「テツヤ君おはよう」
「おはようございます。どうぞ、お上がりください」
夏祭りの日から既にほぼ1ヶ月経っていた。
ウィンターカップに向けて部活はよりハードなものになっていたから。
一日休みの日も今日までなかった。
だからあれからデートらしいデートも出来ていない。
それでも毎日部活で顔を合わせていたしお昼もほとんど一緒に食べて、帰りは途中まで一緒に帰って、十分幸せな日々を過ごしていた。
バスケ部のマネージャーをしているのだ、だからそれに不満はない。
私もみんなと気持ちは同じだから。
「これ、みなさんでどうぞ」
「すみません、気を使わせてしまいましたね」
予め用意しておいた手土産を彼に手渡した。
彼だって以前私の家に来てくれた時は手土産を用意してくれていたというのに、本当に申し訳なさそうな顔をするのは何故だろう。
「テツヤ君のくれたお菓子は私がお風呂入ってる間に美味しいってお父さんとお母さんが全部食べちゃったんだ...」
「お口に合ったようでよかったです。
では今度は名前さんの為にまた買ってきますね」
「ほんと?ありがとう、楽しみにしてる!」
どこのお店で買ったのかを聞いて自分で買ったっていいのだけれど、多分彼は私の為に用意したいと思っていてくれている筈だから。
だからその言葉に甘えることにした。
家に上がらせてもらい彼の部屋に通された。
彼の部屋は概ねイメージ通り、シンプルで落ち着いた内装だった。
「やっぱりテツヤ君の部屋綺麗だね」
「そうですか?まぁ自室で過ごすのなんて今は殆ど寝る時だけですからね」
どうぞ、とデスク用の椅子を引かれそこに座るよう促された。
お礼を言って座ると少しお待ちくださいと言って彼は部屋を出ていった。
綺麗に整えられたベッドを見てあの布団はきっと彼の匂いがするんだろうな、なんて考えてしまう私は多分人から見れば気持ちが悪いのだと思う。
気になって今にも嗅ぎたくなったけれどそれをぐっと我慢した。
「お待たせしました」
「おかえりなさい」
彼はお茶とお菓子の用意をしてくれていたらしい。
それを机の上に置いてから部屋の扉を閉め、彼はベッドに腰を掛けた。
「どうぞお召し上がりください。お菓子は母が用意しておいてくれました」
「ありがとう!今日はテツヤ君のお母さんいないの?」
「まぁ...はい。今日は僕達しかいません」
そう言った彼は少し気まずそうな顔をした。
なんとなくその理由は想像出来た。
それほど恋愛経験が豊富というわけではない。
男の子の友達だってバスケ部のみんなくらいしかいない。
でも同年代の男の子ってみんなこんなに真面目な人ばかりなのだろうか。
「テツヤ君、いつも私は下心ばっかりだったから。だからテツヤ君だけがそんな風にならなくていいよ」
「...返答に困るような事を言わないでくださいよ」
いただきますと言ってからグラスを手に取り一口飲んだ。
麦茶かと思って飲んだそれは紅茶だった。
テツヤ君は半分程一気に飲んだ。
少し赤くなった顔をどうにかしようとしての行動だと思う。
試合の最中も基本的に表情は変わらない、勿論勝った時は笑うし感情的になって怒ることもあるけれど、でもこの顔は多分私の前でしかしない。
私だけのものだと思うと嬉しくて顔がにやけてしまう。
「どうかしましたか?...まぁなんとなく察しはつきますけど」
「テツヤ君は私のことなんでも分かってるね。そういうとこ大好きだよ」
一つずつ個包装されたラングドシャを齧るとそれは口の中ですぐにほぐれて溶けていく。
普段スーパーで買って食べているものより高級な味がする気がする。
バターの風味が少し違う。
まぁそれ程舌が肥えているわけでもないからもしかしたら勘違いなのかもしれないけれど。
