リベンジマッチ

あっという間の一ヶ月だった。
火神君がいないバスケ部はいつもより静かで少し寂しいと感じることもあったけれど、皆が自分の課題に向き合って全力で練習に明け暮れた。
そして開会式の日を迎えた。

だがその日火神君は集合時間になっても現れず彼が不在のまま開会式を終えてしまった。
試合までには間に合うと連絡が取れはしたもののカントクのリコ先輩は怒りに震えていた。
これは後で火神君に大きな雷が落ちるんだろうなぁと想像して苦笑いを浮かべてしまった。

そんな時テツヤ君が少し抜けたいとリコ先輩に許可を求めた。
帝光時代のキャプテンである赤司君から呼び出しがかかった、と。
リコ先輩は少し悩んだけれど渋々それに許可を出し試合までにはかならず帰るようにと言った。

「名前ちゃん...じゃない方がいいわよね、この場合。
降旗君、ちょっとやっぱり着いてってくれる?」

「あ、はい!」

リコ先輩は最初私に付き添うよう言おうとしたけれど踏みとどまって降旗君に声をかけた。
筋書き通り、なんてそんなことあまり言いたくないけれど私もそれが正解だと思うので正直ホッとした。
テツヤ君は一瞬私に目配せをしてすぐに戻りますと言ってそのまま外へと向かった。
何も出来ない私はただ頷いて彼を見送った。
そして午後の試合に向け軽いミーティングをしながら柔軟をする皆の近くで衛生品やドリンクの準備をしながら彼らの帰りを待った。



暫くして火神君も連れて帰ってきたテツヤ君と降旗君。
降旗君はやはり少し顔色が悪い。
少しでも気が紛れたらと思い彼に持っていた飴を手渡した。
降旗君は気を使われたと気付いたのかありがとうと笑顔で言ってそれを素直に受け取ったけれどまだ少し無理をしているような、強張って見えた。
でも火神君がことを大事にする気がない以上私も不用意に踏み込めないのでそれには気付いていないふりをした。

でも火神君の顔についた傷だけはやっぱり少し気になったのでこっそり声をかけ人影のない場所に移動して消毒だけはさせてもらった。
拒まれてしまうかと思っていたけれど騒いでは逆に目立ってしまうと判断したのだろうか、彼は素直に私のお願いを受け入れてくれた。

そしてこっそり抜け出したというのにテツヤ君にはバレバレだったようで突然のように私に着いてきた。
火神君に処置をしている最中テツヤ君からの視線は痛いくらいで気まずくて仕方なかったのでとにかく急いで終わらせてみんなのところへ戻った。

「名前さん...」

「...うん、頑張って...」

コートへと移動する直前、私の手をぎゅっと握って名前を呼んだ彼にたった一言頑張れと、ただそれだけを伝えた。
彼は私の手を握る手に力を込めた。
そしてその手をゆっくりと離した。

いよいよ、いよいよだ、WCが始まる。

コートに立ったテツヤ君は青峰君の前に立ち目を閉じた。
色んな感情が彼の中で膨らんで、それを噛み締めているのだろう。
数秒後ゆっくりと目を開けた彼にIHで桐皇に、青峰君に敗北した時の彼の動揺は見られなかった。
真っ直ぐ彼を見据えて絶対に負けないと宣言した彼はもう別人と言っても過言ではない。

そんなテツヤ君の言葉を聞いた青峰君は余裕の感じられる好戦的な笑みを浮かべ決着をつけようと言った。

ブザーが鳴り審判の声が響く。
約一ヶ月、全力で自分と向き合ってトレーニングを積んできた皆の目に迷いや気負いはない。
必ず勝つと、ただ勝利だけを見据えていた。

桐皇のベンチではさつきちゃんが複雑な表情でみんなを、青峰君とテツヤ君を見ていた。
彼女は今何を思って彼らを見つめているのだろう。
私よりずっと近くで彼らを見てきた彼女は。
試合をしている間は彼女と私は敵同士だ。
不安そうにしている彼女を抱きしめることは出来ないけれど。

また全部終わったら彼女ともっと話がしたいと、場違いとも取れるそんな事を考えて再びコートを見据えた。

そしてボールが高く宙を舞った。


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