甘えん坊な猫

今日は午後から練習試合が組まれていた。
今まではカントクが活動的練習試合の交渉を行なっていたがウィンターカップで優勝してからは他校からの申し込みも少しずつ増えた。
練習試合が増えた分それに合わせて普段の練習はよりハードなものになっていった。
それでも元々練習が好きな彼は今までと変わらず休憩時間を返上してまでバスケの練習に集中していた。
そんな姿を見ているとやっぱりかっこいいし好きだなって、そう思うのだけれど。
練習や試合であれだけ集中出来るからだろうか。
私と2人でいる時の彼はネジが数本抜け落ちてしまったような気の抜けた、そんな振る舞いをとることが多い、そんな気がする。



「今日凄く疲れたので僕の元気が出るようにキスしてください」

「...まぁ、いいんだけど...」

言われるがままキスをすれば彼は私の腰を抱き寄せて一度のキスでは終わらせてくれたい。
角度を変えて何度も何度も、深いキスに移行していく。
結局こうなるのであれば最初から自分ですればいいのにと思うけれど。
唇が離れた後もすりすりと甘える彼の頭を撫でてあげると今度は頬にキスをされた。

「テツヤ君って猫みたいだよね、男の子の猫」

「そうですか?でもそれなら貴方は猫好きだから丁度いいじゃないですか。」

まぁ確かにそれはそうだけれど。
私自身猫を飼っているわけではないけれど友達の家にいる猫で比較的愛想よく甘えてくれるのは男の子ばかりだ。
もっとも全てのオス猫が、というわけではないのだろうけど。
あくまでも経験上での私の中のオス猫のイメージは甘えん坊だと、そういう話だ。

「ああ、でもそれを言うのであれば貴方も猫っぽいですよ。女の子の」

穏やかに笑って猫にするように私の下顎を撫でた彼に反応に困った私は顔を逸らして逃げた。
するとまた笑ってそういうところですと言った。

「子供の頃家の猫が子供を産んで男の子も女の子もいたんですけど女の子の猫には触ってる時に何度かパンチされたり引っかかれたりして泣かされました。
まぁ男の子に何もされなかった、というわけではないですけど」

猫に泣かされるテツヤ君を見てみたかったと思う私は性格が悪いのだろうか。
勿論彼の泣く姿は何度か見た。
バスケの、試合の時に。
でも高校で彼と初めて出会った私にはそれ以外の、バスケ以外の事で彼が泣く姿なんて想像出来なくて。

「...たしかにテツヤ君はこうされても逃げないよね」

彼が先程したのと同じように下顎を指で撫でた。
彼は目を閉じ大人しくされるがままになっていた。
本当に猫みたいだ。

「他の人にされたら普通に逃げます。
名前さんにされているから逃げずに受け入れているだけです」

「...私にしか懐かない猫ちゃんなんだね」

頬を撫でてもう一度彼にキスをすると嬉しそうに目を閉じた。
随分今日は大人しくて可愛い、なんて考えてしまった事をしれば彼は怒るだろうか。
私にべったりと抱き付く彼をよしよしと撫でていたその時。
首に何かが触れた。

それは彼の髪でも手でも唇でもない。
おそるおそる首に触れた何かに触ってみた。
おそらく皮で出来ていて、小さな穴が複数個開いていて金属っぽいなにかが付いている。

「...〜テツヤ君っ!!」

「はい、なんですか?」

私に抱き付いている彼を引き剥がそうと力いっぱい胸を推してみたけれどびくともしない。
元々力で勝てたことなんて無かったけれど付き合い始めた時よりたくましくなった気がする。
それは日々彼が努力をしている賜物だろう、そういう所は本当に尊敬している。
でもこういうところだけは本当に、本当に。

「なんでこんなの付けるの!?」

「安心してください。ちゃんと人間用の首輪ですから」

人間用の首輪、あまりにもおかしな単語に頭の中は疑問符でいっぱいになった。
ファッションアイテム的なものとでも言うのだろうか。
でも私はそんなロックな服装をしているけではない。
だから首輪なんて絶対に似合う筈がないしプレゼントとして彼が私に選んだのだとしたら最悪なセンスだ。

