「なんで名前ちゃん来ないの!?」
「...僕も誘ったんですけど中学の同窓会みたいなものだからって断られてしまったんです」
桃井さんが僕の誕生日に企画してくれたストバス。
コートに着くと桃井さんは明るく誕生日を祝う言葉を口にした後きょろきょろと周りを見渡しそう言った。
相変わらず彼女の声はよく通ると内心考えた。
桃井さんには彼女も呼んでほしいと言われていた。
だけど彼女は上記の理由でここには参加しなかった。
今は火神君の家で夕方から予定されている誠凛のみんなが企画してくれた僕の誕生日パーティーの準備に参加している。
正直僕がいない所で他の男性の家に行くだなんてあまりしてほしくはないのだけれど今日は僕を思ってのことだと分かっているのでそれを受け入れた。
「てか桃っち黒子っちの彼女といつから仲良くなったんスか?」
「えへへー、名前ちゃんとはね、色々お話してね、仲良くなったの!デートもしたしお風呂も一緒に入っちゃったの!」
桃井さんさんはそう言って興奮してきゃーっと青峰君の背中をバシバシと叩いてはしゃいでいた。
それを青峰君は咎めていたけれど彼女が気にする様子はない。
きっとこの2人はずっとこうなのだろう。
「黒子っちのあの感じなら桃っちにも嫉妬しそうっスけど案外平気っぽいの意外っスね」
「僕のことなんだと思ってるんですか。
それに僕だってデートもしてますしお風呂も入りました」
黄瀬君の言葉に苛立ってついうっかり正直にそれを言葉にしてしまえば3人は三者三様な反応を見せた。
「へ〜そっかぁ〜テツ君も入ってもらえたんだぁ!良かったね!」
なんか物凄くマウントを取られているように聞こえるのは気のせいでしょうか?
「...黒子っちも男だったんスね」
僕が女性に見えているとでも言うですかぶっ飛ばしますよ。
「なんだやる事やってたんだな」
青峰君はあからさますぎです下品です。
そんなやりとりにまだボールにすら触れていないのにどっと疲れてしまった頃緑間君が高尾君に連れられ登場し今日の僕のラッキーアイテムらしいキーホルダーをくれた。
そしてそれに続いて赤司君が現れすぐに紫原間も現れた。
わざわざ京都と秋田から来てくれた2人に感謝の言葉を伝えると赤司君がさっきは何の話で盛り上がっていたのか、なんて聞くものだから適当に長そうとしたのだけれど主に桃井さんと黄瀬君が馬鹿正直に話してしまうものだから緑間君には不埒だと眉間に皺を寄せられ赤司君には元気そうで何よりだとなんとも言えない気遣いの言葉をもらい紫原君には僕は小さいからお風呂も問題なく一緒に入れそうだなんて言われてしまった。
またみんな揃ってバスケが出来る、そんな関係に戻り嬉しい筈なのになんとも言えない気持ちを抱えながらストバスを楽しんだ。
夕方になり解散ムードになったけれどそのまま別れるのは惜しくなって結局全員火神君の家での誕生日会に同行してもらうことになった。
僕達を出迎えてくれた降旗君は赤司君を見て白目を向いて倒れそうになったけれど紫原君が降旗君を支えてくれた。
僕より先にズカズカと家に上がる青峰君に続いて部屋に上がると既に食事の用意は殆ど終えていて、キッチンで何かしていた彼女も僕を見るとおかえり、と声をかけてくれた。
これが日常になる日がいつか来るのだろうかと考えるとつい顔が緩んでしまいそんな僕を見て皆んなが僕を揶揄った。
でもそれは別に嫌ではなかった。
帝光のみんなとこんな風になれるなんて、あの頃は思いもしなかったから。
「名前ちゃんエプロン姿もすっごく可愛いね!」
桃井さんはそう言って彼女に抱き付いた。
それは僕の台詞だと思うのだけれどと思いながらも桃井さんが彼女をそういう目で見ているのではないのだから、と自分を言い聞かせて彼女に近付いた。
「桃井さんと言う通りです。とても素敵ですね」
桃井さんに抱きしめられたままの彼女にそう伝えるとほんのりと頬を染め、ありがとうと言って僕から視線を逸らした。
