危なげな愛情表現

黒子君はすごく優しい。
私が毎日のように好きだと言ってもめんどくさそうな顔をしないどころか同じ事言葉を返してくれる。
そうなると私は嬉しくて思い切り抱きつきたくなるけれどそこは我慢を覚えた。
人前では我慢するということが多少出来るようになった。
多分それは彼が普段から私にもお返しをくれているからだと思う。
あとはあれだ、依然桃井さんが黒子君に抱きつかれていた時結構そっけなく対応していたのを覚えているから。
勢いのままに飛びついてはいけないのだと、そう考えるようになったのだと思う。
でもやっぱり物足りないと思うのは私が我儘なのだろうか?
もぐもぐとサンドイッチを食べている黒子君はそれだけで可愛い。

「黒子君、明日午後はおやすみだね」

「はい、折角だし何かしたいこととかありますか?」

やっぱり優しい、貴重なオフを私と過ごすことを当たり前みたいに言ってくれる。
大好きが溢れてしまう。

「明日うち誰もいないから来る?」

彼にそう訊ねるとすぐ近くにいた日向君が飲んでいたお茶を吹き出した。
そかもそれは見事に伊月君にかかってしまった。

「伊月君大丈夫?タオル使って」

衛生的に、というか気分的にいいものでもないだろうと思い早く拭きたいだろうと思ってタオルを差し出すと何とも言えないような顔をしてそれを受け取り顔を拭いた。

「...あの、お話しがあるのですが、少しだけ外に出ませんか?」

「え、今?」

2人きりになれる時間は嬉しい、でももうあと5分程で休憩時間は終わってしまう。
大丈夫だろうかと思って時計を再確認していると日向君は早く行ってこいとジェスチャー付きで私に出ていくように促した。
リコちゃんを見ると同じく頷いてさっさと済ませて戻ってきなさいと日向君に同意した。

「行きますよ」

「あ、うん」

黒子君は私の手を掴んで引っ張った。
手が繋げて嬉しいと内心喜びながら先を歩く彼に着いていった。





「お話しってなぁに?」

「...あの、本当にああいう言い方、ちょっとやめてださい」

「え、私何か酷いこと言った?」

慌てて先程までの自分の言動を振り返ったけれど思い当たる節がない。
でも失言一つで黒子嫌われたくない私は必死で考えた。

「明日本当は私と会うより他にしたいことあった?だったら大丈夫だよ、私家で大人しくしてるから、無理しなくても」

「違います、会いたいのは僕も同じです」

嬉しい、その言葉が聞けただけでもう嬉しくて抱きつきたくなったけれどすぐ近くにまだみんながいるしと思うと堪えるしかなくて。
このくらいはいいかなと思って彼の手を両手で握るとその手を引いて抱きしめてくれた。

「黒子君好き」

「...少しだけですよ」

そうして私の頭を撫でてすぐに離れてしまったけれど今はもうそれだけで幸せで。
じっと彼の顔を見つめると彼は小さなため息をついた。

「...今はもう時間がないので、やっぱり後にします。今日部活終わりどこかで少しお話ししましょう」

「え」

よくない話、まさかやっぱり私と付き合うのが無理だという話だったらどうしようと不安な気持ちになったけれど彼は私の頬に手を触れて少しぎこちない笑みを見せた。

「言っておきますが別れ話とかではありませんので、勘違いしないでくださいね」

「黒子君ってどうしてそんなに私の考えてること分かっちゃうの?」

いつも鋭すぎてなにか特殊な力でも持っているのかと疑ってしまう。
でも彼はまさか、と笑ってそれを否定した。

「名字先輩がわかりやすいだけです。
とても素直なので」

「...それって単純ってこと?」

それならそれで別に構わないのだけれどそのせいでなんでも伝わってしまうのだとしたら少し恥ずかしい。
彼の事を考えているだけならいいけれどくだらないことを考えている時だって沢山あるから。

