「さすがに連絡なしに休日の昼間にいきなりは厳しかったか」
十代はデュエルアカデミアを卒業後、世界中を旅してきた。
それは特殊な体質のせいか様々な精霊にまつわるトラブルや事件を引き寄せるという忙しない旅になった。
在学中から付き合っていた名前には卒業後自分の事を縛り付けている訳にもいかないと思い別れの言葉を告げようと考えていた。
しかし十代が卒業と同時に日本を離れる事を言うと名前は鍵を差し出しあっけらかんとこう言った。
「私の親は今仕事で海外にいるんだ。
卒業後は日本の家は一人で私が使う事になってるから日本に用がある間はうちに来ない?」
その言葉に十代はキョトンとするが名前の
「あ、でも別れたいっていう意味ならベッドは別ね。」
というなんとも情緒のない言葉に笑ってしまいそのまま鍵を受け取ってしまったのだった。
そんなことがあってから約一年が過ぎた頃十代は名前の家の前に立っていた。
インターフォンを押すが家主が出てくる気配はなかった。
少し悩んだが受け取っていた合鍵で名前の家の鍵を開けさせてもらった。
他の靴は靴箱に入っているのだろう。
玄関には名前の靴だと思われるもの一足と簡易的に使うであろうスリッパが一足あるだけだった。
「おじゃましまーす」
形だけでもと挨拶をすまして家に入るとどうにも人の気配を感じた。
どうしようかと悩みながらもノックをしつつ部屋の扉を開けてみるが誰もいない。
3つ目の扉をノックしようとすると中から声が聴こえてきた。
「十代ー??」
久しぶりに聞く名前の声だった。
開けていいかと聞くとどうぞと了承を得たので十代はそのドアを開けた。
「······名前?久しぶりだな。どうしたんだ?」
扉を開けるとそこは名前の自室だったらしく名前はベッドの上で布団にくるまっていた。
「いや〜、もう寒くて寒くて、布団から出られないのよ」
顔以外布団で完全防備しながらそう話す
名前に十代は相変わらずだと笑った。
学生の頃から名前は寒がりでタイツとカーディガンが手放せない人間だったのだから。
比較的暖冬の島でそうであったのだから本土の冬は堪えたのであろう。
久しぶりの再会だというのに昔と何も変わらない名前に十代はホッとした。
「相変わらずだな」
そう言って頬っぺたをつつけば名前はギャーと小さく悲鳴をあげて顔ごと布団の中に引っ込んだ。
「十代の手冷たいよ!!」
まぁそれはそうだろう、理由は明確だ。
手袋もせずに冬の外を歩いてここまで来たのだから、と自己完結する。
「俺は久しぶりに会えたんだから名前の顔見てーんだけど?」
布団に籠ってしまった名前にそう言うが、名前は布団にくるまったまま返事をする。
「ならお風呂入ってきて!
うちは常に入れる状態にしてあるから!
あったかい十代に会いたい!」
布団をひっぺがすか自分も名前の布団に強引に潜入するか悩んだが自分も名前という存在がありながら勝手をしている身であることは重々承知していたので大人しくその提案を聞き入れる事にした。
「········しゃーねぇなぁ。じゃあ風呂借りるな。」
そう言って布団をぽんぽんと叩き十代は再び名前の部屋を出た。
「(あー湯船に浸かるのなんて久しぶりだな)」
海外の安いホテルで勢いのない、時にはお湯の出ない水でシャワーを浴びることや野宿生活の多い十代にとって入浴というものは本当に久しぶりだった。
万年冷え性の名前らしく風呂にはゆったり過ごす為のブックスタンドやバスボム、マッサージに使うであろう道具なんかが揃っていてそこにも彼女の存在を感じる事ができた。
シャンプーで髪を洗ってもボディソープで体を洗っても懐かしい名前の香りがして思わず頬が緩んだ。
「(名前はほんと変わってねぇなぁ)」
名前の為にしっかりと身体が暖まった事を確認してから風呂を出るといつの間にか着替えが用意されていた。
柔軟剤で柔らかく仕上げられたタオルで身体を拭いたあと着替えの服を手に取る。
それは自分の持っていたものではなかった。
先程までは止まっていた洗濯機が動いている。
どうやら自分の衣類が洗濯されているようだ。
「(······パンツまであるがどうみても新品だな。)」
とりあえず裸でいる訳にもいかないのでその用意された下着をはきコットンで出来ているのであろう柔らかいラフな部屋着を身に付けた。