「実はこちらも用意してあります」

「...なんで、そんな、...え、怖いんだけど本当に...」

彼は猫耳の付いたカチューシャを私に見せそれをそのまま私の頭に装着した。
いくらなんでもタイミングが良すぎる。
もしかして彼は私が猫の話をするよう誘導していたというのだろうか?
この機会を狙って彼は今日このような行動を取っていたというのだろうか?
だとしたら本気で怖い。

「それを着けてお出かけしましょうとかそういうことは言いませんので、ただ僕が可愛い猫ちゃんを可愛がりたいだけです」

「仮にそんなこと言われたらテツヤ君とのお付き合い考えさせてもらうところだよ」

私の言葉を聞き絵に描いたようなガーンといった顔を見せた彼を当たり前だという顔で見つめ返すと彼の中でどういった結論が出たのかは分からないけれど彼は私のカチューシャを自身の頭に装着した。

「...え、...なに?」

私の首から先程付けた首輪も外して自身の首に着け直した。
というか彼の首に着け直されあそれを見てファッションとかじゃなく思いっきり首輪です!というデザインのものを着けられていたことにドン引きした。

「僕は貴方がいないと生きていけない猫なんです!捨てないでください!!」

「ちょっ、痛い痛いっ!」

背骨が軋む程強く抱き締められた私はギブだと訴え彼の背中を強めに叩いたけれどその力が弱まる気配はない。

「こんなに可愛い僕を捨てるだなんて正気の沙汰ではないです!」

「えー...そんなの自分で言っちゃう?」

というか普段は可愛いって言ったら否定するくせに、と内心悪態をつきながらも身体の方が限界を迎えていた私は口にはしなかった。

「...大丈夫だよ、捨てるなんてしないから。
ずっと私といようね」

苦しさに耐えながら彼にそう言ってよしよしと背中を撫で頬にキスをすればようやく彼の腕の力が少し弱まった。

「ほら、可愛いテツヤ君もっと見せて?」

額から瞼、こめかみへと順番にキスをすれば彼は腰を抱いたまま私から少しだけ距離をとった。

様子を探るような顔で私を見る彼はあまりにもあざとい、でも実際可愛いのだからなんとも複雑だ。
そもそも単純に顔が好みなせいだ。
勿論彼の好きな所が顔だけというわけではないのだけれど。

「では僕の事もっと沢山可愛がって安心させてください」

彼はそう言って頬にかぷりと噛み付きそのまま押し倒された。
まぁなんというか、彼に猫耳を着けられた時点でもう最後はこうなるのだろうと想像は出来ていた、正直なところ。

「テツヤ君...もうね、こういう事したい時はね...変な方法取らずに普通に言って?」

付き合っているわけだし別に普通にしてくれたらこちらも無理な日以外は拒まないからと言って彼を見上げた。

「え、...では最初に名前さんとご主人様と可愛い猫ちゃんのいちゃいちゃセックスがしたいと言えば応じてもらえていたということですか?!」

「違う、そういう話じゃない」

普通にって言った筈だけれど彼にはその普通が何か伝わっていなかったらしい。

「本当は僕が名前さんの主人になりたかったんですが今日は逆でも構いません!
沢山僕を可愛がってください!」

すっかりハイになった彼は私の顔をぺろりと舐めた。
今は事情可愛い猫ちゃんの彼は私の両手を手で押さえつけて顔中にキスを降らせていく。
どう考えても私に主導権なんてものはない。
まさか主人の都合なんて全く気にせず甘える猫のように振る舞っているのだろうか。

「こんな格好貴方の前でしかしませんよ、絶対に」

「...もう...」

私は可愛い猫ちゃんを甘やかしすぎてしまう飼い主なのだろう、きっと。
というか悪い飼い主。
普通飼い主は飼っている猫にそんな感情を抱く筈がないのだから。

覆い被さる彼を可愛い私の猫だという設定を受け入れて乗っている時点で大概私は彼に毒されているのだろうなと思った。


end