甘えて甘やかして

「お疲れ様でした」

部活が終了し制服に着替えて帰宅する為部室を出た。
部室の外では既に帰り支度を済ませた彼女が待っていて、抱き上げた2号に顔をぺろぺろと舐められていた。
僕に1番懐いていると言われているけれど彼女にも同じくらい懐いていると思う。

「2号は今週は名前さんのお家ですか?」

「うん、そう、ちょっと2号っ、落ち着いて!」

尻尾をぶんぶんと振って彼女が大好きだと全身で主張する2号が羨ましくなってきた。
2号は僕と似ていると言われているけれど顔が似ていたら好きな人まで似てしまうんですかね。
彼女に顔をガードされると、今度は首筋に舌を這わせる2号に自分が重なった。
いえ、さすがに彼女の顔を舐め回したことはないのですが。

「駄目ですよ、2号。そういう事を名前さんにしていいのは僕だけですからね」

「いや、それもどうなの...?」

2号にそう言って彼女の腕から2号を取り上げると2号は僕の方を見てくぅんと少し悲しそうな声を出した。
そんなに彼女の事が好きなんですかと口にしそうになったけれどそれを我慢して彼女からリードを受け取り地面に降ろして2号の首輪にリードを付けた。

「帰りましょうか」

「うん、あ、帰りちょっとだけ遠回りしてホームセンターに行こうと思うんだけど。
テツヤ君疲れてるだろうし先に帰る?」

「いえ、大丈夫です。お付き合いしますよ」

彼女と過ごせる貴重な時間を僕が自ら放棄する筈なんてないのに、どうして彼女はこんな事を聞くのだろうかと少し考えてしまう。
とっくの昔から自覚はあったけれど多分僕は相当重い男なんだと思う。
でも本音を言えば彼女にもっとああしてほしい、こうしてほしいと言う本音は山程あって、でもそれは言わずに秘めているのだから許してほしいと思ってしまうけれど。

「ありがとう、じゃあ行こっか」

「はい。何を購入されるのですか?」

「2号用のシャンプーだよ。外に繋いでおくの心配だから一旦帰ってからの方がいいかな、とも考えてたから助かるよ」

彼女は2号を見て僕がいて良かったねと話しかけた。
2号は元気よくワンと鳴いた。
いつも思うことだけれど2号は相当賢い犬だと思う。
ホームセンターに着くと彼女は2号を僕に任せて店内に入っていった。
甘えて抱っこをせがむ2号を抱き上げると今度は彼女にしたのと同じように僕の顔をぺろぺろと舐めた。

「やっぱりテツヤ君に1番よく懐いてるね」

「名前さんにも同じくらい懐いていると思いますけどね」

そうだと嬉しい、そう言って彼女は買い物袋からアイスを取り出した。

「付き合ってくれたお礼。半分こだけどね」

彼女はそう言って柔らかい容器に入っていて割って分けられて食べるタイプのアイスの片割れを僕に渡した。

「すみません、ありがとうございます」

「ううん、2号はこっちね」

彼女はそう言って2号にも犬用のおやつを与えて、僕達もアイスを食べながら帰路についた。




「今日はうちに寄りませんか?勿論2号も連れてきていただいてかまいません」

「あーごめん、晩ご飯の前に2号お風呂に入れて私も済ませちゃいたいから今日はやめとく」

2号を連れていたので今日はまだ彼女と手すら繋げていないので僕の家に誘ったのだけれどあっさりと断られてしまった。
確かに2号を洗ってしっかり乾かすところまで終えるのは結構大変だし時間がかかるというとは知っているのだけれど。

「...名前さんが当番の時はいつもお風呂に入れてあげているんですか?」

2号が少し羨ましくてそう訊ねると彼女は首を縦に振った。

「お風呂入ってるといつも寂しいのか来ちゃうようになっちゃったからもう最初から洗ってあげてるの」

本当に羨ましい。
僕が一緒にお風呂に入りたいって言ってもいつも渋られてしまうというのに。

「なら僕も寂しいので洗ってほしいです」

「...テツヤ君はうちに泊まりにきてないでしょ。
それに2号洗う時別に一緒に入るってわけじゃなくて服着たまま洗ってるからね。
テツヤ君の想像してる感じじゃないから」

それでも普通に羨ましい。
寧ろ逆でもいいと考えた。
自分だけ丸裸にされて全身を洗われて恥ずかしそうにする彼女を想像すると物凄く可愛くて。
前に一緒に入って彼女の身体を洗ってあげた時も本当に可愛かった。

「なら2号を洗った後僕が名前さんを洗ってあげますよ」

その時の事を思い出すと興奮してしまいそう伝えると彼女は顔を引き攣らせた。

「...嫌だよ、もうどういうことになるか結末が見えてるもん」

彼女はそう言って頬を染め、僕から顔を背けてしまった。
まぁ多分彼女が想像している結果になるだろうと僕自身分かっているのだけれど。
彼女は一体僕にどのように抱かれる姿を想像したのかが気になった。