「(んーーこれは俺の為に買っていたものなのだろうか?)」
少し不安を感じながらも身なりを整えた十代は脱衣場を出た。
「名前、上がったぞ」
先程の名前の部屋を開けるも先程までそこにいた名前の姿はなかった。
「十代!」
後ろから聞こえた十代を呼ぶ名前の声に振り返った十代は固まってしまった。
「お湯加減どうだった?」
その十代を気にすることもなく名前はお風呂の具合を聞いた。
「お、おう、丁度良かった、ぜ?」
「そっか、良かった!お帰りなさい、十代」
学生時代の名前しか知らなかった十代は初めて見る制服以外を着た名前に思った以上にときめいた。
髪もショートカットだった頃から随分と伸びそれを緩くハーフアップにして暖かく上品そうな膝下丈のワンピースを着ていた。
そしてなによりも
「(俺ってそんな、なんか変な嗜好あったのか?)」
エプロン姿の名前におかえりなさいと言われた十代はなんともくすぐったいような妙な感情が芽生えたのだった。
「じゃあ十代、はい!」
大人っぽくなった外見とは反比例して両手を広げて抱っこをおねだりするようなポーズをとる名前に堪らなくなった十代は勢いよく名前を抱きしめた。
「元気いっぱいだね〜。おかえり〜」
名前はその十代を受け止めながら左手を十代の背に回し右手で優しく十代の髪を撫でた。
「····俺やっぱりもうちょい帰ってくるようにするわ」
一年ぶりに感じた名前の感触に十代は思わずそう告げた。
「それは嬉しいなぁ〜。無理しない程度によろしくね〜」
抱き合っている事で名前の嬉しそうな笑い声は十代の身体を通して小さく振動した。
なんて心地いいんだろうと幸せを噛み締める。
それから名前の用意してくれた昼食を二人で食べながら会っていなかった時間に起こった出来事をお互いに報告しあった。
名前は卒業してからもたまに級友達に会っているらしく皆元気にしていると言うことがわかった。
食事が終わってからも名前はまだまだ話し足りないようだったので今日はとことん話そうかと伝えるとなんとも嬉しそうな顔をして食後の紅茶を入れに行った。
ソファーで隣り合わせに座りながら話している時、ふと気になった事を十代は名前に訊ねた。
「そういやあんなに寒がってたのによく布団から出られたな」
学生時代のあの寝起きの悪い名前の事を記憶していた十代は、どうせ出てこれないだろうと思い風呂から出たら名前の布団に突入する気満々でいたのだった。
「ああ、あれはね、なんていうかねーー?」
言いづらそうに言葉を濁す名前に首を捻る。
どうしようかと悩んだ表情を少しするが、まぁいいかと言い名前は爆弾を一つ投下した。
「私寝る時に服着てると寝られないんだよね」
「·······は?」
その言葉に十代が固まるのを気にする事なく名前は続ける。
「寒いの嫌だから布団も毛布も沢山かぶりたいんだけど服着てるとなんか寝られなくて着てても脱いじゃうのよ。」
「は?じゃ、じゃあ学生、んときも、は、裸、で?」
衝撃の告白をする名前にそう訊ねればそれを肯定するように頷いた。
「(········俺のあほっ!!!)」
ぶっちゃけて言えば十代と名前は未だ男女の一線を越えていなかったのだった。
少なくとも学生時代トラブル続きで恋人としての甘い時間のようなものを殆ど過ごさずにきてしまったことも要因の一つだったのだが。
「そんな感じだから、その、十代がもし気にするんだったらやっぱりベッドは別にする?」
多分寝る前着てても寝ちゃうと脱いでしまうからと続ける。
「(こいつは本当に俺の事を男だとわかっているのか!?)」
どこかズレた名前の言葉に頭を抱えたくなるが十代は決心した。
「··俺は名前と一緒に寝たい、····です」
「そっかー。うんわかった。一緒に寝ようね!」
紅茶のおかわりをカップに注ぎながらそう返事をした名前に十代は苦渋の表情をした。
「(抱きたいって言ってるのと同じ事なの分かってんのか!!??)」
その後名前と十代は沢山の話をしたが十代はまともに名前の話を聞けていたかは定かではない。
夜になり夕食に鍋をつつき、名前がお風呂に入ってそろそろ寝ようかと言った時まで十代の妙な緊張は続いたが、その後十代の心配は他所に事はスムーズに進み二人は無事一線を越える事ができ、十代は違う意味でも大人になった。