「名前さん」
隣に座る彼が私の手に自身の手を重ねた。
続けて口にした私の名、その声色が妙に甘ったるい。
彼の方に首を捻ると同じく私の方を見ていた彼と目が合って、そのまま彼は顔を近付けて唇を合わせた。
「...」
見つめ合って互いに無言の時間がすぎていく。
元々彼は物静かな方だしそんな時間はわりと多いので慣れている。
でもこんな風に見つめ合って何も話さない、なんて状況は少々気まずくて。
「...テツヤ君?」
「はい」
彼の名を呼べばただ、はい、と。
たった2文字呟いてまた静かに唇を寄せた。
「...どうしたの?」
「いえ、別に...」
やっぱり何も言わずに今度は私をぎゅっと抱きしめた。
甘えたいのだろうか、それとも寂しいのか、あるいはそういう気分になってしまったのか。
どれだろうかと頭の中で考えを巡ったところで正解は分からない。
「...ベッド行きたい?」
「い、きたくない、というわけではないですけれど...」
彼は私の言葉にぴくりと反応を示したけれどそれに応じるまでには至らなかった。
そういう気分になった訳ではなかったらしい。
「なにかあったなら教えてほしい。じゃないと何も助けになってあげられない」
彼の背を撫でながらそう言えば彼は少し身体を話し再び私の顔をじっと見てキスをした。
彼の眉間にはほんの少し皺が寄っていた。
「...言っても嫌いになりませんか?」
「それは内容を聞かないことにはなんとも」
私の返事を聞いて彼は少し不満げな顔を見せた。
そんなことないよと言って欲しかったのだろうか。
でも絶対、なんて確約は出来ない。
例えば浮気しました、なんて言われたら多分即彼の顔にビンタを食らわせると思うし。
でも浮気とかじゃなくて他に好きな人が出来た、ならそれも出来なくなってしまうのでそれならばいっそ前者の方がいいくらいなのだけれど。
「...他に好きな人でも出来た?」
「っ、貴方がいるのにそんなことあるわけないじゃないですか!?」
1番最悪なことを想定した質問をぶつけて見たけれどどうやら違ったらしい。
それに内心ほっとしつつごめんねと彼の頭を撫でた。
「じゃあ一体どうしたの?」
「......先週、金曜日の放課後...」
「え?...あー...」
彼がぽつりと呟いた単語を聞いて私は全てを理解した。
「...誰かに聞いたの?」
「...はい、バスケ部の先輩に...」
別に報告するような事でもないと思っていなかったので彼には伝えなかったことがあった。
それは私がとある男子生徒から告白を受けた、という。
それが先週の金曜日の放課後のことだった。
テツヤ君がその日珍しく放課後の部活がミーティングだけで解散とのことで久しぶりに寄り道でもして帰ろうかという話になり彼の事を待っている間適当に図書室や校内をウロウロしていたのだ。
その時たまたま同じクラスの男子に出会い話しかけられたので雑談に応じていれば突然手を握られ愛の告白をされてしまったのだ。
当然私はテツヤ君と付き合っていたので丁重にお断りしたのだけれどなかなか納得してもらえず無理やり抱きつかれてしまった。
あの時は本当に鳥肌が立った。
「...大丈夫だよ、どこまで聞いてるか分からないけれどあの後私思い切り股間に膝蹴り食らわせたから。
多分もう私のことなんて好きじゃないよ、彼」
「告白されていたとしか聞いていなかったのですが一体何があってそんなことになったんですか」
失言だった。
てっきり抱きしめられた事を知っていたからこそ先程抱きしめられたと思っていたのに。
彼は疑惑に満ちた目でこちらを見ている。
これまでの経験上きっちり話をするまで彼は許してくれないということは分かっている。
まぁ別に私が何かしたわけではないから怯える必要なんてないのだけれど、でも他の男に抱きつかれた、なんて話しを彼氏であるテツヤ君に話すのはなんだか抵抗感があった。
