優しさに救われる

移動中の電車で10分程眠った。
会場までの時間眠ろうと思っていたのに席に座れたと思ったらそこから意識が落ちるまでは一瞬だだった。
端の席に座れたおかげで壁に頭を支えてもらう事が出来たのも救いだ。
彼に降りますよと声をかけられるまで完全に熟睡してしまっていた。

「ごめん、テツヤ君にもたれかかったりしなかった?」

「はい、というかそうするように言ったんですけど嫌だと顔を手で押し退けられて拒まれました...」

全く覚えていない、でも寝ぼけていた私によくやったと自分を褒めてあげたい。
今日試合を控えているテツヤ君にそんな負担をかけるわけにはいかない。
まぁ彼に起こされなければきっとまだ電車から降りられず眠りこけていただろうから世話にはなっているのだろうけど。


「あ、火神君来ましたね」

「ほんとだ」

私達が待ち合わせ場所に着いてすぐに火神君も合流しスポーツシューズを取り扱うお店に入った。
テツヤ君は無事一軒めのお店で買うことが出来たけれど火神君が履いているサイズのバッシュは在庫が無かった。
二軒目、三軒目と回るけれどやっぱり見つからない。
知っている最後のお店でも買うことが出来ずテツヤ君は携帯を取り出した。

「すみません、桃井さんに連絡をとります。
こういう時頼りになります」

テツヤ君はわざわざ私にそう言って電話をかけた。
今更さつきちゃんと何か、なんてこと頭に過ぎることなんてないのに。
気を使わせてしまっていることが申し訳ない、でも嬉しくもある。
さつきちゃんはテツヤ君の電話を受けるとすぐに飛んできた。
青峰君も一緒だ。

彼女は沢山持っているという青峰君の私物のシューズを持ってきたようだ。
サイズも同じ、青峰君は最初怒っていたけれどすぐに気を沈め1on1で勝てたら譲ってやると火神君に言ってコートに入った。

私達はベンチに座ってさつきちゃんの話を聞いた。

すぐに決着は着いたようで負けた火神君はもう一回と息巻いていたけれど青峰君はバッシュの入った箱を火神君に放って渡し彼らしい素直ではないエールを送った。

バッシュなんて高校生にからすれば高価なもので、そもそも火神君と同じサイズということは青峰君も購入するのは少々手間がかかるだろうに。
テツヤ君のシュート練習といい今回のことといい本当に優しい人なんだなぁとしみじみ思った。

「青峰君、さつきちゃんも本当にありがとう」

2人にお礼を言うと青峰君は気怠げな返事をし、さつきちゃんはいつものように力いっぱい私に抱きついて私からも連絡してね、と言われわかったと返事をし彼女を抱きしめ返し2人と別れ会場に向かう為再び電車に乗った。
丁度席が3人分空いていたので座ろうとしたけれど両隣が男の人だったのでテツヤ君は仕方ないと言った表情で私を火神君と自身の間に座らせた。

電車のシートに座った途端再び眠気が襲う。
隣でテツヤ君が何か言っている気がしたけれどしっかりと聞こえない。
私は再び眠ってしまった。






「ごめん、本当にごめんなさい、火神君」

「いや、別にそんな謝られるほどじゃねぇし」

試合会場の最寄駅に着き駅から出て私はすぐに火神君に謝罪した。
あの後火神君に寄りかかって眠ってしまったのだ。
彼との身長差がかなりあるものだから肩に頭を乗せてもろに負担をかけてしまうようことはしていないけれどそれでも腕に持たれかかってしまったのだ。
腕をフルに使うスポーツを、しかも今から試合に出る選手にそんなこと。
マネージャーとしては絶対にしてはいけないことだ。
人間の頭は案外重たいものだし。


「んなの大したことじゃねぇしもう謝んなくていいっての...それより黒子の方をどうにかしろよ...」

火神君にそう言われテツヤ君を見た。
まるで僕は不機嫌ですと顔に書いているような、そんな顔で私を見ていた。

「...テツヤ君」

「...また押し退けられました」

寝ぼけている時の私はやはり彼に理性が働いているらしい。
彼に持たれかかれば火神君と違い確実に肩に頭を預けてしまっていただろうから本当に良かったと思うのだけれど。
でもそんな理屈はテツヤ君には通じない。
元々嫉妬深い方ではあるけれど火神君にはそれが顕著に現れる。
その理由は私が火神君を気に入っているから、だそうだがそれを言ったら私は誠凛のみんなは大好きだし。
でもまぁそれを言ったら更にややこしいことになるのは目に見えているので何も言わなかったけれど。

「...大会が終わったら肩借りるね」

「その時は肩と言わず胸をお貸ししますよ」

寧ろ今来てくださいと大真面目な顔をして手を広げて言うものだから私は困ってしまって火神君を見た。
試合前だというのに彼のその緊張感のない態度に呆れながらも彼は私を見て一瞬悩みながらも私の背をぐいと押した。
そのせいで私はテツヤ君に抱きしめられてしまった。

「かっ、火神君なんで!?」

「...そいつしつけーしめんどくせぇから。
それで黒子も気済むだろ」

火神君はそう言って会場へと歩き出してしまった。
WC準決勝ということもあり周囲には人もわりといる。

「〜テツヤ君!とにかく今はみんなと合流しないと!
試合が終わったらいくらでもしていいから!」

彼にそう言うとあっさりと私を解放した。

「約束、破らないでくださいね?
...もし破られたら僕...」

「わかった!わかったから!」

なにやら不穏な空気を察知して私は彼の腕を引いて火神君の背中を追いかけた。
エナドリは買えなかったけれど電車で仮眠をとった事も相まってか彼のおかげですっかり目が覚めた。

試合前にこんな気の抜けたことをしていて大丈夫かと不安を感じつつも火神君に追いついたところで見た彼の顔は先程までとはまるで違っていた。

2人ともやる気満々、といった表情だ。

こういうところがずるい。
その横顔が本当にかっこよくて。

私は自分の胸の内がテツヤ君にバレないよう必死で取り繕った。

いよいよ準決勝が始まる。


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