「おはようございます」
「......おはよう...」
結局昨日はテツヤ君のせいで帯びた熱がなかなか冷めず、あの後すぐにベッドに入ったけれど寝付けたのは外がうっすら明るくなった頃だった。
今は12月だ、日の出は遅い。
それはもう完全に朝と言っていいだろう。
すぐに目覚ましが鳴り中途半端に眠ってしまったせいで逆に起き上がることが辛くなってしまった。
でも二度寝をするわけにもいかない。
気合いでなんとかベッドから起き上がり顔を洗うため部屋から出た。
洗面台で顔を洗い歯磨きをしてリビングの扉を開けた。
リビングのソファーになぜかテツヤ君が座っていたのだ。
そしてなんでもないような顔をして私に挨拶をした。
「...なんでいるの?」
「今日もしかしたら寝坊するかもと思いまして。因みに名前さんのお母さんは僕を上げて出かけていきました」
それは子供の頃から当たり前のように頻繁に家に上がっていた彼だからこそ許されたことなのだろう。
まぁ勝手に私の部屋に入らずリビングで大人しく待っていてくれたのだからいいのだけれど。
「...テツヤ君は昨日しっかり寝られた?」
「はい、僕は大丈夫です」
マグカップを食器棚から二つ取り出しインスタントコーヒーを入れポットからお湯を注いだ。
今日はカフェインに頼らなくては厳しいと思ったので砂糖もミルクも入れていない。
テツヤ君の分には両方入れて彼にカップを手渡した。
「着替えてくるから飲んで待ってて」
「ありがとうございます。...お手伝いしましょうか?」
今まさにコーヒーを流し込んでいた私は彼の言葉に吹き出しそうになった。
でも気管に入ってしまったことで当然ゴホゴホとむせてしまった。
「なっ、ゴホッ、へ、変な事っ、言わないで!」
「すみません、冗談です。
眠そうでしたので目が覚めるかと思いまして」
彼はそう言ってふふっと笑った。
なんというか、最近時々感じるようになったのだけれど彼は少し意地悪なところがある気がするのは私の気のせいなのだろうか?
「とにかく!着替えてくるから大人しく待ってて!」
「はい、いってらっしゃい」
自室に戻り制服に着替えた。
鏡で髪を再度チェックして、昨日のうちに用意はしていたけれどカバンの中身も少し確認して部屋を出てテツヤ君の待つリビングへと戻る。
正直私があれだけ眠れなかったのだから彼もそうなのでは?と心配していた。
マネージャーの私と違い彼は選手で今日も大変な試合になるのは確実なのにもし眠れていなかったりしたらどうしようと。
先ほど彼の顔を見て無理をしているわけではないと言うこと伝わった。
なんだか腑に落ちない気もしたけれど私は良しとすることにした。
「テツヤ君、お待た...」
「はい、すみません」
リビングに戻ると彼は誰かと電話しているようだった。
慌てて静かにしたけれどどうやらその電話の相手に聞こえてしまったらしい。
「はい、今名前さんの家にいます。...はい、分かりました」
その電話の相手はどうやら私も知っているらしい。
通話を終え携帯を閉じると彼はこちらを見た。
「...どうかしたの?」
「はい、先程改めて荷物を確認したのですが見てください」
鞄から取り出したのは彼が普段履いているバッシュだ。
取り出したそれはべろんと底が破れてしまっていた。
「先程カントクに買いに行きますので集合時間に遅れますと連絡をいれました。
名前さんにも付き添ってもらって絶対遅刻をするなと釘を刺されました」
「...間が悪すぎるというか...」
なんだか不吉だと思ったけれど今日勝負を控えている彼にそんな事を言うのは良くないと思い押し黙った。
「じゃあちょっと早いけどもう出た方が...」
「すみません、カントクからです」
早めに出ようかと提案しようとしたところで彼の携帯が鳴った。
彼が電話に出ると短く返事をした後すぐに電話を切った。
何か伝え忘れたことでもあったのだろうか。
「火神君のバッシュも壊れたみたいで火神君とも合流して一緒に買いに行けと言われました」
「...息がぴったりなのはバスケだけじゃないんだね...」
あくびをして残っていたコーヒーを飲み干し既に飲み終えていたテツヤ君のカップと一緒に洗い布巾の上に伏せた。
エナドリか何か買っておいた方がいいかもしれないと思いながら鞄を肩にかけた。
「かなり眠そうですね。電車で寝てもいいんですよ」
「...テツヤ君はやっぱり肝が据わってるよね」
そう言った私にそういうわけでは、といって先に玄関に座って靴を履いていた彼が振り返って私を見上げた。
「...貴方のあんな顔を見せられたんです。
帰ってからもめちゃくちゃどきどきしてましたし普通にヤバかったです」
彼の言いようにあまりそれを掘り返してほしくないと思いながらも彼がどのように気持ちを切り替えたのかは気になった。
私が何を考えているか察したのだろうか。
彼は少々気まずそうな顔をして私から少し視線を逸らし口を開く。
「...欲は吐き出してしまえばまぁ、とりあえず落ち着きますので。その後はもう寝落ちみたいな感じです...身体は試合の後で疲れていましたし」
「...ごめん」
かなり濁して説明してくれたとは思うけどさすがに彼が何をして気持ちを切り替えられたのかはそれでも察してしまった。
別に私は何も悪くはない筈なのに何故かこちらがセクハラ発言をしたかのような気分を味わった。
「...取り敢えず出ましょう。火神君も待っていますし」
「...うん、ほんとごめん」
彼がそう言って立ち上がった後私も靴を履いた。
外に出ると今日もいい天気だ。
外気にさらされて少し眠気が覚めた気がする。
でもこれから暖かい電車に乗って揺られてしまえばまた眠くなるのだろう。
どうして眠い時に乗る電車はあんなに心地良い眠気を誘うのだろうか。
「名前さん、少し心配ですので僕の腕組んでてください」
「うん、ありがとう...」
彼はいつものように道路側を歩き私に腕を絡ませさせた。
普段学校に行く時はあまりこういうことはしないのだけれど。
今はありがたく彼の厚意に甘えておくことにした。
「...テツヤ君、今日も絶対...勝とうね」
「...はい、勿論」
試合開始まであと数時間を切った。
試合が始まれば眠気なんて消し飛んでしまうだろう。
とにかく早く目を覚まして気を引き締めなければ。
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