「名前さんの頭の中で僕はどんな風に貴方を抱いていましたか?」

「ばか!」

それを彼女本人に訊ねると彼女は顔を真っ赤にして怒った。
なんというかこういう反応を見せられるとますます興奮してしまうんですけどね、最近は。

「名前さんってほんとわかりやすくて可愛いですね」

「...テツヤ君はもうほんとそういうのさぁ...折角かっこよくなったのに...モテないよ」

「貴方以外にモテたいなんて思ってないからいいです」

かっこいいと言ってもらえたことは嬉しかったけれど後半のそれはいただけない。
彼女の前に立ち腰を自身に抱き寄せると彼女は慌て始めた。

「て、テツヤ君!外だから!」

離してと僕の胸を押す彼女をより強く抱きしめてキスをすると彼女は慌てて周囲をキョロキョロと見回した。

「だって今日はもう2号しか構ってくれないんですよね?だったら今1号のことを少しくらい構ってくれてもいいじゃないですか」

「わ、わかったから!じゃあ2号洗うの手伝いに来て!」

渋々という形ではあるけれど彼女は僕のおねだりに応えてくれた。
こちらとしては押しに弱くて有難いと思う反面心配な気持ちもある。
僕以外の人に強く迫られたら彼女はきちんと拒絶出来るのかと。
既に桃井さんなんかには押され気味だし。

「(甘いのは僕だけにしてください)」

子供じみた僕の独占欲はまだまだ当分落ち着く気配は無い。






「2号はお利口さんな方だと思うけどやっぱり色々と気を使うから。お風呂も2人いると楽だね」

「はい、そうですね」

彼女の膝の上で大人しくドライヤーをあてられている2号。
きっと既に慣れているのだろう、犬にとっては結構な騒音であるだろうに随分リラックスしているように見える。
換気扇をつけていたところで暦の上では既に夏だ。
制服も夏服に変わった。
そんな中、服を着て2号を洗う為に入った浴室は暑くて彼女は額や首筋には汗が伝っており、濡れてしまったTシャツは身体に張り付いてしまっていた。

「2号、偉かったね」

ドライヤーをオフにして最後に丁寧にブラッシングをしてツヤツヤになった2号はどこか自慢げな顔をして僕の方を見て元気よくワンと一度鳴いた。
なんだか自慢されているような気分だ。

「お部屋行こうね」

彼女はそう声をかけ2号を抱っこして彼女の自室へと連れていく。
僕も一緒に着いて行こうとしたけれど少し待ってて、と制止されてしまった。
これは2号を洗い終えたからもう帰れと言われるのだろうかと少し落ち込んだ。
でもその不安はすぐに杞憂に終わる。
彼女が手に新しい着替えを持って僕の所に戻ってきたのだ。
2人分の着替えを持って。

「...このTシャツ、男女兼用のフリーサイズだから多分着られると思う。下もジャージだし多分大丈夫...」

「...ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、お隣ですしこのまま帰っても...」

「...そうじゃなくて!」

彼女は僕の手を握る、でも視線は大袈裟なくらい逸らして。
頬は少し赤く染まっていた。

「...あ、洗って、くれるん、でしょう?」

そう言い終えた頃には彼女の顔は更に真っ赤に染まっていた。
気まずそうに僕の顔をちらりと見て、視線が合うとすぐにまた逸らして。

「...お母さん、帰ってくるまであと2時間くらい、みたいだから...」

「...はい、しっかりと洗わせてもらいます...!」

僕の願望が今日実現されるだなんて、自分で言っておいてこんな事言うのもなんだけど今日は無理だろうなと思っていた。
それなのにまさかの彼女の方からお願いしてくれるだなんて...。
言ってみるもんですね。

「僕にはとびきり甘い名前さんが大好きです」

「っ、私がテツヤ君に甘えられたら拒まないの知っててやってるんでしょ!」

真っ赤な顔で僕を怒る彼女のTシャツの裾に手をかけ、一気にそれを脱がせた。

「違いますよ。ただ僕が貴方にだけは手放しで甘えてしまう、それだけです」

少しは計算、打算はある。
でも基本的には素直に感情をぶつけてしまっているだけだ。
彼女がもし僕の隣の家に住んでいなければ、出会っていなければ多分こんな僕にはなっていないと思う。

「その分こういう時は僕が沢山名前さんを甘やかしてあげますから、いっぱい甘えてくださいね?」

彼女の服を全て自身も脱いで裸になって。
僕達は再び浴室へと戻った。
その後どうなったか、なんて語るのは野暮な話です。

end