僕にだけ見せるその顔が堪らなくて今すぐ彼女を抱きしめたくなったけれどそれを火神君が止めた。
「...何をするんですか」
「お前今自分がどんな顔してんのか分かってんのか。
マジでやべぇから落ち着け」
一体どんな顔をしているのだと言うのかと不満を抱くと桃井さんが自身の鞄から鏡を取り出し僕の顔に鏡面を向けた。
その顔を見て悔しいけれど僕は火神君の判断は正しかったのだと認めるしかなかった。
それにしても自分がこんなにギラギラした目を彼女に向けてしまうなんて、と少しショックを受けた。
今まではここまででは無かった筈だ。
一度身体を重ねてしまうとこんなにも変わってしまうのかと自分の欲の強さに呆れてしまった。
「テツヤ君、今日は誕生日だからちょっと高級なバニラアイスも買ってあるから後で食べようね」
気を使って話を変え取り敢えず座るよう促し僕の背を押してくれた彼女が愛しくて仕方ない。
本当にいくつになっても僕は彼女に世話をされて、頼ってばかりだ。
彼女はまだ何かすることがあるのか再びキッチンに戻ろうとしたけれどそれを火神君が止め僕の隣に座らせた。
火神君にごめんねと言う彼女に気にするなと返事をした彼らのやり取りを見て少し妬いてしまった僕は本当に嫉妬深いのだと思う。
そんな僕に気付いたのか彼女は困ったように笑ってそっと僕の手を握った。
それだけで僕の心が浮かれてしまうのだから僕はどれだけ単純なのだろうかと呆れてしまう。
きっと将来彼女が甘えた声で買って欲しい物があると抱き付いておねだりをしようものならなんでも買ってしまいそうだなんて想像をした。
そんなことを考えているとそれが表情に出ていたのか僕と彼女の両隣に座る黄瀬君と桃井さんが僕を見て嫌な笑みを浮かべていたのに気付いて一度咳払いをして顔を引き締めた。
そうこうしている間に先輩達も到着した。
カントクが桃井さんの隣に座ると鞄から紙袋を取り出し彼女に手渡した。
「私にですか?」
「そう!黒子君の為に名前ちゃんに用意したの!きっと喜ぶから!」
彼女は受け取ったそれを何だろうかという顔をしながら封を開け中身を覗きこんだ。
するとなんとも言えない顔をして顔を赤くしたので僕もそれを見ようと顔を近付けたけれど彼女はそれをぱっと僕から遠ざけてしまった。
そしてその紙袋の中も桃井さんが覗くと桃井さんはにんまりと笑った。
「リコさんナイスです」
「まぁ単純だけどきっと黒子君は好きだから」
「これをどうしろって言うんですか...」
何やら女性3人で盛り上がっている。
僕の為のものの筈なのになぜか僕は蚊帳の外だ。
一体なんだったのだろうかと気にしている僕に彼女はまた後でねと言ってその紙袋を自身の鞄にしまってしまった。
キャプテンや火神君がカントクに本当にアレにしたのかと呆れていたので多分僕意外の誠凛の皆んなは中身を知っているのだろう。
もやもやしつつも後でと言った彼女の言葉を聞き今はこれ以上追及しないことにした。
こんなに沢山の人に誕生日を祝ってもらったことは初めてだ。
誠凛に来ていなければきっと今日こんなに楽しい日は迎えられていなかっただろう。
僕は相変わらず彼女が他の異性と話しているだけで気になってそわそわしてしまったけれど彼女は心配しなくても大丈夫だよと目で訴えてくれたから、少しは我慢も覚えようとぐっと堪えた。
楽しい時間は本当に経つのが早く、夜も更けていきそろそろお開き、となった。
僕も彼女も後片付けをしようとしたけれど先輩達に主役は良いから先に帰っていいと半ば強引に2人して家から追い出されてしまった。
仕方ないかと顔を見合わせて2人で家を目指して夜道を歩いた。
まだまだ寒い季節だ。
吐く息は白い。
でも彼女と手を繋いで歩く夜道は幸福で、心は暖かいままだった。
「...あの、もう少しだけ...駄目ですか?」
丁度公園の前を通りかかったところで彼女にそう訊ねると彼女はあっさりと首を縦に振ってくれた。
