「凄くヒヤヒヤしたよ」
「すみません、心配させてしまいましたね」
試合を終え2人で歩くいつもの帰り道。
いつものように一日を振り返る。
霧崎第一との試合、審判を欺きながらラフプレイを繰り返す試合展開、ボロボロに傷付いていく木吉先輩。
誠凛のみんなが怒りに燃えた。
それは当然テツヤ君も同じで、後半の彼は怖いくらいの迫力があった。
途中顔面に肘を食らいそうになった時は知っていた筈なのに一瞬時が止まるほどの恐怖を覚えた。
「...あの時、避けられてよかった」
「そうですね。あのまま受けてしまっていたら多分暫くダウンしていたと思います」
過ぎたこととはいえテツヤ君があまりにもあっけらかんと話すものだからこちらも気が抜けてしまう。
切り替えの早さは本当に彼らしい。
でもそれは多分戦った彼には花宮君達霧崎第一のメンバーが決して卑怯なだけではなくバスケの練習もしっかりしてきたのだろうという事を察したから、というのもあるのだと思う。
「でもこれで次はWCだから...ほんと怪我とか病気とか、しないでね?」
「はい、それは勿論。
名前さんも僕を応援する為にも身体には気を使ってくださいね」
分かってるよと返事をした頃家に着いた。
明日はリコ先輩の提案で温泉に泊まることになっている。
私はそのまま合宿を始めることを聞かされているけどみんなには秘密にしておくように言われているので彼にも話さずおやすみなさいを言って別れた。
そういえば確かそこで桐皇のメンバーと出会う筈だという事を思い出した。
さつきちゃんとプールで話をした後、改めて体育館で再会した時彼女はリコ先輩のコンプレックスを揶揄うような発言はしなかった。
だからそういう心配はないのだろうけれどきっと宣戦布告はする筈だ。
私はその場にいない方がいいのだろうかと考えてみたところであまり意味はない気がする。
その時の流れに身を任せるしかないだろう。
夕食を食べお風呂に入って明日の荷物を確認して日付が変わる前にベッドに入った。
最近よく眠れるようになったのは毎日が充実しているおかげなのだろうかと考えながら目を閉じればすぐに私の意識は薄らいでいった。
「テツ君、大ちゃんとは話したの?」
「はい、先程。スポドリもいただきました」
結局私は誘われるがままにリコ先輩とお風呂に入り、そこにさつきちゃんは現れて私を見るなり抱きついてきた。
ダイレクトで彼女の豊満な胸が押し付けられ私は腰が引けてしまったけれど彼女は構わず擦り寄ってくる。
いくらなんでもスキンシップが激しすぎて同性の私でも恥ずかしくなってしまいリコ先輩に助けを求めると私の身体を引き寄せられて今度はリコ先輩に後ろから抱きつかれるような形になった。
前からはさつきちゃん、後ろからはリコ先輩に挟まれるという男であれば夢のような状況で2人は話しを始めてしまった。
どう考えてもおかしな状況に抜け出そうとしたけれど何故か2人にがっちりと拘束されていてそれは叶わず結局2人の話が終わるまで私は2人の間で気まずい時間を過ごすはめになってしまった。
「そっか...、うん、よかった。
あ、私はね、さっき名前ちゃんと一緒にお風呂だったんだよ〜」
お風呂を出て飲み物を買う為に自販機を探していた所で少し先にお風呂から上がったさつきちゃんとまた出会い彼女は人懐っこい笑顔で私の腕に腕を絡めて着いてきた。
そこでベンチで休んでいたテツヤ君に出会ったのだ。
「...へぇ、そうなんですか」
「名前ちゃんのお肌ってすごくすべすべでね、柔らかくてぇ」
「あの、ちょっとさつきちゃん?」
どうしてさつきちゃんがテツヤ君にそんな話をするのか分からず止めに入ろうとしたけれど彼女はそんな私を気にする素振りもなく私の腰に抱きつきながら話を続けた。
「気持ちよくて抱き心地が癖になりそうって感じで〜」
「さつきちゃん何言ってるの?」
なぜそんなことをテツヤ君に話しているのか分からず困惑している私を見て彼女はふふっと笑ってそこでやっと私から距離を取った。
「じゃあテツ君、名前ちゃん。
次はWCでね!」
彼女は言うだけで言ってひらひらと手を振り私たちの前から立ち去ってしまった。
テツヤ君は何も話そうとせず気まずい空気に包まれてしまった。
一体この状況でなんと切り出せばいいかわからなくなって困った私は彼の座るベンチの隣に設置された自販機でお茶を買った。
しゃがんで取り出し口からお茶を取り出した所で彼と目が合った。
眉間に皺を寄せる彼の頬はほんのりと赤みを帯びていた。
なんだか見てはいけないものを見た気分になって彼から視線を逸らしたところで彼は口を開いた。
「......いつか僕とも一緒に入って欲しいです」
「えっ......あ、...は、はい...?」
彼の言葉に驚いて再び視線を合わせると彼は熱のこもった目で私をじっと見つめて頬に触れた。
「...女性同士とはいえあまり僕以外の人に肌を触れさせないでくださいね...僕、あまり余裕がないので...」
ただの不可抗力だった、と思いながらもそれを口には出さずに頷いた。
まるでのぼせてしまったかのように身体がふよふよとして、私は買ったお茶を喉に流し込んだ。
「(さつきちゃん、どうしてテツヤ君を揶揄うようなことをしたんだろう...)」
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