「取り敢えず洗濯物全部出して、今着てるのも脱いで洗濯機に入れてお風呂入っちゃって」
「はい、すみません」
彼の家はすぐ隣だし一旦帰ればいい話だけれど一度帰ってまた家を出ればそれはもう私に会いにいくと言っているようなものだから彼には家に上がってもらいそのまま泊めることにした。
ご両親には火神君の家に泊まると嘘の連絡を入れさせてしまった、それに罪悪感を覚え心の中で彼の両親に謝罪した。
そんなこと、なんの意味もないとは分かっていても。
彼の洗濯物の中には当然今日着たユニフォームも入っているので彼がお風呂に入ったことを確認するとすぐに洗濯機を回した。
乾燥も出来るし慌てる必要はないのだけれど少しでも早く休んだ方がいいから早く済ませてしまった方がいいのは当然の事だったし。
「すみません、お先に失礼しました」
「あっ、うん。じゃあ私も入ってくるから先に部屋でゆっくりしてて」
彼にお茶の入ったボトルとコップを手渡し私もお風呂に向かった。
軽く湯船に浸かり髪と身体をしっかりと洗って彼の待つ部屋へと向かう。
「お待たせ。洗濯もう少しかかるからちゃんと乾いたか確認してから寝るけどテツヤ君はもう先に休む?」
「いえ、待ってます」
突然このような形になったので着替えなど用意していなかったのでお父さんのパジャマを着てもらっている。
幸運なことに新品の下着も見つけたのでこっそり借りたのだけれど、これはいつかバレてしまうかもしれないと考えると少し頭が痛い。
上手い言い訳なんて思いつかないから今日のことがバレたら叱られてしまうかもしれない。
比較的放任され自由に育てられたのは私への信頼があったからだと自覚しているから。
「...名前さん、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
彼のお願いを聞いたのはけして彼の押しが強かったからというだけの理由ではない。
彼と2人で過ごせる時間が嬉しくて仕方ないのは私だって同じなわけで。
私たちは他の高校生のカップルに比べ一緒に過ごす時間は多くとれている筈なのに。
恵まれた環境にも慣れてしまえば人間更に欲深くなってしまうのだから困った話だ。
「そろそろ終わったかな」
時計を見て私が立ち上がると彼も立ち上がり一緒に洗濯機のある脱衣場に着いてきた。
取り出した服を触った感じ問題なく乾燥まで済んでいたので2人でその場で畳んでしまった。
テツヤ君の畳み方はとても綺麗だったので家でも自分で畳んでいるのだろうかなと考えながら部屋に戻った。
明日の朝慌てず済むようにきちんと鞄にしまい、鞄のファスナーを閉めた音が静かな部屋で妙に大きく聞こえた。
「じゃあ、もう寝よっか」
「はい、そうですね」
普段であれば気にならない沈黙がやけに気になってしまうのは私が意識しすぎているせいなのだろうか。
長く彼と過ごしてきた私だからこそ分かる。
彼が私の意思を無視して事を進めるような事をする人ではないということを。
ベッドに上がり壁際に寄って寝転がり掛け布団を被り端の方を持ち上げると彼は同じように私の隣に寝転がったので肩まで布団を掛けた。
リモコンで電気を消すと部屋は真っ暗になったけれど至近距離で向き合う彼の顔は当然はっきりと見えていた。
今夜は妙に月が明るい気がする。
きっとそのせいでもあるんだろう。
「...中学の頃名前さんに強引にベッドに誘われたことを思い出します」
「...なんだか誤解を呼ぶ言い方だなぁ...」
その時の事は当然私だって覚えている。
あの時の彼はまだ幼くて、でもあれから2年と少し?くらいしか経っていないというのに。
彼は随分大人びた。
「あの時テツヤ君勝手にちゅーしたよね」
「...起きてたんですか。すみません、許してください」
私の手を握って彼は目を伏せた。
別に怒ってなんていないのだけれど、そんな彼になんだか心がくすぐられた。
これは母性本能的なものなのだろうか。
「怒ってないよ、ほら、おいで」
そう言って彼を抱き寄せれば私の背に腕を回し彼も私に抱きついた。
本当にいつのまにこんなに差が出来てしまったのだろうと私より随分大きくなった彼の肩を撫でた。
暖かい布団の中で更に暖かい彼の体温に安心して途端に身体は眠気を増していく。
「どんなに早くても6年後くらいにはなるけどさ、大学卒業して就職したらさ、テツヤ君と一緒に暮らせたらいいな」
「...まだそんなにかかるんですね...」
私の言葉を聞いて彼の腕に力が込められた。
まだ進学する大学は決まっていないけれどよっぽどの事がない限り家から通える大学を選ぶつもりではいるから当面この家を出るつもりはない。
「テツヤ君は大学に行ってもバスケ続けるんだよね?
私は大学生になったらバイトもするから、だから旅行とかしようよ。
テツヤ君の分も貯めるから」
「バスケはきっと続けると思いますし貴方と色んなところに行きたいとは思います。
でもそんな負担を貴方にかけるつもりはないです」
彼はそう言うけれどきっと彼は気楽なサークルなどではなくしっかりと部活としてやっている学校を選ぶ気がするから実際のところそこにバイトまでする余裕はない気がする。
勉強の方は確実に今より大変なものになるだろうし。
「いいよ、卒業したら倍返しにしてもらうから」
勿論本気で言っているわけではないけれど。
でも多分私がどれだけ言ったところで彼は将来自分で収入を得て一緒に暮らすようになったら今まで以上に私を甘やかすようになる気がするから。
「だから恩を売っておくから」
「...ずるい言い方をしますね...それでもまぁ貴方に甘えっぱなしは嫌ですので僕も時間を見つけてバイトはします。
だから一緒に旅行も行きましょう」
こんなもしもの話、適当に受け流してしまえばいいのに、やっぱり彼は真面目だ。
ベッドに入るまではあった緊張感は今はもう完全に解れてしまった。
「今日わがままを言ってよかったです。
貴方がずっと僕といたいと思ってくれていることも聞けましたし。
もしも今日のことがバレて叱られてしまった時は必ず教えてください。
僕も謝りますから」
私の不安なんて彼にはバレていたようだ。
それがわかっているならはじめから、なんて今更彼を責めるつもりはない。
「...眠そうですね、そろそろ寝ましょうか」
「...うん...ごめんね」
瞼は重くなっていき口を開くと欠伸がでた。
「いえ、こちらこそすみません。おやすみなさい、名前さん」
「おやすみ、テツヤ君」
彼は私の頭を撫でて触れるだけのキスをして私を抱きしめた。
私の意識はその後すぐに薄れて眠りに落ちてしまった。
その日の夜は幸せな夢を見たような、そんな気がする。
next