「あっ、テツ君いらっしゃーい!」
「黒子君、さっきぶり!」
午前中で部活が終わった休日、部活が終わった直後例の如く彼女の家に行ってもいいかと訊ねると彼女は申し訳なさそうな顔をして両手を顔の前で合わせた。
「ごめんね、今日今からリコ先輩が家に来るの」
「ごめんね黒子君〜」
そう言った彼女の肩を抱いてカントクは僕に謝った。
と言ってもそれ程悪いと思っているようには見えなかったけれど。
彼女には彼女の付き合いもあるしそんな日もある、とは思いながらもほんの少し寂しさを感じてしまった。
「あらぁ〜黒子君、なんだか寂しそうねぇ」
「...そんなことないです」
カントクに揶揄われるように言われたそれは図星で。
でもそれを素直に認めることはなんとなく出来ず僕はすぐ否定したけれどそんな僕の本心なんてカントクちはバレバレで僕を見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。
名前さんも苦笑い僕達のやり取りを見て苦笑いを浮かべていたので彼女にもきっとバレているのだろう。
「...テツヤ君もよかったら来る?...実はもう1人ゲストも来るんだよね...」
「ゲスト、ですか?」
「うん...テツヤ君もよく知ってる人だから大丈夫だよ...」
なんだろう、このはっきりしない感じ。
彼女が普段こんな風な物言いをする事なんてないのに、と疑問を抱きつつもも僕は彼女の誘いに乗った。
「では、カントクすみません。お邪魔させていただきます」
「うんうん私は全然構わないわよ!」
カントクがそう言って明るい笑顔を見せるのは対照的に彼女の表情は少し硬い。
「因みに今日はどういうご予定ですか?」
「今日はねー!名前ちゃんのお家で料理の特訓するのよ!」
「......え」
元気いっぱいに宣言したカントクから視線を名前さんに向けるとすぐに目を逸らされてしまった。
こんな風に彼女に拒絶されたことはない、けど、今はそれどころではない。
「...黒子、生きて帰ってこいよ」
僕の肩にポンと手を置きそんな事を言ったキャプテン。
すみません、今はそれちょっとシャレになってないです。
「黒子君も来ることだし今日はフルコースにしようかしら!」
「いいえ、リコ先輩。今日はハンバーグを作ります」
どうしてこんなことになってしまったのかわからないけれど今更無かったことに、なんて出来る筈もないので僕は覚悟を決めた。
そして一旦家に帰り彼女の家を訊ねそのゲストの正体を知った。
まぁ薄々予感はしていたのだけれど。
「ごめん、テツヤ君...こんなこと言っちゃだめなんだけど、...一緒に見張ってて?」
「...はい、僕はいつだって貴方の味方です...」
2人には聞こえないよう小声で話す僕達に気付く様子もなくカントクと桃井さんは意気揚々とエプロンを身に纏いやる気満々だ。
「...2人とも可愛いね、テツヤ君」
「まぁ...はい、そうですね...」
彼女も2人と同じようにエプロンを着けようとしていたその時。
「ちょっと名前ちゃん!
名前ちゃんのエプロンはあれでしょう!」
「そうだよ名前ちゃん!
テツ君もあっちの方が嬉しいよね?」
2人が言っているのは僕の誕生日にカントクが彼女に贈ったもので、はい、僕もあのエプロンには大変お世話になりました。
既に一度見ているし2人がいる以上変な気を起こすことはあり得ないのですがこうまであからさまな態度で勧められると正直に同意しづらいのもまた...。
「名前さん、折角ですしカントクにいただいたエプロンを使ってください」
2人の期待に満ちた視線に耐えられなくなった僕は彼女にそうお願いした。
彼女は分かったと言って自室にエプロンを取りに行き身に付けてから戻ってきた。
やっぱりよく似合っていて可愛いと内心頷いているとカントクと桃井さんは可愛い可愛いとはしゃぎながら携帯で写真を撮り始めた。
恥ずかしいと照れて顔を隠す彼女は更に可愛くてつい魔が刺してしまい僕も携帯のカメラで彼女の写真を撮ってしまった。
「テツ君見て!この写真すっごく可愛く撮れたよ!」
「私の方が可愛く撮れてるわよね黒子君!」
2人に見せられた彼女の写真、正直どちらも可愛くて優劣なんてつけられそうにない。
「2人ともその写真僕に送ってください」
だからそうお願いした。
2人はその場ですぐに写真を僕に送信してくれたので画像を保存してしっかりと鍵をかけておいた。
これで誤って消してしまうことはない筈だ。
しかし改めて画像フォルダを見てみるとその殆どが彼女の写真ばかりでそれには僕自身苦笑いを浮かべることしかできなかった。
もともとカメラで何かを撮る習慣がなかったものだから僕が興味を示し形に残したいと思うものなんて本当に限られているから。
