翌日行われた中宮南戦、テツヤ君と火神君は温存され2年生だけで挑むことになったが無事誠凛は勝利を納めた。
試合中気合いを入れる為に打たれたリコ先輩のビンタは試合に出ていた先輩だけでなくテツヤ君達にも打ち込まれそれは見事な紅葉を咲かせていた。
これだけくっきりとした紅葉、打ったリコ先輩の手にもかなりのダメージだったのではないかと心配になったけれど彼女にそんな様子はないのだからまったくもって恐れいった。
「...ほっぺた大丈夫だった?」
「...出来ればもう2度と受けたくないです」
テツヤ君はそう言っていたけれど相変わらず表情は変わらないものだからイマイチどのくらいの威力だったのか伝わってこない。
試合が終わった帰り道、今日も青峰君との練習に向かう彼と歩いていた。
昨日も結局彼の練習を殆ど見ていなかったのだから家に帰ろうとしていたのだけれど彼にそれを却下されてしまった。
放っておくと心配なので見えるところにいてください、なんて。
まるで子供のようなことを言われてしまった。
さつきちゃんからも私も行くから待ってるからね、とメールを受けてしまったこともあり結局私は彼の練習を観に行くことになったのだ。
「名前ちゃーん!!」
「わっ、さ、さつきちゃん、こんばんは...」
なんだろう、昨日もほとんど同じようなやり取りをした気がする。
もう予想していたことなのだろう。
青峰君は何も言わず上着を脱いでテツ君からボールを受け取っていた。
「私達はベンチ座ってよっか!」
「うん、そうだね」
さつきちゃんはそう言ってコートの近くに設置されたベンチを指差した。
それに頷き2人でベンチに座るとさつきちゃんは鞄からカフェオレの缶を二本取り出し私に一本手渡した。
「昨日は奢って貰ったから、自販機ので申し訳ないんだけど」
「ううん、嬉しいよ、ありがとう」
暖かいカフェオレ缶に握って手を温めれば心まで暖かくなったような気がした。
彼女と取り止めのない話をした。
私と知り合う前にあったことや中学時代の思い出、彼女が好きなものや興味あるもの、行きたい場所、したい事。
彼女もテツヤ君同様昨日の話には触れてこなかった。
そんな優しい彼女達にいつか恩を返す機会はあるのだろうか。
それを直接さつきちゃんに聞いて見れば彼女は目を輝かせた。
「だったら今度は本当にデートして、美味しいもの食べて可愛い洋服選んでそれでお揃いコーデとかしちゃお!」
「...さつきちゃんに似合う服私なんかが着こなせるかな?」
名前ちゃんは可愛いから大丈夫!なんて言って私に抱きつくものだから私は少し反応に困ってしまったけれどこんなに可愛い女の子からそんな事を言われてしまっては聞かないわけにもいかない。
それに私から何かお礼をと提案したのだ。
それがお礼になっているのかは少々疑問だけれど彼女が望むのであればと了承した。
さつきちゃんは大喜びで私に擦り寄った。
「すみません、お待たせしました」
「あ、終わったみたいだね」
それから彼女と暫く色んな話をしている間に今日の練習は終わったようでコートから声を変えられた。
テツヤ君はバッグにボールをしまっていて、さつきちゃんと2人の近くまで向かっていたその時。
「っと、...気を付けろよ」
「ご、ごめんなさい...」
「名前さん!大丈夫ですか?!」
蹴躓いて転びそうになった私を青峰君が抱き止めてくれた。
慌てて謝罪し、彼から距離を取れば青峰君は眉間に皺を寄せ首を傾げた。
「...お前、どっかで会ったことあっか?」
「何言ってんの大ちゃん!名前ちゃんは誠凛のマネージャーなんだから会ってるに決まってるでしょ!」
さつきちゃんが呆れたようにそう言っていたけれどでもまぁ確かに彼は興味がないものをそう覚えているとは思えないからマネージャーの私なんて認識していなかったとしてもおかしくはないかもしれないと思った。
「ちげーよ、そういうんじゃなくてなんか感触が...あ」
「...ああ...以前にも、はい、その節はありがとうございました」
火神君を探して走り回っていた時彼にぶつかり転びそうになった事があった。
その時彼は私の腕を掴んで転ぶのを防いでくれたことがあるのだけれどその際実は強く引かれたことで再び彼の胸にダイブしてしまっていたのだ。
つまり彼の言う感触というのはおそらく腕のことではない。
どうして私はコートのボタンを留めていなかったんだろうか。
「...青峰君、今のどういう意味ですか」
「テツヤ君、あのね、前も一度転びそうになったのを助けてもらってね」
「...大ちゃん...さいっってー...っ!」
確かに青峰君はデリカシーのない事を言ったと思う。
でも助けてくれたのは事実だ、あまり責められてしまうのは気の毒だ。
「テツヤ君、あの勘違い...」
「しゃーねぇだろ、男なら押し付けられりゃ誰だって...」
彼の言っているものは腕の事だと言おうとしたところで先に青峰君が余計なことを言ってしまった。
もうこうなってしまってば庇いようがない。
「...青峰君、もう少しいいですか」
テツヤ君はしまったボールを再び取り出した。
「お、おい、もう帰らねぇと明日もおめー試合あんだろ」
そのボールはバスケをする為にあると分かっているよね?と当たり前の事を聞きそうになった。
1:1で勝負をすればまず間違いなく青峰君が勝つと分かっているのに、それでも今の彼は何をやらかすか分からない。
「...まぁでもたしかに名前ちゃんの胸って感触凄く気持ちよくて記憶に残るのも分かっちゃうかも」
「さつきちゃん、話ややこしくなるかもしれないからちょっと黙っててね!!」
問題発言をしたさつきちゃんに食い気味でそう言えばさつきちゃんは、あ、という顔をした。
そして耳元に顔を近づけ私にしか聞こえない声で囁いた。
「... 中学の頃からって聞いたけど、もしかしてテツ君とはそういうことはまだ?」
彼女の問いに頷くとさつきちゃんは、えっ!と驚いた顔をしたものだから私の顔に一気に熱が集まった。
そんな話を出来る同年代の友達がいないものだから高校生カップルがどの程度進んでいるのかは知らないのだけれど彼女の反応を見れば私達は遅いのかもしれないと、そう思った。
「(テツヤ君...青峰君も、なんかごめん...)」
見たことも無いほど恐ろしい顔をしたテツヤ君を見て心の中で謝罪した。
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