闇鍋のようなもの

夏の合宿中私に出来る限りの手は尽くしたつもりだった。
でもこの世界では変えてはいけないもの、変えられないものも沢山あるのだと思い知らされた。
完全に油断していた。



桐皇戦、テツヤ君は全てを晒け出し、捨て身とも呼べる手段をとってそんなテツヤ君とゾーンに入った火神君を中心に一丸となって戦い見事桐皇に勝利した。
自分では立っていられないほど体力を使い果たした彼は火神君に支えられながら青峰君に拳を差し出した。

青峰君は最初それを拒んでいたけれど仕方ない、という顔で彼と拳を合わせた。
青峰君は彼がどれだけ頑固かということをよく知っているからという理由もあったと思う。
でも試合の後の彼の表情は随分柔らかくなっており、中学時代テツヤ君の応援に行った時に見た彼の面影を見た。

試合が終わり体力を高い果たしロッカー室で気絶したかのように眠ってしまった彼らを起こし外に出たのは試合を終え2時間程経った頃だった。
明後日も試合ということもあり身体を労り早く帰ろうとしていたけれど小金井先輩が言った祝勝会をしようという一言がきっかけとなり祝勝会の案は可決され、火神君の家にお邪魔させてもらうことになった。
安く済ませる為にスーパーで買い物をして自分たちで食事を用意することになった。

彼のマンションに着いたところで私の携帯が着信を知らせた。
それは母からの電話だった。
部屋番号を聞いてみんなには先に部屋に入ってもらっておくことにして私は電話に出た。
その連絡は今日遠方に棲む祖父が怪我をしてしまったので様子を見に行くことになったので留守にするという連絡だった。
私はそれに気を付けて行ってきてねと返事をして電話をきり火神君の部屋に上がらせてもらった。
リビングに入ると彼の暮らす部屋は本当に広くて驚いた。
しかしみんなの様子がなにやらおかしいと不思議に思っていたその時、鍋を持って現れたリコ先輩を見て全て理解した。

蓋を開けて見たそれは何もおかしくない、ただの具沢山の鍋に見えた。
いい匂いだってしている。
日向先輩に促され1番最初に鍋に手をつけた彼が持ち上げたものはバナナだった。
私はおそるおそるキッチンを覗いた。
そしてそこにある沢山のサプリを見つけ息を飲んだ。
あれだけ言ったはずなのに、きっとこれは逃れられない運命だと思って私は覚悟を決めた。

先に食べて美味しいと箸を進めるみんなを見ながら私もリコ先輩の作ってくれた鍋をよそって食べた。
本当に美味しい、あれだけフルーツを入れているのに一体なぜ?と不思議に思うくらいそれは普通の鍋だった。
リコ先輩には申し訳ないけれどそれでもやはりあまり沢山食べる気にはなれず本当に少しずつ食べて鍋が殆ど空になった頃火神君とテツヤ君がベランダに出て行ったのに気付いた。

そしてその後すぐ、私は、私達は意識を失ってしまった。





「...なんか、色々と衝撃だったね」

「そうですね。滅多に出来ない体験が出来たと思います」

彼の前向きな言葉を聞いた私は乾いた笑いしか出てこなかった。

あの後火神君の師匠であるアレックスさんが現れあの場は騒然とした。
唇を奪われたリコ先輩を見てテツヤ君は即座に私を彼女から遠ざけた。
そして混乱する部員達をよそに彼は表情を崩すこともなく彼女に話しかけたのだから本当におそろしいと思った。

「じゃあテツヤ君、また明日ね、おやすみなさい」

そんな話をしながら歩いて家に着いたところでいつも通りの挨拶を交わし家に入ろうとした。
テツヤ君も返事をしようとしたけれど私の家をじっと見て首を傾げた。

「今日はご両親まだお帰りではないんですか?」

「あー、うん。今日は帰ってこないみたい」

電気が一つも付いていない真っ暗な家を見て不思議に思ったのだろう。
私は彼にそう答えながら家の鍵を開け扉を開いた。

「じゃあね、おやす...」

改めて手を振ろうとしたところで彼にその手を掴まれた。
そして私をじっと見つめる彼、今彼が考えていることなんて想像に容易くて、私はどうしたものかと悩んだ。

合宿の時それについては話をした筈だけれど日々我慢を強いられている彼にとっては先願のチャンスだ。
ある意味長く生きている私にはこの年齢の男の子にとってそれがどれほど苦行なのかということは分かっている。
でもやっぱり大切な大会中に積極的にそういうことは、とも思うのだ。
彼がバスケをしておらずただただ平凡に高校生活を送っていたのだとしたら多分とっくに折れていたと思う、そのくらい私も彼を受け入れる準備は出来ているのだから複雑な話だ。

「......テツヤ君の言いたいこと、なんとなく想像がつくんだけどね。
...やっぱり私の気持ちは前と変わってない。
でも...もし、もしね?どうしてもって言うならうちに泊まってもいいよ。
でも絶対にそういう事は、親に言えないようなことはしない。
それでもいいなら...」

「...生、殺しになり、ますね......では、今夜一緒に眠る、それだけは許してもらえますか?」

そう言えば彼は断念すると思っていたのに彼から返ってきた言葉は想定外のものだった。

「...本当に一緒に寝るだけって、もしもね、約束破ったら別れるって、...そう言っても?」

「っ!わ、わかってます!約束しますから!
だから仮にだとしても別れるなんて言わないでください!」

彼はそう言って私の手をぎゅうっと握った。
そんな彼を見て、少し悩みながらも私は彼のその言葉を信じることにして私は彼を家に上げた。

勝手なことをしてごめんなさいと心の中で両親に謝った。


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