その公園に彼女と来たのは2度目だ。
1度目は中学の卒業式の後、彼女と2人でベンチに座ってバニラシェイクを飲んだ日だ。
「さすがに今は冷えるからあったかいの飲もっか」
彼女はそう言って公園にある自販機に小銭を入れ僕に選ぶように言った。
いつも僕に奢らせてくれないのに、と不満を口にすると今日は僕の誕生日だから、と言い張って聞き入れてもらえなかったので僕は素直に彼女の指示に従った。
甘いミルクコーヒーを購入すると彼女も同じものを買った。
ベンチで隣あって座り暖かいコーヒーを一口飲んで一息ついた。
「そういえばカントクからの贈り物って何だったんですか?」
「あー...あれね...」
彼女は複雑な表情をしながら鞄から先程の紙袋を取り出し僕にそれを手渡した。
もう見てもいいのだろうかと思いながら受け取り中身を確認すると水色の束?リボンだろうか。
それと何やら畳まれた白い布が入っていた。
「出してみても大丈夫ですか?」
彼女に許可をとるといいよと言ってくれたのでそれを取り出し広げてみた。
その白い布はアニメなどで見る胸元がハートの形になったフリルの沢山ついたエプロンだった。
僕は一瞬わけがわからず固まって彼女を見ると彼女も苦笑いを浮かべていた。
「...まぁ、あれだね。いちゃいちゃしてねっていう...アレじゃないだけまぁマシなのかな...」
彼女は一人言のようにそう呟いた。
アレとは一体なんのことを言っているのだろうと思いながらもこれを着けた彼女を想像すれば顔がにやけそうになってしまった。
多分彼女は着てくれるはずだからとそれを楽しみにしつつ簡単に畳み袋に戻した。
そしてもう1つ入っていた水色のリボンを取り出した。
「こちらは何のためのものでしょうか?」
彼女にそう訊ねると彼女は少し恥ずかしそうにしながら僕の手からそれを受け取りしゅるしゅると解いて首に掛けて前でリボンを結んだ。
それを見てまさか、と思いながらもそんなことは、と戸惑っている僕に彼女は口を開く。
「......もうとっくに分かってると思うけど...私の全部テツヤ君にあげるから...」
彼女はそう言って僕に向かって手を広げた。
こんなに、こんなに幸せなことってあるだろうか。
そう感動すら覚えながら彼女を抱きしめると彼女もまた僕を抱きしめ返してくれた。
「...私からのちゃんとしたプレゼントも用意してあるから、家に帰ったら渡すからね」
「嬉しいです。でもすみません、多分今貰ったプレゼントが1番嬉しいです」
どうしてまだ僕は高校生なのだろう。
大人であれば、せめて大学生であればこのまま彼女を帰さないとそう言えるのに。
どれだけずっと一緒にいたいと願ってもまだそれは叶わない。
僕はともかく彼女は女性だから。
「来年も、再来年もずっと僕の誕生日、お祝いしてください」
「うん。...私の誕生日もお祝いしてね」
勿論ですと言って少し距離をとってから彼女の顔に唇を近づけた。
自然と閉じられた目、当たり前のように受け入れらる行為が本当に嬉しくて。
キスなんてもう数えきれないくらいしてきたというのにそれを心の底から嬉しく思う。
「私を好きになってくれてありがとう。
テツヤ君と出会えたこと、全部運を使い切っちゃったかもってくらい、本当に幸福なことだと思ってるから」
嬉しくて泣いてしまいそうになった。
絶対に彼女を、それは物心ついた頃から思っていたことだけれど。
ひらりと僕の想いを躱わす彼女に半分諦めていた部分もあった。
それに中学の頃一度ば僕から彼女の手を離したのだ。
それがあって今こんな風に彼女といられるのだから。
それは奇跡と言っても過言ではないと思う。
「なら僕の運、半分分けてあげます。
...でももしかしたら僕の分も残っていないかもしれないです」
大好きです、愛しています。
いくら言葉にしたって伝えきれないくらい。
僕は貴方を想っています。
end