後悔と反省と期待

一体僕は何をやっているのだろうか。
僕の腕の中で眠る彼女に今になって罪悪感が湧いてきた。
前回程無茶な抱き方はしていない筈だから明日に響くようなことはないとは思うのだけれど。
念の為普段より早い時間にベッドに入った。
明日は朝練がないから普段よりゆっくり眠れる。
多分問題はない...筈だ。

とびきり優しくしようと、甘やかそうと思っていたのに、なぜか止まらなくなって。
勿論心の底から彼女を可愛く思っているのだけれどたぶん優しいとは言えないことをしてしまった気がして。

「(すみません)」

悪いと思っているのに満足している自分もいるのだからタチが悪い。
彼女を抱く腕に力が入りそのまま眠る彼女の額にキスをすると僕の心臓の鼓動が大きくなったことを自覚した。

「可愛い」

愛しくて愛しくて仕方ない、早く毎日こうして一緒に眠る日々が日常になればいいのに。
明日にはまた1人で眠る夜を過ごす日々が待っている。
想像しただけで辛くて。

「...テツヤ君?...眠れないの?」

僕の腕の中にいる彼女は眠そうに目を擦りながら僕に訊ねた。
強く抱きしめすぎて彼女を起こしてしまったらしい。

「あ、いえ...その、...すみません」

彼女は僕を見て一瞬よく分からない表情をしたけれどすぐに微笑んで僕の首筋に顔を埋めた。

「テツヤ君あったかい紅茶飲みたい。...淹れてくれる?」

お願いと言って甘えて顔を擦り付ける彼女に思いっきり胸がときめいた。

「はい、いいですよ」

即それを了承すると彼女はよろよろと身体を起こしぐぐぐっと背伸びした。
僕も起き上がり彼女に紅茶を淹れてあげる為にさっそくキッチンに向かう。
すると彼女も僕に着いてきた。

「待っていてくれても構いませんよ?」

「ううん、一緒にいる」

キッチンでポットに水を注いでいる僕の背中にぎゅっと抱き付いた彼女。
あまりにも可愛くて僕も抱きしめ返したくなったけれどそれをぐっと我慢して紅茶の準備を進めた。

「紅茶ちゃんとしたのじゃなくてティーパックので十分だよ」

紅茶の缶を取ろうとした僕を静止してすぐ隣に置いてあったそれを指差した。
どうせすぐには眠れないから普通に淹れようと思っていたけれど彼女は早く寝たいかもしれないと思い彼女の意見を聞き入れた。
彼女がいなければ僕は果たして自分で紅茶を淹れることなんてあったのだろうかとふと考えた。
いや、考えるまでもない、多分なかったと思う。
多分彼女と出会っていなければ他にも今の僕になかったものが沢山あったんじゃないかって、そう思う。

そんな事を考えている間にポットのお湯が沸いたのでマグカップにお湯を注ぎティーパックを入れた。
透明なお湯がじわりじわりと茶色く染まっていくのをただじっと見ていた。




紅茶を抽出したパックを捨ててから2人でソファーに移動して座って紅茶を一口飲んだ。

「寒くないですか?」

「ちょっと寒いけどこうしてるから大丈夫だよ」

春とは言えまだ夜は冷える。
彼女にブランケットを用意した方がいいかと思い立ちあがろうとしたけれど彼女はそう言って僕に寄りかかった。
もう本当に、彼女のこういうところがとてつもなく可愛くて。
こういうところは昔からあった気がする。
普段は僕より年上のお姉さん、みたいなところが
あって僕はずっとそれに甘えて。
でも時々凄く可愛く甘えてきて。
やっぱり僕は男なのでそんな風に好きな人に甘えられるのがたまらなく嬉しい。
だからこそ自分がしたことへの罪悪感で胸が苦しくなった。

「危ないよ」

考え込んでしまっていた僕に彼女はそう言ってマグカップを取り上げて2つのカップをテーブルに置いた。

「テツヤ君、おいで」

彼女は僕に向かって手を広げてそう言った。
そんな彼女に抗うこともなく抱き付くと彼女は僕の背中に腕を回して頭を撫でた。
子供の頃から何度もされてきたその行為。
背はもうとっくに僕の方が大きくなったというのに、彼女は昔とちっとも変わらない。