でも黙っていたところで彼を傷付けるのは同じ事だしそれならもう正直に言った方がいいかと思い私は正直に何があったか伝えることにした。
「...告白されて、彼氏もいるからって断ったんだけど。...彼氏よりも自分の方が絶対私を好きだからって、それで抱きつかれたの...」
「...僕よりも...?...へぇ...?」
まずい、今まで見た事もないほど怖い顔をしている。
ぼそりと呟いた名前は紛れもなく私に告白をしたクラスメイトの名で。
相手の事を知られていることまでは想像出来ていなかった。
なんだろう、彼に抱きしめられているというのに今は寒くて仕方ない、震えてしまいそうだ。
「わかってる、わかってるよ!テツヤ君が誰より私のこと大好きでいてくれてるの!テツヤ君の愛はちゃんと伝わってるから!」
このままでは彼に何をしでかすか分からない。
許可もなく女の子に抱きつくような駄目な男ではあるけれどそれには私自身がきちんと制裁を与えたし次の日きちんと謝罪してくれたからもう蹴りがついた話だ。
というかここでテツヤ君が何かしてしまって部活に影響が出ては困る。
まだ大会中で彼は現役の選手なのだから。
「もうね、馬に蹴られたってことで、ね?
さっさと忘れたいし折角こうしてテツヤ君と一緒にいられる時間に他の人の話なんてつまらないし、ね?」
「...それは、そうかも、しれないですけど...」
彼の表情が少し和らいだのに内心ほっとしつつ彼に力いっぱい抱きつき言葉を続けた。
「私もテツヤ君しか見えてないし、多分テツヤ君も今は女の子は私しか見えてないよね?
だから今まで通り何も変わらないよ!」
「今はってなんですか、僕がそのうち心変わりする前提みたいな言い方しないでください」
余計な言葉を付け加えてしまったと内心後悔したけれどそこで私の気持ちではなく彼の気持ちに対して絶対に、なんて言える程のメンタルは持ち合わせていなかった。
多分、というより確実に私には勿体無いくらいの人だから。
「...取り敢えずあの人になにかするとかそんな気はないです、が」
「え、わっ、ちょっ」
彼はそう言って私を抱き上げベッドに放り投げた。
そして私の上に馬乗りになって学ランを脱ぎ捨て、きっちり上まで止められていたワイシャツのボタンを外していく。
「て、てつ、や、君?」
「貴方がまだ僕の気持ちを十二分に理解していないということがわかりましたので、今日はそれをじっくりと叩き込んであげることにしました」
シャツも脱ぎ捨て中に着ていた白のTシャツもベッド下に放り投げてしまった。
「...痛い事や怖い事なんてしません、ひたすら気持ちよくして差し上げるだけですから、安心してください」
私の手を取り手の平にキスをしてそう言って私に覆い被さった。
「貴方が好きになった男がどれだけ貴方を愛しているか、今一度ご自身の身体でしっかりと体感してください」
疑ってなどいないのに。
結局のところ今回のような場合、私はどうするのが正解だったのだろうか?
恥ずかしくなるくらい全身を愛でられ、喉が枯れるくらい鳴かされて。
丁寧に、丁寧に触れられ、彼の言う通りその愛は存分に伝わった。
でもその丁寧さは少し焦ったさも含まれていて、少し意地悪をされた気もする。
だってそんな事を考えていた時彼は楽しそうに笑っていたから。
人生で告白される機会なんてそうそう無いとは思うけれどもしまたそういう事があった時は本当に色々気をつけようと、そう思った。
まぁ何を気をつけるのかって話だけれど。
「僕が1番名前さんのこと好きですから」
「...うん、知ってる。私も同じだよ、テツヤ君のこと1番好きなの私だから」
彼は笑って新しいゴムを装着した。
(え、ま、まだするの?)
(はい、勿論。寧ろここからが本番ですから)
end