「どういう風の吹き回し?」
話があると呼び出された私はとくに断る理由もなかったので二つ返事で了承した。
学園は夏休みに入っており殆どの生徒は帰省していてこの島に残っている生徒は疎らだった。
レッド寮で残ったのは遊城十代ただ1人。
それも当然だろう、レッド寮にはエアコンが設置されていない。
この暑い季節を和らげるものは昔ながらの扇風機、そんな場所で休暇を過ごしたいと思う人がそう多くいる筈がない。
どうして帰らなかったの?と訊ねれば返ってきた言葉は呆れたものだった。
『俺はここが好きだし今年は名前も残るんだろ?』
彼の言葉にたいして思う事はあった。
だがそこに深く突っ込むことはしなかった。
きっとかわされてしまうと分かっていたからだ。
それに怖かったのだ。
彼の人となりを見ていればなんとなく想像出来てしまう。
きっと彼はデュエル以外に執着はないのだと。
私はそれが少し寂しかった。
「…名前はなんで今年は帰らなかったんだ? 」
話があると呼び出したにしては口数の少ない彼がやっとまともに口を聞いたと思えばそれはなんとも今更な話だった。
「言わなかったっけ?今年の夏は親が海外旅行に行ってて、うちの親って今でも凄い熱々っぷりでね...」
両親の名誉の為に言っておくがだからといって2人きりにしろ!と言われたわけではない。
私が勝手に遠慮させてもらったのだ。
勿論間近で身内のいちゃいちゃっぷりを見るのも正直きつい、ということもあったのだが一番は今年は両親が結婚して丁度20年になる。
だからこそ両親は休みを合わせて長期の旅行を企画したのだ。
20年という時間を経て変わらず互いを想いあえるということが簡単でないという事を私はもう分かる歳になっていた。
私にとって憧れの対象だった。
だから今年は遠慮したのだ。
勿論両親が気に病まないよう適当な言い訳を作って。
「友達が、十代が残るからって、今年は友達と沢山遊びたいからって言ったの」
電話でそれを母に伝えた時母は少し寂しそうだった。
でも笑ってそれを了承してくれた。
貴方ももうそんな歳になったのね、と。
少し勘違いされてしまったかもしれない。
「俺の為に残ったのか?」
「まぁ半分は、ね?」
彼は私の返事に顔を背けてしまった。
彼でも照れることがあったのか、と少し驚きながらも顔を覗こうとすれば今度は身体ごとそっぽを向いてしまった。
「ねぇ、今日はデュエルしないの?」
話がある、と呼び出されたが相手は無類のデュエルバカだ。
突然のように私はデッキとデュエルディスクを持参してきていた。
彼の腰にもデッキケースは付いているからおそらくデッキは持っているのだろう。
だが腕にデュエルディスクは着けていない。
本当に今日の彼はどうしたというのだろう。
今彼はどんな顔をしているのだろう。
なぜ彼は私に背を向けているのだろう。
自惚れかもしれない、笑われるかもしれない。
でもその理由がなんとなく想像出来ている。
出来ているからこそ彼がこんな風になるのは少し意外で。
素直で堂々とした、そんな姿ばかり見てきたからこそ。
こんな彼を私は知らなかった。
「...ねぇ、十代」
太陽がゆっくり沈んでいく。
夏を迎えた頃に比べそれは少し早くなっていた。
夏の終わりを告げるように。
太陽はゆっくり身を潜めていく。
「私ね、実は超能力者だったの」
私の突拍子のない言葉に彼は思わず振り返った。
やっとぶつかった視線。
夕陽で赤く染まった空、それは私達も丸ごと染めてしまった。
「ほら、もう分からないよ」
貴方の頬が染まっていたことなんて、丸ごとこの夕陽が覆ってしまったのだから。
だから隠す必要なんでなくなったの。
「綺麗でしょう?」
私が全部包み隠してあげる怖がらなくていいんだよ、そう続ければ十代はその場でどかっと腰を落としてそのまま後ろに倒れてしまった。
私はそんな彼の横に腰を下ろす。
「...名前」
「ん?」
彼はやっと覚悟を決めたと言わんばかりに勢いよく起き上がり今度はしっかりと私の目を見て口を開いた。
「俺、名前の事が好きだ」
先程まであんなに可愛らしく動揺していた彼はもういない。
目の前にいる彼はいつも通り、自分に素直で真っ直ぐな。
「私も、私も十代のこと...」
大好きな彼だった。