「可愛いってことです」

「〜っ、黒子君だいすき...っ!」

本当なら抱き付いてキスしたい気持ちでいっぱいなのに今はそう出来ないからそれを誤魔化すように彼の腕を掴んで胸に頭を擦り付けた。
彼はよしよしと頭を撫でてくれた。








「夏はやっぱり全然人がいませんね。
でも丁度いいです、あちらのベンチ木陰になっていますからそちらでお話しましょうか」

「うん!」

午後の練習を終えた帰り彼と話をする為に公園に寄った。
夕方で多少気温は下がったとはいえまだ暑いことには変わらない。
比較的大きな公園にいたのは犬を散歩させているおじいちゃん1人だった。
その人もその後すぐに公園から去ってしまい私たち以外誰もいなくなっていた。

「水分ちゃんと取ってくださいね」

「ありがとう!」

いただきますと言ってつい先程公園の自販機で彼が買ってくれたお茶を開けて一口飲んだ。
ただのお茶な筈なのに彼が買ってくれたからだろうか、普段から飲んでいるものな筈なのに凄く美味しく感じた。

「黒子君って魔法使いみたいだね。お茶の味変えちゃうんだもん」

「変わりましたか?でもそうですね、僕も普段より美味しいって思いますよ。
貴方と飲んでいるからかもしれませんね」

多分こんなこと、普通だったら馬鹿にされてしまうようなことを言っていると。
それを自覚しているのに、彼はそんな私を笑わない。

「すみません、早急で申し訳ないのですが夕方とはいえまだ暑いですし人がいないうちに本題に入らせていただきますね」

「うん、大丈夫だよ」

一体何を言われるのだろうと不安を抱きながらも別れ話を切り出されるわけではないと彼が事前に教えてくれていたから私は静かに彼の言葉を聞くことが出来た。

「今日の昼休み、明日は名字先輩のご家族が誰もいないから来ないかと、そうお誘いしてくださりましたよね?」

「うん」

「その後なにがあったか、なぜそうなったかわかりますか?」

彼に訊ねられ、その時の事を思い出した。
勿論そのくらいのことは覚えている。

「日向君が伊月君にお茶かけちゃった。
...理由は、......わ、たしのせい、だったとか?もしかして...」

「はい、まず間違いなく名字先輩が原因です」

彼ははっきりと言い切った。
どうして、と思ってもう一度私の言った言葉を心の中で呟いてみた。
そこでやっと私は気が付いた。

「...私が黒子君にえっちしよって誘ってるように聞こえたってこと?」

「......はい、まぁ...なんというか、僕かなりどう話そうか悩んだいたんですけど...まぁいいです。話が早いですから」

彼の顔が少し赤くなった気がする。
私の大好きな彼の表情だけれど今はそんなこと言っていい場面ではないとさすがにわかっているのでそのことには触れなかった。

「多分、ですけど名字先輩はそういう意味で僕を誘ったわけではないですよね?」

「...うん。2人っきりじゃないとキスとかハグとか出来ないから、そういうのしたいなって...」

そうだと思っていましたと言って彼は小さなため息をついた。

「でもおそらく大多数の男性はその言い方を、ましてや恋人からされればお誘いだと受け取ってしまいます。
だからキャプテンも名字先輩が僕に大胆な発言をしたと思って驚いてお茶を吹き出してしまったんです」

彼の言っていることはすぐに納得出来た。
そして同時にそのお茶を盛大に吹きかけられることになった伊月君に申し訳なくなった。
同時にお礼を言ってタオルを受け取った伊月君の私を見る微妙な表情の理由も理解して羞恥心まで湧いてきてしまった。

