また始まる

「また僕に隠していましたね」

「...ごめん」

前日たっぷりと彼女と愛し合った僕は夜早めにベッド入りしっかり眠り、朝はすっきりと起きられた。
身体も心も十分に満たされ待ち合わせ場所の駅に向かう為に彼女と合流してもう一度キスをして。
部のみんなと合流して去年もお世話になった民宿で見知った顔の彼らと遭遇した。
いくらなんでもこんな偶然が何度も続く筈がない。

「言っちゃ駄目って言われてたの...その方が面白いからって...」

「...秀徳の皆さんはとくに驚いている様子はありませんでしたから知らされてなかったのは僕達だけのようですね」

彼女にそう話をしていると僕から目線を逸らした。
そんな彼女の様子を見てまだ僕に話していない秘密があるのだと想像が出来た。

「名前さん、僕にだけこっそり教えてもらえませんか?
言えないというのなら今ここでキスしますけど」

「...お、脅しみたいなことやめてよ...」

彼女の言う通りまぁ脅しですよね、こんな言い方。
それでなくとも彼女は僕に甘いから、少し悩みながらも僕の耳に手を被せて顔を近付けた。

「...実は今年は桐皇も合流するの」

「...青峰君達も、ですか...」

夏休みも終盤、既にインターハイも終わっている。
今年の夏の合宿は日程が随分後半にきたなと思っていたけれどそういう事だったのかと納得した。

「名前さん」

「っ、い、言ったのに!」

僕がキスをすると彼女は顔を赤くして小声で僕に不満を訴えた。
まぁ本気で怒っていないとは分かっていたのですぐ近くに彼女の顔があったから、なんて言い訳なっていない理由を述べると彼女は僕をじろりと睨んだ。
正直もう何をしていても可愛いとかしか思えなくなっているのであまり効果はないのだけれど、それを言ってしまうと多分本気で怒られてこの合宿中口を聞いてもらえなくなるかもしれないと思ったのでそれ以上彼女を揶揄うような真似はしなかった。

「おい、お前...んなことやってたらまたカントクに筋トレ倍にされっぞ」

どうやら火神君にさっきのキスを見られてしまっていたらしい。
顔を赤くしてそう言った火神君の純粋さを少し羨ましく思います。
少なくとも去年の僕は今の僕よりもう少し我慢がきいていたのですが。

「すみません、今後はバレないように気をつけますから」

「「そういう問題じゃない!(ねぇよ!)」」

彼女と火神君が見事にハモりました。
仲がいいようで羨ましいという視線を送ると火神君に頭をはたかれてしまった。
僕ってそんなに考えていることが顔に出やすいんですかね。

「ほら!荷物置いたらすぐに外に集合だから!
火神君も早く準備しよ!」

「いてっ!わ、わかったから押すなって!」

「名前さんは僕以外の男性の身体に触らないでください!」

僕と火神君の背中をぐいぐい押す彼女に子供じみた嫉妬をぶつけるとなら早く!と背中をパシッと軽く叩かれてしまった。
火神君と一緒に客室に入り荷物を置いて再び宿の廊下を歩いた。

「にしても今年も緑間のツラを見なきゃいけねぇよかよ...まぁ青峰よりはマシか?」

彼の一人言に残念ですが両方の顔を見ることになりますよ、と心の中で返事をしておいた。
宿の外に出ると紫外線対策であろう薄手のパーカーに帽子を被った彼女が待っていた。
脚はがっつりと剥き出しになっていますが。
というかそのパーカーの下は何を着ているんですかと、そんなことばかり考えてしまう。
去年と同じようにみんなでビーチに向かう道中僕達は1番後ろを歩いていた。
彼女は僕からの視線が痛いと言って僕の顔を手のひらでぐるんと前を向かせた。

「気にならないわけないじゃないですか」

「...一応濡れてもいいように水着は着てるけどパーカー脱がないから大丈夫だよ、心配しなくても」

心配、という気持ちもある。
でも本音を言えば彼女の水着姿が見たいという気持ちの方が今は大きい。

「......テツヤ君が真面目に練習出来たら、後でテツヤ君にだけ見せてあげるから...」

「死ぬ気でやります!」

正直なところ彼女は隙だらけだから許可なんて得ずともパーカーのファスナーを開けることなんて簡単なのだけれど彼女は自ら見せてくれると言ったのだからそれならそっちの方がいい、と。
即答した僕に彼女はやや呆れた視線を向けた。
最近こういう事が増えた気がする。

「テツヤ君ってほんと正直だよね」

「でも僕のそういうところ好きじゃないですか。それが分かってるから貴方の前では取り繕うことはやめたんです」

今のように性的な嗜好を抱く前から僕は彼女には随分我儘を言っていた自覚がある。
でも彼女が僕に甘えられるのが好きなんだな、と思わせる節が沢山あったから、それを分かった上で過剰に甘えていた。
だから今の我儘な僕を作ったのは彼女自身なんですよ、なんて考えながら当時を振り返った。
幼稚園に入りたての頃は夏はよくビニールプールで遊んでその後一緒にお風呂に入ってお昼寝していたな、と。
あの時は彼女が僕の身体を洗ってくれてお昼寝の時も寝かしつけてくれていた。
少し大きくなってもうお風呂は一緒に入れないとお母さんに言われて泣いて駄々を捏ねた記憶がある。
今思えば当然の配慮なのだけれど当時の僕は彼女となんでも一緒に、がよかったから。
でもこの年齢になっても僕は彼女とお風呂に入りたいと駄々を捏ねているのだから人間ってそう変わらないものだなと改めて思った。
まぁあの頃の僕と違って今の僕には下心しかないのだけれど。
そんなことを考えていると彼女に頬をつねられてしまった。

「痛いれす」

「...真面目にやらないと怪我しちゃうから」

どうして彼女には全部バレてしまうのだろう。
彼女の事を僕が知っているのと同じくらい彼女もまた僕を知ってくれているから、とかだったら寧ろ嬉しいくらいなのだけれど。

「真面目にやりますよ。名前さんとは違う意味でバスケ、大好きですから」

「...知ってるよ」

桃井さんに以前言われたんですよね。
僕が試合をしている時の名前さんが僕を見る目はまるで恋する女の子みたいだって。
僕がバスケを続けられたことを1番喜んでくれているのはきっと彼女だから。
だからそんな気持ちが彼女の表情に現れているのだと思う。
まぁそもそも彼女は僕の事が大好きなのだから桃井さんの感性も間違っているわけではないのだけれど。

「名前さんもきちんと水分補給をして、熱中症には気を付けてくださいね」

「うん、ありがとう」

一年ぶりに踏む砂の熱さに一年前のこの日を思い出した。
インターハイは残念だったけれどまだ終わりじゃない。
先輩達と一緒に試合が出来るのはこの冬が最後だ。

気を引き締めて頑張ろう。


end