「名字は来てくれたのか」
「はい、折角ですしご挨拶したかったので」
テツヤ君達一年生は木吉先輩の見送りはいらないという言葉を素直に聞き行かないと知っていたので少し悩んだけれどやっぱり彼無しではウィンターカップで優勝は出来なかったと思うから最後にもう一度と思いリコ先輩に予定を聞き私も空港まで見送りにきた。
「黒子君はよかったの?」
「はい、今日はさつきちゃんと待ち合わせしているそうなので」
今日は確か彼女から写真を受け取りにいっている筈だ。
一緒に来ますかと誘われたけれど私は遠慮させてもらって木吉先輩の見送りにきた。
「え、もしかして黒子君には言ってこなかったの?」
「...まぁ、はい。さっきからメールと着信が凄いので後で連絡します」
リコ先輩と私の会話を聞いていた木吉先輩は声を上げて笑った。
本当に朗らかで落ち着いた人だと思う。
前の人生で高校生でこんなに貫禄がある人なんて出会った事がなかったのは私の世界が狭かっただけなのだろうか。
「俺は夏からだったけど名字にもいっぱい世話になったな、ありがとうな」
そう言ってわしゃわしゃと私の頭を撫でた。
高校に入ってからテツヤ君以外の男の人に頭を撫でられる機会が妙に増えた気がする。
と言ってもそれはバスケ部の先輩達に限るのだけれど。
「また帰ってきたらみんなでバスケしましょうね」
乱れた髪を手櫛で整えてそう伝えると気持ちの良い笑顔を見せてくれた。
その顔は年相応かもしれないと思った。
みんなが順々に一時の別れの言葉を交わしていくのを見ていた。
私なんかよりずっと絆が深い。
一生の別れなどではないと分かっていてもやっぱり別れは物悲しくて、鼻の奥がツンとした。
私が泣くのなんておかしいのに、その場の、とくに日向先輩にあてられてしまったのかもしれない。
「そんな顔をしてもらえるなんて可愛い後輩が出来て嬉しいよ。
リコやうちの部のこと、これからも宜しくな」
「...はい」
「ちょっと鉄平!この後練習あるんだからその時名前ちゃんの目が赤くなってたりしたらややこしいことになるからやめてよね」
堪えきれず涙を流してしまった私をリコ先輩は抱きしめよしよしと貴方を撫でてくれた。
別に木吉先輩が特別変わったことをいったわけではないのに、なんだか申し訳ないことになってしまった。
木吉先輩は悪かったなと言ってハンカチで私の涙を拭ってくれた。
こんなことはテツヤ君にだってされたことがないから余計に恥ずかしくなってしまった。
まるで子供のように思われているんじゃないか、そういう意味でだ。
でもいまそんなことに文句を言う気になんてなれない、というよりもこの人にそういう扱いをされるのはそれ程嫌ではないという気持ちが勝った。
笑顔で搭乗口に向かう彼の背中を彼が見えなくなるまでみんなで見送って私達はバスに乗った。
「連絡がとれなくて心配したんですよ」
「ご、ごめんって」
学校に着くなりテツヤ君に捕まって部室に連れ込まれて尋問のようなものを受けることになった。
もう隠すつもりも無かったので正直に先輩達と一緒に木吉先輩の見送りに行っていたと伝えると彼は複雑そうな顔をしてそうですか、と呟いた。
「でもそれならそうと言ってくれれば良かったじゃないですか」
「ごめん、言うとさつきちゃんとの約束キャンセルして無理してでも来るかなって思って...」
彼女もなにかと忙しい筈だからなかなか都合が付けるのは大変かもしれないと思っていたからだと伝えるとそれでもやっぱり彼は少し不服そうで。
「絶対にそんな下心なんて待ち合わせていませんけど僕が貴方以外の女性と2人っきりで会っても貴方は気にならないんですか」
「...まぁ、うーん、さつきちゃんとリコ先輩なら気にならない、かな?