「黒子君とえっちしたくないわけじゃないけど、本当にそういう意味じゃなかったの」

「分かっていますよ。それにいくらなんでも初めてのデートでいきなり、なんて僕も考えていませんでしたし」

彼はそう言って私の頬を撫でた。
彼に触れられるとどうしてこんなに心がときめいてしまうのだろう、と目を閉じてその感触を味わった。

「...あのね、ちょっとだけ昔の、その...フラれちゃった人の話、してもいい?」

「はい、必要だと思われたんですよね?ちゃんと聞きますよ」

すっと離れた彼の手、すぐに彼の手の体温が恋しくなった。
でも今はそんな我儘ばかり言っていられない。

「...私その人とえっちしてないの。
凄く怖くて、...怖いっていうのはそれ自体が怖いってことじゃなくてね、しちゃったらもっと好きになって離れられなくなっちゃうじゃないかって、それが怖くなって」

今黒子君が大好きで付き合っているというのに。
昔好きだった人の話なんて本当はしたくない。
でも話しておかなければと思って、彼は静かに私の言葉を聞いてくれた。

「でもね、その人はしたい人だったから。
でも最初は我慢してくれてたんだけど私がずっとくっついてくるのにえっちはさせてくれないことにもう耐えられないからって、それでフラれたの。...黒子君に本当の理由話さずに告白せがんじゃってごめんなさい...」

「...そうですか」

彼は私の話を聞き終えるとうーんと考える素振りをして目を閉じた。
こんな事を言った直後だというのに私はそんな黒子君を見てかっこいいだとか考えてしまったのだから手に負えない。
自分でもどうかしているという自覚はある。
でも一度好きになってしまうとどうしても自分でコントロール出来なくなってしまう。

「名字先輩には申し訳ないのですが以前お付き合いされていた方の気持ちも分からなくはないです。好きな人と2人っきりでずっと触れ合っていればそういう欲が生まれるのも自然なことだと思います。
僕だって貴方に対してなんの下心も持っていないわけではありません。
でも貴方の気持ちを無視してまで無理強いをしようとも思いません」

私の手を握って彼は私をじっと見つけ私の額に自身の額をくっつけた。

「...正直貴方に告白する前とした後で貴方のイメージがあまりに変わったことに最初は戸惑っていました。でも同時にそんな貴方を可愛いと思う気持ちも増しました。
多分名字先輩に片思いしていた頃より今の方がずっと名字先輩のこと好きになりました」

触れるだけのキスを一回、優しい笑顔。

「僕もっと貴方の事を知りたいです。
だからその辺りのことは一旦考えないようにしませんか?
ゆっくりでいいです。それでももし僕がどうしても我慢が出来なくなったら相談させてください。取り敢えず今その話を聞いたからと言って貴方と別れたい、なんて考えは僕にはないです」

どうして黒子君は私が嬉しいことばかり言ってくれるのだろう。
今思い返せばただのバスケ部の後輩だった頃から私には凄く気を使ってくれていたと思う。
それが彼の性格だけではなく私を好きだという気持ちからきたものだとしたら、嬉しすぎて本当におかしくなってしまいそうだ。

「まぁでも実際僕もそれ程余裕があるわけではありませんので、貴方と長くお付き合いを続ける為にも明日は少しだけ名字先輩の家に寄らせていただいて、その後どこかにお出掛けしませんか?」

正直なところもう今すぐにでも彼に抱かれてしまいたいと、そんな気持ちが芽生えていた。
でも私はまだ自分を抑えきれる自信なんてなかった。
だから彼の提案に首を縦に振った。

「黒子君、私ね、私ももっと黒子君のこと好きになったよ」

「貴方ならそう言うと分かっていましたよ」

彼はそう言ってペットボトルのお茶をごくごくと飲んだ。
一気に半分くらい、多分凄く緊張していたのだと思う。
私もお茶を一口飲んだ。
そのお茶は今度は妙に甘く感じた。

「取り敢えず明日どこに行くか決めましょうか」

何がしたいですかと優しく問いかけてくれた彼に好きだと叫びたくなる気持ちを必死で我慢して私はどこかいい場所はあるだろうかと必死で考えた。
行きたい場所がないわけではない、でも多分彼といられたらどこだっていい、そう心から思っているからこそ答えになかなか辿り着くことが出来なかった。


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