーを浴びてきていいかと彼に訊ねると彼は少し動揺しながらもはいと返事をしたので先に私の部屋に行くように促した。

熱めのシャワーを浴びた。
なんだか今日はどっと疲れたとため息をついた。
もうゆっくりとお風呂に入ってしまいたかったけれど彼が待っているのだからそういうわけにもいかず急いで髪と身体を洗い身体を拭いて服を着た。
もう赤ん坊の頃からずっと一緒に過ごした相手だ。
Tシャツにショートパンツというラフな格好をしある程度髪を乾かし彼の待つ自室に向かった。
ドアを開けると彼は床に正座して私を待っていた。

「...いいよ、そんなにかしこまらなくても」

私はベッドに腰をかけ隣をぽんぽんと叩いた。
彼は躊躇しながらも素直に私の隣に座った。

「それで?テツヤ君が話したいことって?桃井さんの話?」

「...彼女は、中学時代マネージャーをしていて」

「あーその辺の話聞いてたから大丈夫だよ。それ以外で何かあるなら聞くけど」

自分で言っておきながら嫌味な物言いになってしまったと後悔した。
でも私の気分が良い筈もないということを理解しているのか彼はそれに反発するような態度は取らなかった。

「...すみません、彼女とは全中以降話をしていなかったので...名前さんのことは話せていませんでした」

「...まぁ、そうだよね」

分かっていた。彼は子供の頃から私の事を好きでいてくれたけれどそんな話をわざわざ人にするタイプの人間ではない。
だから桃井さんもテツヤ君が別の女の子に恋をしているなんて知らなかったのだろう。

「...テツヤ君はさ、私が動けない火神君に肩を貸すことすら嫌だって言ったじゃない?」

「...はい、...すみませんでした...」

彼が強く彼女を拒まなかった理由も彼女に対し下心が無かったからこそ勢いに押されされるがままになっていたのだと分かっている。
でもそれを許容出来るかどうかは別の話だ。

「たとえば私が水着でテツヤ君以外のバスケ部の誰かに抱きつかれてそれを強く拒絶することもなくされるがままになっているのを見ても何とも思わない?」

「うっ...そんなの、絶対に無理です、嫌です」

彼は泣きそうな顔でこちらを見た。
こんな顔をしてほしかったわけではないのに。

「...分かってくれてるならもういいよ。ほら、仲直りしよ...」

私が立ち上がって彼に手を差し出すと彼はその手を取らずに私に力いっぱい抱き付いた。
よしよしと落ち着かせるために彼の背中を撫でるとほんの少しプール特有の塩素の匂いが香った。

「...桃井さんにはきちんとお話ししました。
...名前さんとのことを...」

「......そっか...」

彼女は泣かなかっただろうか。
でもそんなことを私が訊ねるのは彼女にとって失礼なことだというのは分かっているから私はそれ以上何も言わずに彼の頭を撫でた。

「僕が抱きしめたいと思うのも抱きしめられたいと思うのも名前さんだけです。
...悲しい気持ちにさせてしまい申し訳ありませんでした...」

「もう、大丈夫だよ」

彼の胸を優しく押して彼の顔を見上げて目を閉じた。
触れた唇がいつもより冷たかったのはきっとそれだけ彼が怯えていたことの証明だろう。

私に嫌われてしまったかもしれない、と。


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