テツヤ君だってテツヤ君の友達...あー、ごめん、なんでもない、です...」
自身の友達であれば大丈夫でしょうと言おうとしたけれど考えてみれば子供の頃から荻原君と話しをしたり手紙やメールのやりとりにすら嫉妬していたし今相棒と呼べる火神君に対してすら嫉妬するのだ、友達であれば大丈夫なんてことはないのだということはすぐに理解した。
「...テツヤ君私がいなくなったら寂しくて死んじゃうかもしれないね」
「縁起でもないこと言わないでください。
でも実際僕はもう貴方無しでは生きていけませんよ」
私の軽い冗談を彼はあっさりと肯定してしまった。
そんな風に言われてしまえば意地でも長生きしなければ、と思ってしまう。
「出来るだけ長生き出来るよう頑張るけどテツヤ君冷静に見えて猪突猛進なところあるからテツヤ君も気を付けてよ、それで長生きしてね」
そう言った私に僕はいつも冷静ですよ、なんて平然と言ってのけた彼に顔が引き攣ってしまった。
でもまぁ今日は秘密にした私が悪かったのだろうと反省してそれ以上何も言い返す事はしなかった。
「名前さんだって僕がいないと駄目だってこと知ってますよ」
「...も、もうその話はいいよ!」
彼には私の恥ずかしいところを沢山見られてしまったから、だからあまりそこを掘り返されては困る。
「僕と会えなくなってあれだけ泣いたの忘れたんですか」
「...忘れてないけど!...テツヤ君最近時々可愛くないよ」
私が逃げられないように壁に追い詰めて両手で腰を抱いて、いつでもキス出来るくらい近い距離で詰められて。
「そうですね。理由は分かりませんが時々貴方に意地悪したくなる時があります...とくに今日みたいな日は」
私を揶揄うような笑みを浮かべて彼は私にキスをした。
彼の言っていることはまさにその通りなので何も言い返せない、それが悔しくてて苦し紛れにじろりと睨んでみたけれど彼は何も気にしている気配はない。
「可愛いですね、今日部活が終わったら僕の家に来ませんか?
勿論名前さんの家でもいいですけど」
「...嫌な予感するからやめとく」
「え、僕といちゃいちゃするのって名前さんにとって嫌な事だったんですか?」
ショックですと言いながら彼は私の耳にキスをした。
「っっ!...そ、そういうことじゃなくて...!」
やめてと言って彼を遠ざけようと胸を押してみたけれどびくともさせられずに再び耳に顔を寄せられて今度は耳朶をかぷりと噛まれてしまった。
「ひゃぁ...っ!」
我慢出来ず思わず変な声が出てしまった私は慌てて口を手で塞いで彼から背を向けた。
本当は逃げ出したかったけれど彼が腕を緩める気配が無かったのでこれは苦肉の作だった。
「...学校でなんて声出すんですか」
「て、テツヤ君のせいでしょっ!
も、もうほんと部活始まるから離してよ!」
今はお腹に回されている彼の腕をぺしぺしと叩いてそう訴えても彼はその手を緩めようとする気配はない。
首筋に顔を埋め今度はそこに唇を這わせようとしたその時。
「...名前さ「おい黒子!何ダラダラやって...」
部室の扉が勢いよく開かれた。
扉を開けたのは火神君で彼は私達を見て顔を赤くしてこんな場所で何やってやがると大きな声を出した。
それに驚いたことでようやく彼の腕の力が緩んで私は彼から逃げ出す事が出来た。
「テツヤ君のバカ!行こっ、火神君!」
「なっ、ちょっと、えぇっ!?」
私はそのまま火神君の背を押して部室から飛び出し部室の扉を閉めた。
部室であんなことをした彼に怒っていないと言えば嘘になるけれど何も本気で怒っただけでこんな手段を取ったわけではない。
これは彼のそれを火神君に気付かれないようにする為だった。
多分1人で大人しくしていれば収まるものだろうから、そんなことを考えながら熱を持った顔を火神君に見られないように顔を逸らしながら未だ部室に残る彼を置いて体育館に入った。
(黒子君遅刻したから罰として外周10km
GO!)
(えっ、そんなにですか!?)
(1週間部活中は名前ちゃんと話すのも接触も禁止とどっちがいい?)
(僕走るの大好きです)
end