お昼の密会

「ちゃんと美味しく出来てる?」

「はい、とっても美味しいですよ」

新学期が始まり授業が再開してからは夏休みに比べ一緒に過ごす時間が減った。
その代わりということでもないのだけれど週の半分は一緒に昼食をとることになった。
今日は彼女が作ってきてくれたお弁当をいただいている。

「好きなものあったら教えてね。今度はテツヤ君の好きなものばっかりのお弁当作ってくるから」

「今日のお弁当で十分美味しいですから名前さんの考えたお弁当でいいですよ。
僕もその方が楽しみですし」

凄く健全で青春を感じられるやり取りだと軽く感動してしまったのは僕が大袈裟なのでしょうか。
でも僕の身になってもらえたら多分分かってもらえると思うんです。
この普通の会話の貴重さが。
なんというかまぁ、いつもそういう空気になってしまうんですよね。
勿論嫌なわけではないのですがところ構わずというのは少し困ってしまうもので。

「ごちそうさまでした。お弁当箱は家で洗ってまた明日返しますね」

「うん、ありがとう!」

最初は彼女が自分で洗うからいいと言いはっていたけれどそうなると毎日でも彼女は僕の為にお弁当を作ってきてしまうから。
美味しいし嬉しいのだけれどやっぱりそれは彼女の負担になってしまうから。
選手ではないとはいえ毎日部活に出て家に帰るのも僕達と変わらない。
それから学校の課題などにも取り組んで、翌朝朝練前にお弁当作りだなんてどう考えても負担になりすぎる。
でも彼女はそれを喜んでやってしまうから。
まぁそれは全部僕の事が好きだからという理由から出ているやる気ということなので、そういうところ凄く可愛いんですけど。

彼女も自分の分のお弁当を食べ終え空になったお弁当箱をお弁当袋に戻し先程お弁当のお礼に僕が買った紅茶を飲んだ。
新しく出た複数の果実フレーバーの紅茶のパック。

「あ、すごく美味しい。テツヤ君も一口どうぞ!」

「ありがとうございます。...たしかに美味しいですね」

それを一口いただいて再び彼女に返し、僕も自分用に買った野菜ジュースのパックにストローを刺し一口飲んだ。
まぁそれは野菜ジュースとは名ばかり、その殆どが果物で構成された甘いジュースだったのだけれど。

「こちらも飲まれますか?」

「いいの?飲みたい!」

彼女は目を輝かせて僕のジュースを受け取った。
あまりにも美味しそうな顔で飲むものだからもう一本丸々あげてしまってもいいくらいに思うのだけれど彼女がそれだけ幸せそうな顔をするのは僕から貰う一口が嬉しいからということなのが分かっているのでそれを提案することはしなかった。
彼女はすぐにありがとうと言ってジュースを僕に返した。

「...テツヤ君、もう少しくっついてもいい?」

「はい、勿論」

彼女との昼食は部室でとらせてもらっている。
カントクが彼女にこっそり鍵を貸してくれたおかげだ。
変な事をしないようにと僕には釘を刺されたのだけれど出来ればそれは彼女に言ってほしかった、と。
でもまぁ僕も彼女と2人きりで過ごせる時間が取れるのは嬉しいのでそれも下心といえば下心なので素直に返事をしたけれど。
教室とは違い部室にはエアコンなどはついていないので正直暑いのだけれどそれもまぁ仕方ない。
僕と過ごせる時間に本当に嬉しそうに笑う彼女、それを見ればそのくらい十分我慢出来るくらいの価値がある。

「テツヤ君好きだよ」

彼女は口癖のように毎日僕に好きと言う。
そしてべったりとくっついてキスを求められて、もう慣れた、というか慣れる為にやっていることだけれど。
いくら僕の影が薄いからといってもさすがにこんなことを教室でするわけにもいかない。

お互い少し汗ばんでいて彼女の首筋には汗が伝っていた。
それを見た瞬間心がざわついて、まずいと思い目を閉じ彼女のキスに集中した。
まぁなんの解決策にもなっていないのだけれど。
そして僕の首にもまた汗が伝う。

「テツヤ君ってキス上手?なのかな。
テツヤ君とキスするといつも頭がクラクラして身体もふわふわになって、...なんか気持ちいい」

「...さぁ、どうですかね。まぁ僕も似たようなものですから僕ではなく名前さんが上手なのかもしれませんよ?」

僕は彼女以外とこんな事をしたこがないので比較出来ないからそれを正しく判断することは出来ないのだけれど、でも気持ちよくてもっとしていたいとは考える。
というかもうほんとこう言う時の彼女の物言いがいつも本当に...
素直すぎるのも考えものです。
あと以前彼女が付き合っていた人に比べ僕が下手、とかでもなさそうな彼女の反応に少しホッとした。
ほんとその辺は気にしたって仕方のないことなのだけれど全く気にしないでいられる程僕は大人ではない。