でもパッケージは見たことがないからきっと初めて食べるものだと思う。
「そちらは母のお気に入りのケーキ屋で売られているものなんです。
母はどちらかというとケーキよりも焼き菓子を好んで買っています。
僕よりも食が細いので、焼き菓子の方が期限的にも都合が良いというのもあるのですが」
「そうなんだね。テツヤ君のお母さんってどんな人なんだろ?」
なんとなく優しそうなイメージはある。
私が来るからといってわざわざお菓子を用意しておいてくれるくらいなのだから。
「顔は僕とよく似ていますよ」
彼を女の人にした感じ、想像しようと思ったけれどあまり上手く出来なかった。
でも彼に似ているということはきっと整った顔をしているのだと思う。
「じゃあテツヤ君に似てかっこいい女の人って感じなのかな。会うってなった時の事想像したらちょっとドキドキしちゃうね」
「...どうでしょうね。まぁ今更なんですけどやっぱり貴方変わっていますよね」
彼はそう言って私の頭を撫でた。
嬉しくて目を閉じているとよしよしと2号を撫でるみたいに優しく撫で続けてくれた。
「テツヤ君って犬と猫ならやっぱり犬派?」
「いえ、そんな事ないですよ。どちらも好きですよ」
たいして中身のないつまらない話題にでも嫌な顔一つ見せずに付き合ってくれる。
前の彼氏にはあれこれ聞きすぎて怒られたこともあった。
比べるなんて前の彼氏にもテツヤ君にも悪いから駄目だとは分かっているのだけれどどうしても考えてしまう。
「テツヤ君、隣座ってもいい?」
「...はい、どうぞ」
彼は少し躊躇しつつもそれを承諾してくれた。
すぐに彼の隣に座った。
「くっついてもいい?」
「......はい、どうぞ」
今度はさっきよりももっと間が開いた。
きっと思うことが沢山あるのだろうということは分かっているけれど私は自分の欲を優先してしまう。
いっそ彼も何も考えず本心をぶつけてくれたらいいのにと勝手なことを考えてしまった。
身体をこちらに向けおいでと手を広げてくれたので私はいつも通りぎゅっと彼に抱きついた。
私を抱きしめてまた頭を撫でてくれた彼に胸がきゅんきゅんした。
「テツヤ君、ちゅーしたい。
お昼休み部室でしたみたいな、大人のやつ」
「...いい、ですけど...あの時のあれは忘れてください。あの時はどうかしてたんです、学校であんな...」
彼はそう言って気まずそうに私か視線を逸らした。
別に人に見られたわけでもないし私も嬉しかったからそんなに気にしなくてもいいのに、でも基本的に彼は真面目な人だから気にしちゃうんだろうなと思った。
「じゃあ忘れちゃうくらいもっと気持ちよくして?」
「...僕貴方が初めてお付き合いした人なんですよ。正直自信がないです」
小さなため息をついたけれど彼はすぐに私にキスをしてくれた。
目を閉じてそれを味わった。
くっついては離れてを数回繰り返した後、角度を変えて、唇全体に。
ちゅっと音を立てて吸われた後、ペロリの唇を舐められて思わず身体が跳ねてしまった。
驚いて目を開けてしまうと至近距離で彼と目が合ってそんな私の反応を見た彼は少し笑っていた。
そんな表情をした彼は素敵だけれど直視するのは少し恥ずかしいと感じ再び目を閉じると彼の舌が私の口の中にに入ってきた。
人の舌の感覚ってどうしてこんなにぞわぞわするんだろうと不思議な感覚を味わった。
よく分からない筈なのになぜか身体はむずむずとしてしまう。
たっぷりと、多分5分くらいしていたのだと思う。
彼の唇が離れた後も私の唇には彼の舌の感覚が残っていた。
見つめ合った状態で彼の手を握ると当たり前のように握り返してくれて、ああ、本当に彼が好きだと改めて実感させられた。
どうして私なんかを好きになってくれたのかはまだちょっと分からないのだけれど。
