テツヤ君のシュートは鉄壁の防御を誇る陽泉から何度も得点を取った。
途中膝が限界を迎えベンチに下がることになってしまった木吉先輩もリコ先輩のおかげでラスト1分を残しコートに戻った。
ゾーンに入った火神君を止められない事にやる気を無くし下がると言った紫原君も氷室さんの悲痛な叫びを聞き再びやる気を取り戻しコートに入った。
自分の限界を自覚しつつも必死で努力をした氷室さんだったからこそそれが出来たのだろう。
その後ゾーンに入った紫原君を見て思った。
きっと彼は火神君や木吉先輩を心底嫌っているわけではないのではないか、と。
そうでなければいくら切り替えが良いとはいえこんなにバスケが好きなテツヤ君と仲良くなんて出来なかった筈だと、そう思ったのだ。
それが正解だったかなんてきっと一生分からないのだろうけど。
そんな紫原君を最後に破ったのテツヤ君だった。
彼がゴールを決めれば終わる、その瞬間テツヤ君だけが先に走り出していた。
試合中何度も跳んで負荷をかけすぎたことが原因で飛べなくなってしまった紫原君が一瞬動きを止めた、その瞬間。
テツヤ君はそのボールをはたき落とし、試合終了を知らせるブザーが鳴った。
誰よりも負けず嫌いなテツヤ君が最後まで諦めなかったおかげで、みんなが一丸になって全力を出し切ったから。
誠凛高校は無事準決勝へと駒を進めた。
試合が終わり海常高校と福田総合の試合が始まる前にテツヤ君は火神君から預かっていたリングを火神君に返し彼に仲直りをするよう諭した。
火神は元々素直な人だったし本心では彼との決別なんて望んでいなかったし納得も出来ていなかったから。
テツヤ君からリングを受け取るとすぐに氷室さんの元へと駆けていった。
そんな火神君を見てテツヤ君は笑みを浮かべた。
「私が火神君のこと気に入ってるってテツヤ君は言ってたけどテツヤ君の方がよっぽど火神君のこと好きだよね」
「...彼のバスケへの真っ直ぐな情熱は尊敬すらしています。良い人だとも思っています。
...ですが貴方にそういう言い方をされると少し複雑です」
彼はそう言って複雑そうな顔をした。
まぁ高校生の男の子がチームメイトの男の子を好きだ、なんて素直に言う人なんてそうそういないだろうから彼のこの反応は自然なのかも知らないけれど。
「でもそれで言ったらテツヤ君も負けてないと思うけどね。
なんか似てるなって思う時あるもん」
一見分からないけれどテツヤ君も火神君に負けないくらい熱い情熱を持った男の子だと思う。
性格は全然違うけれど根本的なところは近いものを持っているのだろう。
「火神君と僕が似ているなんて言う人多分世界中探しても名前さんだけだと思います。
...ああでも、もしかしてそれが貴方が火神君を気に入っている理由なんですかね?」
火神君のことはも勿論良い人だと思っているけれど。
彼があまりにもそれを誇張して言うものだからどう反応すればいいかわからず少し複雑な気分だ。
「...いや、そういうことじゃなくて...なんか可愛いくて良い人って意味なだけで...テツヤ君を重ねて見ているわけじゃないよ。
そもそもテツヤ君と他の人なんて比べようがないというか...比較なんて出来ないくらい、す...特別だし...」
「なんで言い直したんですか?特別って言う前言おうとした言葉聞かせてくださいよ」
じっとりとした視線を向けられた私は顔を伏せたけれどその顔を両手で包んで無理やり元に戻され彼と視線が交わった。
さらりとそのまま言ってしまえば良かったのに変なブレーキがかかり余計言い辛くなってしまった。
でもこれは言うまで解放してもらえないのだろうということは今までの経験上よく分かっていた。
「...ここ、人がいるから...耳近付けて」
「はい、分かりました」
私がそう言うと彼は素直に私の口もとに耳を近づけた。
彼以外に聞こえないのであれば別にいいかと思い手で覆って彼の耳元で小さな声で呟いた。
「他の人と比べようがないくらいテツヤ君の事が大好きだよ」
彼は私の言葉を聞いた後一瞬固まって手で顔を覆い私から距離を取った。
「...テツヤ君?」
彼は私に近づくなと言わんばかりに手を押し出して顔を逸らしている。
「...すみません、なんか、ちょっと今無理で、なんというか色んな意味で元気を貰いすぎたというか...!」
洒落にならないんで、彼はそう言って私の前から走り去ってしまった。
彼の言葉の意味を想像してなんとなく察した私は心が汚れているのだろうか?
まぁもしかしたら勘違いかもしれないのだけれど。
だとすれば赤っ恥もいいところだ。
観客席に移動することになり先輩達にテツヤ君と火神君はどうしたのかと聞かれお手洗いに行ったので後で合流すると適当な言い訳をし、先に先輩達と席に触った。
念の為それと大体の場所をテツヤ君にメールしておいたのでまぁ問題なく合流出来るだろう。
試合が始まる前にテツヤ君も合流し、それから少しして火神君も無事戻ってこれた。
火神君はなにやらトラブルがあったようで氷室さんとはまだ仲直りは出来なかったようだ。
でも今は取り敢えずは目の前の試合に集中しなければならない。
誠凛高校は今から行われる試合で勝ったチームと明日戦うことになるのだから。
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