刺激的なサプライズ

「今年はもう完全に秀徳と合宿の日程揃えて組んだから!」

終業式の後リコ先輩と寄り道しようと誘われて 2人でカフェに入った。
彼女が席に着いていの1番で口にしたのはそんな言葉だった。
私が驚いている間に彼女はメニューを開き何を注文しようか悩み始めた。
それはもう素敵な笑顔で。

「リコ先輩事前に交渉に行ったんですか?」

「そう!因みに今年は桐皇も参加するから!」

「え、そうなんですか?」

リコ先輩は上機嫌でそう言ってメニューを私に渡した。
注文するものは決まったらしい。
私もメニューを見てすぐに注文したいものが決まったので店員さんを呼び注文を終えた。
リコ先輩は桃のタルトとアイスティー、私は甘夏のムースケーキとルイボスティーを。



「そうそう、みんなには内緒ね!きっとその方が面白いから」

「...まぁ、はい。わかりました」

桃が沢山載ったタルトを食べながらそんな事を言う彼女は本当に楽しそうで。
当日知らされる選手達を少し不憫に思うせれどもう来年彼女はいないのだと考えるとやっぱり寂しい気持ちもある。
リコ先輩や日向先輩達が卒業した後、来年のバスケ部は一体どうなっているのだろうか。

「...リコ先輩、今年は水着着ませんからね」

「えっ!?買いに行こうと思ってたのに!」

寂しい気持ちを誤魔化そうとして冗談混じりな言葉を口にすれば彼女は大袈裟なくらい驚いて見せた。
というより前の水着だって2回しか着ていないというのにまた買おうとしていたことに驚いた。
言っておいてよかったと胸を撫で下ろした。

「私の為にあまり無駄遣いはしないでください。...というかそれならもう自分だけ買いますから、だから一緒にプールでも行きましょう、部活のトレーニングとは別に」

自分で言ってすぐに彼女が受験生だという事を思い出した。
部活があるとはいえきっと1年2年の頃より勉強も忙しい筈だから配慮に欠けた提案をしてしまぅただろうかと気付いて慌てて訂正しようかと思ったけれどそれより先に彼女が口を開いた。

「いいわね!名前ちゃんとは毎日会ってるようなもんなのに全然遊べていないものね。
あ、でも今年が最後じゃないからね!
来年の夏も遊びましょうね!」

彼女はそう言って私の口元にあーんとフォークで刺した桃を差し出した。
私はそれを素直に食べた。

「...リコ先輩のそういうところ、狡いですよね...」

「え、なにが?」

きっと冬まで彼女は引退しない筈だから、今はまだ先のことは考えないようにしようと決めて私も彼女に甘夏を差し出した。










「明日から合宿ですが今年も同じ場所だそうですね」

「みたいだね。楽しみだね」

翌日に合宿を控え午前中に練習を終え、テツヤ君と家に向かって歩いていた。
リコ先輩は本当にみんなに秀徳と桐皇の話はしなかった。

「合宿中はずっと同じ場所にいられますけどその分我慢しなければいけないのでちょっと辛いんですよね。勿論合宿自体は楽しみなんですけど」

「...あの練習量を楽しみって言えるテツヤ君って凄いと思うよ。だから我慢もしてね」

私がそう言うと彼は少し不貞腐れたような顔を見せた。
そんな顔を見て去年の彼を思い出した。
彼はあの頃より今の方がずっと色々と抑えが効かなくなっている気がする。

「...テツヤ君、今日合宿の準備をきちんと終わらせてからうちにおいで」

「...え?」

自分からこんな事を言うなんて、言ってから少し後悔したけれどでも彼がしっかりと合宿に集中する為にも必要なことだと思うから。
いや、実際にその時になれば練習中は集中出来る人だと知っているのだけれど。
反動のようなものがあるということは身に沁みて知っているから。

「...充電、しとかなきゃ、でしょ?」

ああもう本当に恥ずかしい。
家の前に着いた彼は急いですませてきます!と言って自宅に入っていった。
私達は夏休みでも互いの両親は仕事だから、だからそういうお誘いだと、言わずとも彼は理解した。

私も自宅の鍵を開け玄関に入った。
私は既に合宿の準備は終えているのでとりあえず先にシャワーを済ませてしまうことにした。
なんだか準備満タンですという感じがして少し恥ずかしいのだけれど。
でも多分彼も済ませてくる筈だから汗臭い状態で迎えるのは失礼だと、そう言い聞かせてシャワーを浴びた。



「お待たせしました!」

30分程経って彼が私の家にやってきた。
やはり彼もシャワーを済ませてきたようだ。
私はきちんと髪を乾かすことまで終えられたけどやっぱり彼の髪はまだ濡れていた。
シャワーだけではなく準備もあったのだからこの時間では無理だったのだろう。

「乾かしてからで良かったのに」

「早く会いたくて我慢出来ませんでした」

堂々とそう言った彼に呆れながらも彼を家に上げた。
そのまま先に洗面所に連れて行き彼の髪を乾かしてあげた。
夏だから風邪を引く事はないだろうけど濡れたまま放置するのは髪にも頭皮にもよくないことだから。

「本当は貴方に乾かしてほしくてそのまま来たんです」

「...今のテツヤ君を青峰君達が見たらびっくりすると思うよ」

これは確か、さつきちゃんが言っていたことだった、かな?
私は直できちんと聞いていないのであまりきちんと覚えていないけれど。
彼は試合になると途端にかっこよくなると。
本当にその通りだと思う。
私にこうされている時はまだ子供の頃と全然変わらないのに。
それでもまぁ私より随分大きくなったのだけれど。