「まぁ、約束は守って貰えなかったけど、私別に怒ってないから、そんな顔しなくていいよ」

一体今僕はどんな顔をしていたのだろう。
中学の頃程ではないにしても表情にはあまり出ない方な筈なのに。
彼女の前では多分ずっと変わっていないのだろう、子供の頃からずっと。

「テツヤ君が私のこと好きだからああなっちゃうんだったら私ももう受け入れるよ。
...まぁ、別に痛い事とかされるわけじゃないし、ね...?」

僕の頬にキスをして、そう言ってまた頭を撫でて。

「その代わりほんとにもう他の女の子好きになった、とか許さないからね。
本当は私すっごい恥ずかしいの我慢してるんだから」

「っ、ま、まだそんな事言うんですか!?
そんな事あるわけないじゃないですか!」

思わず彼女を抱きしめる手に力が入ると彼女は小さく痛いと言った。
慌ててその手を緩めるとまたよしよしと僕の頭を撫でて僕の肩を押した。

「...ごめん、今の忘れて?もう何度も言っちゃってることだけど」

「...どうして、ですか...?」

彼女から発せられた言葉、それは拒絶のような言葉。
僕の心は信じられない程動揺して一気に心拍数が上がってしまう。

「これから先、一生私だけを好きでいてくれなくてもいいよ。まぁそんなの当たり前なんだけど」

「いやです、僕には貴方しかいないんです」

「違うよ、そんなこと言ってるんじゃなくて。
今私を好きでいてくれる瞬間だけは全力で私のこと愛していてって、そう言いたいだけだよ。
テツヤ君を縛りつけたくないって思っただけだよ」

「...寧ろ貴方になら縛りつけてほしいんです」

彼女がどれだけ僕を大切に思っていてくれているかなんてとっくに理解している。
でもそれ以上に僕が彼女を愛しすぎているから、理由は分からないと言ったけれど多分僕が暴走してしまう理由はそれだと思う。

「誤解を生んじゃいそうな言い方するなぁ...
私なんやかんや重いと思うよ?
中学生の時だったあんなにはっきり拒絶されたのにテツヤ君の事嫌いになれなかったし」

「...僕はそれを重いだなんて思わないですし寧ろあのまま名前さんとの縁が切れてしまっていたら今僕がこうしてバスケを楽しめていたかも分かりません」

「......そんなこと、ないと思うよ」

彼女はそう言って薄い笑みを浮かべた。
目が合っている筈なのに彼女は今僕を見ていない気がする。
どうしてそんな風に感じたのかは分からない。
でもその表情がまるで僕の前から消えてしまいそうな程儚く見えて、それが怖くなって僕は再び彼女を思い切り抱きしめた。

「ごめん、変なこと言ったね。
違うの、私のずっとテツヤ君と一緒にいたいって思ってるからね」

「だったらどうしてそんなことを言うんですか。今の貴方の方がよっぽど僕より意地悪ですよ」

彼女の存在を確かめるように乱暴な、貪るようなキスをして。
彼女はそれを拒まない、ただされるがままになっていた。

「...僕が大人だったら、今すぐにでも貴方を縛りつけることが出来たのに」

彼女の首筋を顔を埋めそこにキスをした。
本当は跡を残してしまいたかったけれどそれを見た人に変な想像をされたくなんてないからぐっと堪えた。

「テツヤ君はいいよ、私の事縛ってくれても」

彼女はそう言って自身の手首を合わせて僕に差し出した。
縛りたいと言ったのはそんな物理的な事を言ったわけではなかった。

「分かってるよ。...でもテツヤ君そういうの、多分好きでしょう?」

「.......そんなこと、ない、...です...」

揶揄うように言った彼女の言葉をすぐに否定出来なかったのは何故だろう。
実際のところ全く興味がない、なんてことは多分無くて。
いや勿論そんなことをするよりも彼女に抱きしめられる方がずっといいのだけれど。

