昨日は色々と大変なことになってしまったけれど陽泉との試合当日も青峰君はテツヤ君のシュート練習に付き合ってくれた。
勿論さつきちゃんも一緒に。
及第点を取れたところで彼は次は敵同士だと言って帰ってしまったけれど最後に負けんじゃねーよとエールをくれた。
顔は見せずに背を向けたままだったけれど。
その言葉はしっかりとテツヤ君に伝わった。
さつきちゃんもデートの約束忘れないでねと言って私に抱きついたあと青峰君と共に去った。
「...桃井さん...相変わらずですね」
「え、あー、うん?」
少し前までは彼女にアプローチされていたのはテツヤ君だったのに、という話だろうかと考えたけれも彼が私の顔を見てため息をついたので多分違うのだろう。
となると多分彼はさつきちゃんにヤキモチを妬いたのだと思う。
自分で言っていて恥ずかしくなるけれどもういい加減慣れつつある。
正直ここまで彼が私を好きな理由が今だに分からない。
でも嬉しいのは嬉しい、だからもし彼に愛想を尽かされてしまっては、という不安もある。
多分彼程私を好きになってくれる人は今後現れないと思う。
そんなことを言っては自惚れがすぎると笑われてしまうかもしれないけれど。
「テツヤ君も大会が終わったらデートしてね」
「...僕の方がついでになってませんか、それ...」
拗ねたような顔をした彼に少し困りはしたが可愛くもあったのでそんなことないよ言って彼を抱きしめた。
すぐに抱きしめ返して頬にキスをしてくれたので怒ってはいなさそうだ。
「...そろそろ行きましょうか」
「うん」
電車に乗って試合会場に向かった。
今日は紫原君との勝負だ。
火神君と関係の深い氷室さんもいて、2人にとって大きな意味を持つ試合だ。
火神君は昨日の夜きちんと眠れたのだろうか。
「テツヤ君は緊張して眠れない日とかってないの?」
「勿論ありますよ。まぁ中学の途中から試合の前の日なんかは案外大丈夫になりましたけど」
それは変わっているとは思うけれど彼の試合中の冷静さを見れば納得してしまう。
その辺は火神君と真逆だ。
でも最近は試合の日の朝も目が血走っているような事はない気がするから彼も克服出来たのかもしれないけれど。
「じゃあどんな時に緊張するの?」
「...1番最近でしたら名前さんの家に泊まった時です。あの時名前さんはすぐに眠ってしまいましたが僕はなかなか寝付けませんでした...正直我慢出来た自分を褒めてあげたいと思っています」
余計な事を聞いてしまったと後悔した。
そしてやっぱりこういう事はもう少し大人になるまで控えた方がいいと思った。
「それ以外だと中2と中3の時名前さんに...」
「ごめん、私が悪かったからもう話さなくていいよ」
きっとこれから彼が話そうとしていることも私が聞かない方がいい話なのだろうと察して私は彼の話を遮った。
彼はそんな私をじとりと見たけれどそれ以上は何も言わなかった。
今日も大変な試合が待っているのだ。
あまりふざけてばかりもいられない。
会場に入りリコ先輩がみんなに気合いを入れる。
前日前々日と違い最初から全開火力で試合に挑む。
先輩達は良い意味でいつも通りだ。
火神君もテツヤ君も普段通り、やる気満々だ。
私は彼の練習を見ていたから知っているけれど他のみんなはまだ彼の練習の成果を知らない。
正直私には彼のシュートが何がどうなっているのか全く理解できなかった。
この世界で新しい人生を歩み始めてもう随分経つせいか断片的にしか覚えていないことが増えてきた。
でもそれは私にとって良いことなのだと思う。
コートで向き合う陽泉高校の選手を見て圧倒されてしまった。
火神君も木吉先輩もかなり大きい方だと思うけれどそんな2人よりも更に背の高い選手が3人もいる。
バスケに置いて身長が高いということがどれだけプラスに働くのかなんてことはもう散々思い知らされてきた。
テツヤ君を見てきたのだからそれは当然のことだ。
テツヤ君だった特別小さいわけではない筈だ。
それでも身長がモノを言う、そんなスポーツを愛し自分の武器を自覚しそれを突き詰めてきた。
本当にいくら尊敬したってしたりないくらい彼はかっこいいと思う。
「頑張って...」
みんなが力を出し切って満足のいく試合が出来ますように、そう祈った。
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