日曜日の朝

「...え、テツヤ君?な、なんで?」

「おはようございます、名前さんのお母さんに上げてもらいました。
因みにお母さんはお出かけになられましたよ」

その日は妙に眠くて、部活も午後からだしたまには朝寝坊しようと思ってアラームを止めた後二度寝をきめこんでいた。
でも暫くしてベッドが軋んで何か暖かいものが身体に触れて、それはとても心地が良かったけれど夢か現かそれすらも分からなくて。
でも少し苦しくなってこれは現実だと気付いて目を開けると甘えるように胸元に顔を埋めて抱きついている彼がいた。

「び、びっくりした...」

「すみません、丁度僕が入れるスペースを開けて眠っていたので、我慢出来ませんでした」

こちらを上目遣いで見上げてそんなことを言った彼が可愛くて胸がときめいてしまった。
そして小学校低学年のころくらいまではよく一緒にお昼寝をしていた頃の彼の寝顔を思い出した。

「ちいさい頃はよく一緒にお昼寝したね」

「はい、僕の頭を沢山撫でてくれましたよね」

彼がそれを覚えていたことに少し驚きながらもあの頃と同じように彼の頭を撫でると彼は気持ちよさそうに目を細めた。
その無防備な顔が可愛くて額にキスをすると彼も首を伸ばして私の頬にキスを返した。

「来てくれたのに寝ててごめんね、そろそろ起きるよ」

「...いえ、これはこれで、終わってしまうのが惜しいかなとも思います」

すりすりと顔を擦り付けて腰に回された腕に力が入った。
まだこうしていたいという彼の意思表示だろう。

「そういえばテツヤ君何か用があったんじゃないの?」

「以前ホワイトデーにクッキーを焼いたじゃないですか。
沢山出来たので僕達のお父さんにもお渡ししましたよね。
そのお礼にって僕の父から名前さんにお菓子を預かってきました」

あんなついでのようなものに律儀にお返しをくれるだなんてさすがは彼のお父さんだ。
彼はお母さん似だから顔はあまり似ていないのだけれど話し方や性格は彼にそっくりなんだよね。

「最近全然会えてないから久しぶりにテツヤ君のお父さんにも会いたいね」

「喜ぶと思いますよ、いつでもいらしてください」

でもわりと互いの家を行き来しているわりには彼のご両親に暫く会っていない気がするのは何故だろう。
最近忙しいのだろうかと思ってそれを彼に訊ねてみた。

「最近全然会ってないんだけどもしかしてテツヤ君のお父さんとお母さん何かあった?」

「...すみません、名前さんが会えていないのは単純に僕が両親の留守を狙って貴方を家に呼んでいるからなだけです」

彼の言葉の意味を理解してまた余計なことを聞いてしまったと後悔した。
そしてそれを妙に意識してしまうと今度は今の現状がとてつもなく気まずい状況に思えてしまい反射的に彼の肩を押してしまった。

「僕だって傷付きますよ、そんなあからさまに...」

離れたくないと言わんばかりに彼は再び私に抱き付いた。
先程までは可愛いとしか思っていなかった彼が途端に男の人に見えてしまう。

「心臓、凄くどきどきしてますね」

「そういうの一々言わないでっ!」

こんなことですぐ動揺してしまう私が情けないのかもしれないけれど。
これだけかっこよく育った彼に柔らかい口調でそんな事を言われてしまえば更にドキドキしてしまってそれを聞かれたくなくて離れてと頭を押してみたけれど彼は一向に離れる気配がない。

「大丈夫です...今、残念ながら持ってきていませんし...出来ませんから」

「え、あ、あー、そっか!」

何の話をしているかくらいすぐに理解してホッと胸を撫で下ろせば彼は拗ねたような顔でこちらを見た。

「...別にすぐに取ってこれますけど、取ってきましょうか?」

「いいよ!大丈夫だから!」

彼の言葉にぶんぶんと顔を左右に振ると彼は完全に不貞腐れて顔を背けてしまった。
でもそんな顔をしていても私から抱き付いたまま離れる気配はないのだけれど。

「僕とするのそんなに嫌ですか?」

「い、嫌、とかじゃなくて...なんていうか心構えみたいなのが必要なの!」

そういう事をする時は私も彼も普段とは変わってしまうから。
だからそれに合わせてすぐさま気持ちを切り替えられるほど私はまだ成熟していない。

「でも僕からすれば貴方が恥ずかしがって必死になっているの堪らないんです。
だから今も普通にヤバいんですよ」

彼はそう言って首筋にキスをして服の裾から手を忍びこませて直接背中に触れた。

「テツヤ君!」

「こうしていたらそういう気持ちになりませんか?」

ブラのホック部分を指で撫でて、もう彼は本当にどこでそんな事を覚えてきたのだろうか。
少なくとも私が初めての恋人な筈なのに。
今日はこれから部活もあるのに、簡単に流されてしまいそうになる。
いつも思うけれど彼は駆け引きが上手すぎる。

「...すみません、意地悪しすぎましたね」

彼はそう言って背中を撫でていた手をすっと引いた。
ベッドから起き上がり私を見下ろして頬を撫でて優しく微笑んだ。

「無理強いなんてしたくないですし、また今度時間が取れる日はしっかりと心の準備をしておいてくださいね?」

私もベッドから身体を起こして彼と向き合うと彼は私の頭を撫でてキスをした。

「...すみません、僕一旦帰りますので...また部活に行く時迎えにきますね」

ふいと顔を逸らして言った彼に怒らせてしまっただろうかと不安になって彼の手を握ると彼は大袈裟なくらい身体をびくつかせた。

「...テツヤ、君?」

「...すみません、察してください」

真っ赤になった顔を逸らしてそう言った彼。
視線を下に向けると彼が何を言いたいのかということに気が付いた。

なんだろうこの気持ち、私は色々と矛盾だらけだ。
何を今更、なんて思いながら彼に視線を向けるとほぼ同時に彼も私を見て互いに照れて固まってしまった。

「......すぐに戻ってきてもいいですか?」

懇願するような表情でそう訊ねた彼。
私の握った手を握り返す手に力が入る。

それがどういう意味なのか、当然理解している。
私は数秒悩んだ後首を縦に振った。

「...いってきます」

彼はそれを見るなり慌てて私の部屋を出ていった。
部屋に残された私はどうしてこんな大胆な選択をしてしまったのだろうと羞恥心を押し潰されそうになってしまった。
彼が戻ってくるまできっと5分もかからない。
私はその場でただただ膝を抱えて彼を待つことしか出来なかった。


end