「あの、変じゃないですか?」
「全然変じゃないわよ!凄く似合ってる!」
そういう話じゃないと思いながらもリコ先輩は可愛い可愛いと私を褒めちらかすものだから強く言うことは出来なかった。
合宿がスタートした。
私は以前同様にリコ先輩の用意した水着を渡されて、素直にそれに着替えた。
でもそれは今彼女が着ているものとは違う。
デザインはセクシーというよりは可愛いものだったけれど肌の露出はそれなりのもので。
「私もカントクが着てる水着がいいです」
「ごめんね、でもその水着名前ちゃんに似合うと思って選んだものだったから今度はちゃんと見たくって!」
そう、この水着に身を着けたのは2度目だった。
前回は桃井さんのこともあってほんの数分で着替えてしまいその水着について触れることもなかったのだ。
「あと日焼けしたら痛いので困ります。
背中までしっかり日焼け止め塗れていないので」
夏の太陽が照らす海辺でその紫外線を遮るものはなにもない。
あっという間に焼けてしまい今夜お風呂で苦しむことは目に見えている。
丁度良い言い訳だと思いそれを訴えてみたけれど彼女ははい、と私に強め日焼け止めを手渡した。
「...後ろは自分ではきちんと塗れないです」
「僕が塗ってあげますよ」
背後から急に声が聞こえ驚いた私はリコ先輩に抱きついてしまった。
彼女は私をそのまま抱きしめてくれたけれどすぐにテツヤ君に引き剥がされ手に持った日焼け止めを奪われてしまった。
振り返って見たテツヤ君はいつもの練習と同じTシャツに短パン姿だ。
尚更私が水着を着なければいけない理由が分からない。
「じゃあ黒子君よろしくね〜」
彼女はそう言って私たちに手を振った。
私はテツヤ君に手を取られ日陰へと誘導された。
「...いや、あの、テツヤ君」
「後ろ向いてください」
やっぱり自分でやると言いかけたところを食い気味でそう指示されてしまった私は渋々彼に背を向けた。
後ろで日焼け止めのキャップを外し中身が絞り出された音が聞こえその後すぐに彼の手が私の背中に触れた。
日焼け止めの冷たい感触が彼の手の動きに合わせて身体に伝わってきた。
日焼け止めの冷たさに対し彼の掌は温かいものだから尚更ぞわぞわとした。
「っ、て、テツヤ君!そこは自分で塗れるから!」
肩から背中、腰へと手が触れる。
そして脇腹まで伸びるものだから私は彼の手を掴んでそれをやめさせようとしたけれどそのままお腹まで手を伸ばされ後ろから抱きしめられてしまった。
「...刺激が強すぎました」
彼はそう言ってそのまま私の私の肩に顔を埋めた。
彼の息が肌にダイレクトにあたる。
彼の顔を見ればほんのりと赤くなっていた。
背中もお腹も、彼にそんなところを直接触れられたのは初めてのことだ。
絶対に私の方が恥ずかしい思いをしているのに彼にこんな態度を取られてしまったせいで私の羞恥心は更に増してしまった。
「...前もプールで着てた水着ですよね?」
「よく覚えてるね」
「当たり前じゃないですか...」
ぎゅーっとお腹に回された腕に力が入る。
贅肉一つない彼にこんなふうにお腹に触れられているのは恥ずかしく仕方なくてその手を再び退けようと頑張ってみたけれどそれはかなわなかった。
「あの時は言えませんでしたけど、凄くドキドキしました」
「...そ、そっか」
気まずい沈黙。
でも今は合宿中でいつまでもこうしているわけにもいかないということは私も彼も分かっていた。
彼はゆっくりと私から距離を取り、自身のバッグから薄手のパーカーを取り出し私に差し出した。
「でもあまり人には見せたくないのでこれを羽織ってください」
「...これ、最初から貸してくれてたら日焼け止め塗らなくてよかったんじゃないの?」
私はそう言って彼をじっと見たけれど彼は一瞬悩んだ後いつもの顔に戻り堂々とした態度で言った。
「すみません、僕がしたかっただけです」
なんだそれはと固まる私の肩に彼はパーカーを掛けた。
じわじわと怒りと羞恥心が増していく。
「...暫くハグもキスも禁止ね」
「えっ、嫌ですけど」
彼が嫌だとか今は関係ない。
彼のパーカーに袖を通し上までしっかりとファスナーを上げた。
彼にとっても少し大きいサイズだったようで下まですっぽりと覆られてしまった。
「...なんだか余計...いえ、なんでもないです」
彼の言わんとすることをなんとなく察してしまった私はいたたまれなくなって彼の頬をつねった。
彼は痛いですと言ってその頬をさすっていたけれどどこか顔が緩んでいる。
「...余計なこと考えずに合宿に集中してね」
「はい、頑張りますので先に充電させてください」
彼は私が避ける隙も与えずにキスをした。
さっきダメだって言ったのにと睨んでみたけれど私を見つめる彼の顔は緩んでいた。
みんなの元に戻ると遅すぎるとリコ先輩に叱られ罰として砂浜を走らされた彼を見て少しスッキリした私は冷たい女なのだろうか。
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