「...私が経験値不足で上手く立ち回らなくて困っちゃうこと沢山あるけどヤキモチ妬いてくれるのも私の事そんなに好きなんだなって伝わってるし普段はずっと優しいからそういうことする時多少意地悪されてももういいよ」

「...大好き...なのは本当なんです...ただ可愛いなって思うと...すみません」

「うん、分かってるから」

いっそ僕の考えていることが彼女に伝われば話が早いのに、と思ったけれどそんなことになれば彼女が僕の想いの強さに引いてしまうかもしれないからそれはそれで駄目かもしれない。

「...自分の気持ちを相手に伝えるのって凄く難しいですね」

「まぁみんな独立した個体だからね...全部伝わったら伝わったでその分ややこしいことになっちゃうこともあるだろうし、ね?」

「でも僕は知ってほしいです」

多分それは僕の全てを理解して受け入れてほしいという、その一心なんだと思う。

「名前さんのことが好きすぎておかしくなってるんだと思います」

「恋の賞味期限って3年らしいよ。
その後は洗脳が解けて、って言ったら聞こえは悪いけど。ちょっと冷静に相手を見られるようになってそこから冷めちゃったりするらしいから、...でもテツヤ君は全然冷めたりとかしてなさそうだね」

「冷めるどころか日に日に増してますよ。
なんなんですかそのわけの分からない説は...」

僕は彼女の事をもう10年以上ずっと好きでいるのに。
それとも彼女はもしかして今冷静になってしまったからあんな事を言ったのだろうか。
だとしたら凄く嫌だ。

「名前さんも僕と同じくらい僕に夢中でいてください。
いっそそれが洗脳と言われても別にいいです」

「...冷静でいられたらよかったんだけどね?
私もまぁわりと...変わんないままだよ」

彼女はそう言うけれどやっぱり僕の方がずっと彼女を必要で求めているのだと思う。
でもこれ以上言ったって堂々巡りになってしまうと分かっているからもう言わないけれど。

「...テツヤ君、今からもうちょっとだけいちゃいちゃ、する?」

「...いちゃいちゃ?」

それはどういう意味かと訊ねると彼女は恥ずかしそうに僕から視線を逸らした。

「テツヤ君が無理、だったり眠かったらいいよ、また、今度にするから」

彼女はそう言って僕の服の裾を掴んだ。
彼女が言っている言葉の意味を理解して僕の心臓が大きく鳴った。

「...だめ?」

追い打ちをかけるかのようにかけられた、そのたった二文字の言葉に僕の理性はいとも容易く消し飛んでしまった。
別に禁欲しようとか考えていたわけではないけれど、でも少しは...と思っていた筈なのに。

「...その...私が...する、から...」

「え、...な、何をして、くれるんです...か?」

彼女は僕の胸を押してソファーに押し倒した。
そのまま頬を撫で、普段とは逆で僕は今彼女に見下ろされている。

「...こういう、こと...」

彼女はそう言って僕の服の裾を胸の上まで捲り上げて僕の胸に唇を寄せた。
当然そんなことをされたのは初めてのことなので僕は驚いて身体がびくりと跳ねてしまった。

「...普段のお返し?...ってことで」

「っ、名前、さんっ...!」

僕の唇を塞いで普段僕がしているのと同じように彼女は僕の胸のそれを指で擦った。
彼女とのキスの合間思わず声が漏れてしまった僕を彼女は笑った。

「...テツヤ君の気持ち、ちょっとだけわかったかも」

その彼女の言葉に、僕も同じだと内心思った。
される側の気持ちって自分が体感しないと分からないものなんだなって、僕は今日知りました。





(名前さんわざとちょっと意地悪なこと言ってましたよね)

(テツヤ君が可愛かったせいだよ)

(...やっぱり仕返しじゃないですか...まぁ全然嫌ではありませんでしたし是非また今度お願いします)

((意地悪される側の方が好きかもしれない、なんて思ったことテツヤ君には言えないなぁ))


end