「はい、おしまい」

「ありがとうございます」

ドライヤーのスイッチを切り、彼の髪をブラシで整えてあげると彼は私の腰を抱き寄せキスをした。

「...部屋に行ってから」

「名前さんの方からそんな風に誘ってもらえるだなんて、凄く嬉しいです」

嬉しそうな顔でそう言って額にキスをした彼の手を取って部屋へと向かう。
彼は素直に着いてきた。
今日は親が帰ってくるまでまだ時間に余裕がある。
たまには私も少し頑張ろうかな、なんて。
そんな恥ずかしい事を決意した。










「名前さん、...大丈夫ですか?」

「...だいじょ、うぶ...」

「喉、掠れてますよ」

その決意から約3時間、私はそれを後悔していた。
いつも私の方が先に力尽きてしまうけど充電と言ったからにはいつもより頑張ろうと、そう決めて自ら恥ずかしい、慣れていない事をして。
それを彼は喜んでくれたけれど結果として彼を煽ることになってしまい自分の首を絞めることになってしまった。

「...このくらいだったら一晩休めたら治るから」

そう言って彼に覆い被さりキスをすればすぐに体勢を反転させられ両手で顔を包まれお返しだと言わんばかりのキスをされた。

「貴方に組み敷かれるのも悪くないんですけどやっぱりこっちの方が好きです」

「んっ...ごめん、あの、もう...」

先程散々手で、舌で触れられた首筋に再び唇を寄せる彼を静止した。
出来る限り彼の望みに応えてあげたかったけれどこれ以上はもう合宿に支障をきたしてしまいそうだから。
それでは私が参加する意味がなくなってしまう。

「分かっています。貴方に触れていたいだけですから...もう少しだけこうしていさせてください」

彼は胸元にキスをして舌を這わせた。
シャワーを浴びたけれどもうとっくに汗だくになっているというのに、彼はそんな事を気にする気配もない。
まぁ私はもう疲れてきってしまっていてそれに抵抗する気力も無くなっていたのだけれど。

「...テツヤ君は明日からの練習に支障とか...大丈夫そう?」

「はい、寧ろ元気を沢山いただきましたから」

彼のそれが虚勢なんかではないということはその顔を見れば分かった。
まだまだ余裕のあるその表情を見て私ももう少し体力をつけた方がいいかもしれないと思った。
彼は部の中では1番体力が無いというのに。

「...テツヤ君でこんなになら火神君とかはどれだけ凄いんだろ...」

試合は殆どフルで出てあれだけ全力でコートを往復して何度も跳んでいるのだ。
きっと私が鍛えたとしても一生かかっても追いつけないくらい体力があるんだろうなぁ、と。
体育の持久走で3km走っただけでバテてしまう私が比べるのも失礼な話なのだけれど。

「...火神君、と僕としたような事をするのを想像したんですか、貴方は...」

「...え?...あっ、ち、違うよ!そんなこと考えてたわけじゃなくってね、根本的に体力が無い自分が情けないなって考えてて、その、テツヤ君前にスタミナが無いって言ってたけどそのテツヤ君にも私は全然追いつけないからなら火神君レベルになるとどれだけスタミナがあるのかなって考えただけで...!」

私が思わず溢してしまった独り言を聞き顔を強張らせた彼に慌ててけして変な意味ではなかったと訂正したけれど私を見下ろす彼の顔は怖いまま、私をじっと見下ろした。

「...本当は分かっています。ですがこの状況で他の男性の名前を出すのはデリカシーが欠けていると思います」

「......ご、ごめんなさい...」

彼はため息をつくとベッドに横になって私に背を向けてしまった。

「テツヤ君...ごめんね?本当に、悪気は無かったの...」

「僕は傷付きましたから、僕を元気にしたかったら頑張って機嫌をとってください」

怒ったりショックを受けたというよりは拗ねてしまったように見える。
どうしたら、と少し悩んでそっと彼の背に触れた。
振り払われることは無さそうだと分かったのでそのまま彼のお腹に手を回して抱き付いた。

「...テツヤ君ごめんね?...その、...私がこういうことするの、っていうか...したいのテツヤ君だけだよ...私が好きな人、テツヤ君、だし...」

ごめんねと言いながら彼の顔を後ろから覗き込んで頬にキスをすると彼は顔だけこちらを向けたので今度は唇にキスをした。
彼がそれを避けることはなかった。

「...好きだ、よ、テツヤ、君...」

そう言って何度かキスをすれば彼は身体を私の方に向け抱きしめて彼の方からキスをした。

「...僕も貴方が大好きなんです。
だから本当にやめてくださいね」

私を力いっぱい抱きしめてそう言った彼。
彼に愛されているという自覚は痛い程ある。
でも私だって同じくらい彼を好きだと思うから。

「ごめんね、テツヤ君...」

つまらない事で喧嘩なんてしたくない。
というか今回はややこしい発言をした私が悪かったと思うし。

「シーツ、洗わないと今夜名前さんが寝られませんから洗濯しないといけませんね。
名前さんのお母さんは何時頃ご帰宅されますか?」

「いつも通りだからえっと...2時間後くらいかな?」

時計を確認してそう返事をすると彼は身体を起こした。

「では洗濯回しましょうか。その間に一緒にお風呂に入りますよ」

相談でもお願いでもなく、決定事項としてそう言った彼。
これは多分彼の意地悪なのだと思う。
でもそれが分かっていたけれど今私がそれを拒む事なんてできる筈もなく。

「...わかった」

2人でお風呂に入り、シーツが完全に乾いた頃には普段の可愛い彼に戻っていた。
私の喉はもう少し枯れてしまったのだけれど。


end