先輩で部活のマネージャーというフィルターがかかっていて優しい先輩だと、そう思ってくれたからなのだろうか。
でも本当の私はこんなに我儘で自分勝手なのに。
それでも私を愛してくれる。
「テツヤ君、この前のお話、ね」
「...はい、そうでしたね」
私の方からおねだりした。
彼ともっと深く愛し合いたいと。
あれからずっと彼のことばかり考えて、授業に集中出来ない時も沢山あった。
「...今日、テツヤ君とえっちしたいなって、昨日考えて。もしもテツヤ君がいいよって言ってくれたらしたいなって思って買ってきたんだけどね」
「...あの、お気遣いいただいて大変有難いのですが、こういったものは今後僕が用意しますので。
名前さんは買わなくていいです...!」
昨日ドラッグストアで買ったコンドームを鞄の中から取り出して彼に見せると彼は目を見開き驚いた後私からそれを取り上げてそう言った。
顔は真っ赤だけれど別に怒っているわけではないと思う。
「でも私がしたいってお願いしたのに私が用意しないのもおかしくない?」
「その理屈でいったら僕もしたいと思っていますから、だからいいんです、僕が買います。
いいですね?」
彼には彼なりの考えがあるのだと思うし多分それは私には分からない理屈だと思うから、彼の言葉に素直に頷いた。
「それでね、したかったんだけど...今朝、生理きちゃって...今日出来なくって...」
ごめんなさいと謝ると彼は私を抱きしめてくれた。
「...どうして謝るんですか。謝る必要なんてないですよ。それよりもお身体の方は大丈夫ですか?」
優しく背中を撫でながら心配して気遣いの言葉を掛けてくれた彼にまた胸がときめいてしまう。
「うん、大丈夫。ちょっと腰が重いかなってくらい」
「...さすると少しは楽になったりしますか?」
私の言葉を聞いて彼は優しく腰を撫でてくれた。
正直よく分からない、でも撫でられて気持ちいいとは思うから私は頷いてただただ彼に抱きついていた。
「エアコンの温度は大丈夫ですか?
後で温かいお飲みものご用意しますね」
「大丈夫、寒くないよ。テツヤ君とくっついてるしね」
どうしてよりにもよってこんな日に始まってしまったのだろうかとショックを受けていたけれど彼に優しくされて別にいいか、と気持ちが落ち着いてきた。
「今度お家でデートする時はえっちしてね。
うちに来ることになったらちゃんとゴム持ってきてね」
「わ、分かってますから!貴方はもう少し遠回しな言い方を覚えてくださいよ...!」
そんなの出来ていたらとっくにしている。
でもストレートに言った方がすれ違いや誤解を生まないから...まぁ日向君達には一度私の言い方が悪くて誤解を生んでしまったのだけれど。
「...出来なかったら嫌いになっちゃう?」
「そんなことはないです、けど...僕の心臓が持たないです」
彼の言葉を聞いて彼の胸に耳をあててみた。
確かに彼の心拍数は凄く早くなっている。
「私より先に死んじゃったら嫌だよ。
だから私の事も沢山ドキドキさせてね」
一生のうち鼓動する心拍数は決まっている、なんて説がある。
そんなのきっと人によるのだと思っているけれど。
でもずっと心拍数が速くなっていたら健康的によくないんだろうなって事は分かる。
「さっきみたいなちゅーしてる時は私も今のテツヤ君と同じだったよ。だからもっと沢山して?」
「...それだと僕もドキドキしっぱなしなんですよ。本当に余裕が無いんですから、あまり挑発しないでくださいね...」
彼はそう苦言を口にしたけれど私のおねだりを聞いて沢山キスをしてくれた。
もう途中からは腰の重さなんて感じなくなるくらい、彼としたキスは気持ちよかった。
next