必然的に携帯のカメラ機能は彼女の為にあるようなものになっていた。
「テツ君」
「黒子君」
つい写真の中の彼女に魅入ってしまっているうちに2人に携帯を覗かれていることに気が付かなかった。
慌てて携帯を閉じたところでもう既に遅い。
ニヤニヤと僕を見る2人と何も分かっていない彼女に視線を向けられて気まずくて仕方ない。
「あ、あの、そろそろ始めませんか?」
だから無理やり話を変えると2人はニヤけ顔を浮かべたまま彼女の腕に抱き付いた。
「そうね、早く始めないと、あんまり遅くまでお邪魔したら悪いから」
「そうですね、テツ君に恨まれちゃうかもしれませんし!」
2人が僕達の事を認めてくれているのは分かっているけれどこうもあからさまに揶揄うようなことをされるのは正直困る。
でも器が小さいと思われてしまうかもしれないけれど彼女が他のバスケ部員ではなくカントクや桃井さんと親しくしているというのは正直僕としては安心出来るのだけれど。
小学生の頃から僕以外特別仲が良い人はいなかったと思うけれど慕われてはいたのは知っていたから。
中学で学校が別れてしまってからは彼女の学校でどのような人間関係を築いていたのかは知らないから気が気ではなかった。
「リコ先輩、取り敢えずそのプロテインはこちらに渡してください!さつきちゃんマグカップじゃなくてこっちの計量カップ使おう!」
まぁ、全然違う場面で心配事はありますが...でも彼女もなんやかんや楽しそうにしていますし。
カントクが買ってきた食材の入っていた袋の中には何故か複数の種類のサプリメントが入っていた。
それに気付いた僕は気配を消してそれをキッチンから避難させた。
「テツヤ君、ありがとう」
でもどんなに気配を消したとしても彼女には僕が見えているらしい。
それがどうしようもなく嬉しい。
「美味しかったですね」
「うん、色々ヒヤヒヤしたけど料理なんて基本通りにやればそれなりに美味しく出来るしね。
今日は2人ともきっちりレシピ通り作ってくれたから」
ハンバーグ用に炒めた玉葱を冷ましている間にハンバーグに添える用のマカロニサラダや野菜を用意してお味噌汁を作りメインのハンバーグを形成し焼いてソースで煮込んで。
立派なハンバーグ定食が完成したのはもう夕方近くになっていた。
4人で食卓に着きそれを食べて美味しいと呟けばカントクも桃井さんも凄く嬉しそうな顔をした。
それは勿論それは彼女もなのだけれど。
彼女が2人を見る顔はまるで保護者のようだった。
時々彼女はこいう大人の顔を見せる。
その時の彼女は綺麗だと思うのだけれど少し不安にかる。
彼女が僕のいないところに行ってしまうような、そんな予感がして。
食事を終え後片付けを終えると2人は早々に帰っていった。
気を使ってくれるのはありがたいけれどなんというか反応を楽しまれているような気がしなくもなくて少し思うところはある。
「リコ先輩もさつきちゃんも包丁使うのは上手だったし何度かやってれば多分すぐ上手になるよ」
でも彼女は楽しそうにしているから別にいいかという気持ちになる。
「それにしても今日のテツヤ君人から見たら嫌な人に見えちゃうかもね」
「どうしてですか?」
彼女がなんのことを言っているのかわからず聞き返すと彼女はまた大人びた笑顔を見せた。
「女の子3人に男の子1人ってなかなかないと思うよ?」
「なるほど...」
普通というものはよく分からないけれど年齢を重ねるごとに自然と一緒に行動するのは同性の、というよりバスケ部のみんなとばかりになっていったから確かにそう言われてみればそうなのかもしれないと納得した。
「まぁテツヤ君昔から女の子って私しか見えてないみたいなとこあったもんね」
「はい、それはその通りです」
「...いや、あの、冗談で言ったからそんなあっさり認められてもちょっと困るんだけど...」
彼女は僕から視線を逸らして気まずそうにそう言った。
こう言う時の彼女は僕と変わらない、年相応の女の子に見える。
「本当の事ですよ。昔から僕にとって特別な女性は名前さんだけですから」
「...知ってるから...」
僕がそう言うともういいよと言ってクッションで顔を隠してしまった。
「ちゃんと顔を見てお話したいです」
「顔なんてもう嫌って程見てるでしょ!」
僕のお願いをそう言って聞き入れてくれない彼女を抱き寄せてお願いしますと耳元で囁けば彼女は悲鳴のような声を上げ顔を隠す為に持っていたクッションを落とした。
「そんな顔僕以外の人には見せないでくださいね。名前さんにとっても特別な男は僕だけであってほしいです」
「...とっくの昔からずっとそうだよ...」
この顔も写真に収められたらいいのに、なんて彼女に言えばきっと怒られてしまうんだろうなと考えながら彼女にキスをした。
end