君を想う

デュエルアカデミアを卒業して何年経っただろう。
世界中を転々として日本から離れれば離れる程気候も変わりどんどん感覚が狂っていくのを自覚していた。
その間相変わらず色んな事に巻き込まれ...いや、自ら飛び込んでいったという方が正しいだろう。
そういう旅になることを分かった上で俺は自ら選んだのだから当然と言えば当然なのだが。

少し、ほんの少し疲れたのだと思う。

俺が介入したからといって全てが上手くいく事ばかりではなかった。
そんな事は当たり前の話だ。
そこにあるのは人だったり精霊だったり、彼らの意思だ。
俺の考え方が全て正しいだなんて思っていない。
俺は自分がまだ未熟な子供だということを身を持って学んだのだ。
あの学園で、嫌という程に。

「その上でキミはこの道を選んだのだろう?」

俺の半身はそう言った。
俺がこの道を選んだ理由の一つでもあるユベル。
こいつがいなけれび俺は果たして今ここにいたのだろうか。
なんて考えていたらユベルはあからさまに俺を不満の眼を向けてきた。

「別にお前のせいで、なんて責めてるつもりはないしお前とこうなったことを後悔なんてしてねぇよ」

それは本心だった。
俺の言葉にユベルはまったく、とため息をついてそっぽを向いた。
俺と繋がっているのだからそれが嘘でないことは当然ユベルに伝わっている。
だからこそそれ以上俺を咎める様子はなかった。

「キミ以外の人間なんてボクにとってはどうでもいい」

ユベルも随分丸くなったように思う。
これは遠回しに必要以上に面倒ごとに首を突っ込んでいる俺を案じて言っているのだ。
まぁ首を突っ込んで、というよりは巻き込まれて、と言うのが正しいかもしれないのだが。
それでもデュエルを通して何か力になれたのなら俺は嬉しかった。

「ならどうしてそんな顔をしているんだい?…正直最近のキミは見ていられないよ」

口調は素っ気ないものだった。
でも心にダイレクトに伝わってくる。
ユベルの俺に向けた感情が。
きっとユベルも同じように俺の今の心が伝わっているのだろう。
俺には何を言わずとも物理的に繋がる事できる存在がいる。
そんな奴はきっと他にはそういない。
1人より2人、こんなに心強いことはない筈だ。
なのにどうして俺はこんなに。

「...名前」

口にしないようにしていた名前を零してしまった。
ユベルはあからさまなため息をつき悪態をつく。

「そんなに後悔するくらいなら拐ってしまえばよかったんだ」

なんとも物騒な物言い、正直なところ考えなかったわけじゃない。
手放したくなんてなかった。
ずっと腕の中にしまっておきたい、それくらい名前が好きだった。
それくらい、それくらい大切だった。
だからこそ俺は名前の手を離した。

「ボクなら絶対に連れていく、絶対に離さない」

「お前と俺は違うだろ」

ユベル程俺の意志は強固なものではなかった。
前世の記憶はあの日思い出した。
それでも俺こいつ程の時を生きていない。
それなりに大人になった自覚はあった。
この旅の途中で気付いてしまった。
俺はまだユベルの領域には達していないのだと。

「今からでも遅くないじゃないか、キミの憂が晴れるというのならそうすればいいじゃないか」

それは悪魔の囁きだった。
俺さえいれば、俺以外どうでもいいと思っているユベルが言っているとは思えない言葉。
こいつがこんな言葉を投げかける程今の俺はおかしくなっているのだろうか。
それともこれは俺が心の隅で望んでいることで、俺の本音をユベルの言葉だと思い込んで聞いているのだろうか。

「前にキミが絶対に心を預けないというのなら一時の、一瞬のまやかしに身を委ねる事を許さなくもないと言ったね」

そう口にしたユベルの言葉に感情はない。
本心でない事をくちにしているのだ、当然だろう。
この旅の途中ほんの数回、片手で数えることご出来る程度にそういう事があった。
ほんの一瞬の温かさ、だがその後俺の心に残るものは何もなかった。
それは寧ろ心に何か黒く冷たいものが広がっていった。

「あんな言葉を口にしてしまった事をボクは後悔している」

先程とは違い憎しみをたっぷりと込めた声色で。

「キミの心をそこまで繋ぎ止めているあの女が憎くて堪らないよ。
だからキミにそれ程まで想われているあの女を抱くくらいならどうでも良い奴の方がマシ、だなんて。
そんな風に考えたボクはなんて愚かだったんだろうね」

俺の心と繋がっている影響か、ユベルの言葉に悲しみの念が感じられた。
それはとても複雑で、きっとユベル自身困惑している部分があるのだろう。
俺以外の人間にユベル自身が抱き始めた感情に。

「どこまでも欲深くて、どこまでも自分勝手で、人間なんて碌な奴がいない」

「...俺だってそんな人間の1人だ」

そう、少し変わった力を持った俺も欲に目が眩んでどうしようもない考えを持った奴らと変わらない、ただの人間だ。

きっと俺が知っている世界なんてまだまだ小さく狭い。
この小さな世界の汚さに嫌気が差してしまったのだ。

だからこそ俺の思い出の中でそれが、愛しいものが、名前が一際美しく輝いているのだろう。
思い出だけは変わらず俺の中でいつまでも綺麗なままで。

「残酷な話さ、キミにとっても、ボクにとっても」


愛してやまない人がいる

それが世界を醜く映すことになるなんて

子供の俺には理解出来ないことだった