「ほんと?じゃあもっとする」

彼女が口を開く度にチラリと覗く彼女からの赤い舌がなんだか凄く美味しそうに見えた。
再び合わせられた唇、それはすぐに離れそうになったけれどぼくは彼女の頭を手を添えそれを防いだ。
彼女は一瞬でもびくりとしたけれどそのまま大人しく僕のキスを受け入れた。
薄目を開けて彼女を見れば同じく少しだけ目を開けた彼女と至近距離で目が合って。

「っ!」

驚いた彼女がひゅっと息を吸ったタイミングで少し開いた唇を舌で割って入って彼女の舌をぬるりと舐めた。
彼女は再びびくりと肩を震わせたけれどやっぱり抵抗する様子もなくじっとしている。
こんな場所でこんなこと、いけないとは分かっているのに。
でも僕はすぐにやめることが出来なかった。
舌で触れ合っていると彼女の口内に唾液が増えた気がする。
それが彼女のものか僕のものか、あるいは2人のものか、多分最後のものが正解だろう。
そう考えていると興味がわいてしまい僕はそれを舌で引き寄せてごくんと音を立てて飲み込んだ。

「...甘い気がします」

「っ、て、つや...く、ん」

思わず呟いてしまった後ですぐにしまったと思い手で口を覆うと彼女は真っ赤な顔をして僕を見ていた。
視線が噛み合うと彼女は慌てて顔を逸らして。
そんな彼女にどうしようもないほど興奮している自分を自覚した。

「もう一回しましょうか」

彼女の顔を両手で包んでこちらを向かせて再び唇を合わせれば彼女はやっぱりされるがままで、僕のシャツをぎゅっと掴んでただただ僕を受け入れた。
こんなに気持ちがいいものなのかと感動すら覚える中キスだけでこんなに気持ちがいいのだとしたらこれ以上の事をすればどうなってしまうのかと考えて恐怖心が湧いてきた。
まぁ勿論自分を慰めることなんてもう何度もしているのだから射精した時の快感は知っているのだけれど。
今それが出来たらどれくらい気持ちがいいのかと想像してしまった。
僕が学校でこんな事を考えているなんて彼女はきっと夢にも思っていないでしょうね。

「...すみません、気持ちよくて僕の方が我慢出来ませんでした」

でももう昼休みも終わる時間が迫っている。
いつまでもこうしているわけにもいかないので惜しむ気持ちをぐっと堪えて彼女の唇から離れた。
気持ち良かったのは僕だけではなく彼女も同じなようで僕がそう声をかけてもあまり聞こえていないような、そんな顔をしていた。
キスだけでお互いこんな風になってしまうだなんて、もしも身体を重ねれば一体どうなってしまうのか、想像しただけで恐ろしいと思った。

「...テツヤ君ってずるいよね。
いつもはすっごく可愛くてバスケしてる時はかっこいいのに、こういうことしてる時はまたなんか違ってて」

「違うってどういう感じですか」

彼女は僕の目をじっと見た後また抱き付いた。

「なんかすごく、えっ、ち...で、どきどきする」

「...それは貴方もよっぽどなんですけどね」

寧ろ彼女の方がよっぽどそうだと思うんですけど、と内心つっこみを入れながら抱きついている彼女を抱きしめて頭を撫でた。
こうして腕の中で甘えて擦り寄ってくる姿は猫のようだ。
まぁ性格や行動的には猫よりも犬の方がしっくりくるのだけれど。

「次の授業ってなんなんですか?」

「次は体育だよ。帰る時汗臭くなっちゃってたらごめんね」

「いえ、というか僕の方こそ部活で汗だくになりますから、いつもすみません」

そう言うと彼女は顔を上げ僕の顔をじっとした後首筋に顔を埋めて僕の匂いを嗅いだ。

「...さすがにそこまであからさまにやられると恥ずかしいのですが...」

「ごめん、でもテツヤ君の汗の匂い全然嫌じゃないなって。寧ろ好き...」

ああもう、いえ、予想はしていたんですけど。
彼女はどうしていつもこう、僕を煽るのが上手いというか。
そんな葛藤と戦いながら彼女の肩を優しく押した。

「僕も放課後同じことをしてもいいんですか?」

「...そ、れはちょっと...恥ずかしいからダメ...」

別に本気で言ったわけではないのだけれど彼女の反応を見ていると本気でやりたくなってしまったのだから僕も大概困った男なのだと思う。
あともうほんとこのくらいにしておかないとまた困ったことになってしまうと悟り教室に戻りましょうかと促した。

「テツヤ君もう一回だけ」

立ち上がり部室のドアノブに手を掛けたところで彼女からのおねだり。
それに応えて触れるだけのキスを一回。

「ではまた部活の時に」

「うん。またね、テツヤ君」

彼女は幸せそうな顔で僕に手を振った。
教室へと戻る最中頭の中は彼女のことでいっぱいになっていた。
これではとても午後からの授業が頭に入るとは思えない。
でももう彼女とこうして過ごすことに慣れてしまった僕はきっとこんな日々が無くなってしまえば物足りなくて仕方ないんだろうなと、そう思った。


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