決戦前夜

翌日予想通り火神君がバスケをしたことはリコ先輩にバレ、保健室に逆立ちで向かうことを命じられた火神君はそれに従い体育館を後にした。
それを追いかけるように出て行ったテツヤ君には誰も気付かなかった。

苛立ちを抑えきれないリコ先輩を落ち着かせようと声を掛ける日向キャプテンを見てやっぱり2人はいいコンビだと思った。
次の試合は青峰君のいる桐皇学園だ。
全力でバスケ部とカントクとして日本一を目指し指導に全力を尽くしている彼女が苛立つのも無理はない。
私は無意識で彼女の手を握ってしまった。
うっかりテツヤ君にするのと同じようにしてしまったとすぐに気が付いて慌てて手を離したけれどリコ先輩はそんな私を思い切り抱きしめたので私も彼女を抱きしめ返した。






部活を終えいつもと同じように彼と家への帰路を歩く。
不思議と会話は少ない。
少し気まずくなって私から彼に話かけた。

「明日はいよいよ青峰君と、だね」

「はい...今日、火神君から聞きました。
昨日名前さんも青峰君に会ったそうですね」

火神君にそこまで見られていたとは思っていなかった。
少し火神君に申し訳ないことをしたと思った。
あんなところを人に見られたくなかっただろうし。
もっとも彼が負けるところを見たわけではないのだけれど。
彼の問いに私は今更隠すようなことでもないと思い素直に認めた。

「何か話をしたわけでもないしプレイを見たわけでもないけど...迫力があるっていうかオーラ?があるというか...中学の時に見た時より更に凄みが増してた、っていうか...ごめん、上手く言えない」

きっと1番しっくりとくる言葉は恐怖、だ。

でもそんな事を言える筈もなく私は言葉を濁した。
隠した所できっと彼には私の考えていることなんてバレてしまっているのだろうけど。

「青峰君と敵として戦うのって、辛い?」

「辛い、わけではないです。後悔はあります。
...でも彼と唯一まともに分かり合えるのはバスケですから。
だから僕は彼と勝負することを望んでいるのだと思います」

悩みながらも前だけを見る彼はやっぱりかっこいいと思った。
繊細なところはあったけれど昔からこういう一面はあった気がする。

「そっか...なら、明日が楽しみだね」

「はい、...絶対に勝ちます」

彼の目は怯む様子はない。
やる気満々、勝ち取ると闘志に燃えていた。

「じゃ今日はしっかり食べて早く寝るんだよ」

「...また子供扱いしましたね」

彼は不貞腐れた顔をしたけれどあまり強く否定するようなことはしなかった。
おそらく仲直りしたとはいえ桃井さんの件でまだ彼は私に罪悪感を持っているのだろう。

試合前に余計なことをしてしまっただろうかと少し不安になった。
そんな話をしているうちに家の前に着きお互い足を止めた。
私は彼の方を向いた。

「...時間が出来たら今度デート、しようね」

もう怒ってなんていないという気持ちを込めて彼の手を握り私からキスをして。
それじゃあね、と彼に手を振り家に入ろうとしたところで後ろから抱きしめられた。

「...やっぱり、もう少しだけ...駄目ですか?」

お腹に回された彼の手を撫でた。

「いいよ、おいで」

今子供に言うように言ったのはわざとだ。
彼がわがままを言えるよう、言っていいよというメッセージを込めて。
自宅の鍵を開けドアを開きいつものように彼を自宅へ招いた。
靴があったから今日は既に母が帰ってきているのだろう。
それに彼もすぐに気が付いて顔を見合わせた。

別に今更2人でいるところを見られたところで何も問題はないのだけれど今日彼がどんな気分なのかで話は変わる。

「...すみません、あとで僕の部屋に来てくれますか?」

耳元で私にだけ聞こえる小さな声で囁いた彼。
私が声を出さずに頷くと彼は静かに入ったばかりの家を出た。
きっと甘えたかったのだろう。
リビングにいた母にただいまと声を掛けまたすぐにテツヤ君の家に行くと伝えると相変わらず仲が良いと揶揄われてしまった。

私はそれを軽く流して自室に戻り制服を着替えた。

携帯と財布だけを持ち早々に家を出た。
彼の家に行くと想像通りその日はべったりとくっついて離れない彼を私も沢山抱きしめた。
昨日彼と喧嘩のようなことをしてしまったけれど多分明日の試合には影響がなさそうだと分かりほっと息をついた。


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