ひらりと舞う

「テツヤ君学校のジャージでもかっこいいね」

「...そう?まぁ...良かったわね...」

体育祭の日、この日は部活以外の時間も学年の違う彼の姿を見ていられる。

「ハチマキ巻いてるテツヤ君あんなに可愛いんだね。写真撮らせてもらえると思う?」

「まぁあんたが頼めば撮らせてくれるんじゃないの?黒子君は」

私は特別運動は得意ではないし日焼け止めを塗っていてもなんやかんや少しは日に焼けてしまうし、土埃が上がるほど乾燥しているから髪もパサパサになって汗もかくから体育祭なんて好きではなかったのだけれど。

「テツヤ君のこと見ていられるなら毎月体育祭やってくれてもいい」

「本当に黒子君のこと好きなのね。そこまでいくとちょっと羨ましいわよ」

リコちゃんは呆れた顔をしながらもそう言った。
一時木吉君とお付き合いしていたけれど今は恋人を作る気はないのだろうか?
リコちゃんは可愛いから彼氏なんてすぐに出来そうだけれど...でも多分バスケ部のカントクをしている間はもう特定の人は作らないんじゃないかと思う。
そもそもリコちゃんが彼氏が欲しいとかそんな事を望んでいるわけでもないのに勝手に想像するなんて失礼なことなのだけれど。

「リコちゃんから見てテツヤ君ってかっこいい?タイプだったりする?」

「一体どうしたのよ?...黒子君のことそんな風に見たこと無いからなんとも言えないけどでもまぁどれだけストイックにやってきたかって事はプレイを見てれば分かるからそういうところはかっこいいんじゃない?」

リコちゃんの返事から察するに多分テツヤ君はリコちゃんの好みのタイプではないようだ。
それは明らかにバスケ部のカントクとしての言葉だったから。

「別にそんな意味で聞いたわけじゃなかったんだけどリコちゃんがもしテツヤ君の事好きになったら私に勝ち目なんてないんだろうな」

「...あのねぇ...なんでそんな考えに至ったか知らないけどその言い方って黒子君にも失礼でしょ!
あとまぁあんたと付き合ってる男の子を好きになるなんて絶対嫌だから、安心しなさい」

リコちゃんはそう言って私の頬をつねった。
結構本気で。
痛いと伝えるとすぐに離してくれたけれど。

「あ、そういえばね、お祭りに行った時のテツヤ君凄く可愛かったんだよ。写真見る?」

「話がコロコロ変わり過ぎなのよあんたは。
ていうか待ち受けの写真もそれでしょ?もう見たから別にいいわよ」

他にも沢山あるから自慢したかったのだけれどそう言われてしまい開いた携帯をまたすぐに閉じた。
するとリコちゃんはもう!と声を出し見てあげるから見せなさいと言った。
本当に優しいと思う。

「個人的にたこ焼き食べてるのが一番可愛いって思ってる」

「...っていうか私には食べてるものが変わってるだけで殆ど全部一緒に見えるんだけど?」

「...リコちゃんお父さんと同じこと言うね」

お父さんもリコちゃんもまるで間違い探しみたいに言う。
私の中では全然違う写真に見えているのだけれど。
これはもしかしたら私の写真を撮るセンスが無いせいなのかもしれない。
だとしたら悲しい、だって彼の魅力を形に残す事が出来ないってことになるから。

「あ、ほ、ほら!次は一年生の借り物競争でしょ!黒子君出るって言ってたでしょう!」

「あ、ほんとだテツヤ君いた。可愛い」

「...あんたよく一瞬で見つけられるわね...」

リコちゃんは私に関心したのか呆れているのか分からない視線を向けた。
でも今考えれば彼の事を好きになる前はこんなに早く彼の姿を見つけられなかった気がする。
だから多分それだけ私が彼の事を好きなのだと、だからこそかなとも思う。

テツヤ君の番が来てスタートのピストルが鳴って一斉に走り出しお題の書かれた紙を手に取った。
それを確認するとテツヤ君は一瞬固まったけれどすぐに私達の方へと向かって走ってきた。

「カントク、...どう思いますか?」

そのまままっすぐ私達の前まで来た彼が私には見えないようにリコちゃんにお題の書かれた紙を見せるとリコちゃんは私の背をポンと叩いて連れて行きなさいと彼に言った。
一体何が書かれていたのだろうかと気になりつつも彼にお願いしますと手を差し出されると私は幸せな気持ちでいっぱいになってしまいその手を取って彼と一緒にゴールに向かって走った。
係りの人がお題に合っているか確認する為に読み上げたそのお題は「前世が犬っぽい人」というもので。
私は思い切り驚いた声を出してしまったけれどそんな私を見て何を思ったのか係りの人はOKをくれた。
因みに順位は2番だった。

「協力していただきありがとうございました」

彼は私の頭をよしよしと撫でてくれた。
少し腑に落ちない気持ちもあるけれど2号といい彼は犬が好きだとわかっているからまぁいいかと思うことにした。
それにしても前はカワウソに似ているとも言われたし私ってあまり人間っぽくないんだろうかと不安になった。
可愛がってもらえるのなら別に構わない、でも女の子として見えもらえないのも困る。
だってそれじゃあ彼のお嫁さんになれないかもしれないから。

「...テツヤ君、私が犬でも好きでいてくれる?」

「...あの、すみません。別に本気で貴方を犬だなんて思っていませんので。
不安にならなくてもいいんですよ、ちゃんと貴方のこと人間の女性として大好きですから」

ストレートに好きだと伝えてくれる彼に嬉しくなって抱き付きたくなったのをぐっと堪えた。
でもまぁその代わりに彼の手を握ってしまったのだけれど、私にしては物凄く我慢した方だと思う。

「テツヤ君の写真撮ってもいい?」

「はい、まぁ多分そう言われるだろうなと思っていましたから大丈夫ですよ」

少し離れた場所まで移動して彼に携帯のカメラを向けパシャパシャと写真を撮った。
でも途中で携帯を取り上げられてしまった。
撮りすぎて怒らせてしまったのだろうかと不安になったけれど彼は携帯を少し操作して私の肩を抱き寄せぱしゃりとシャッターボタンを押した。
私はまた完全に油断している顔で写真に収まってしまった。

はい、と返された携帯で先程の写真を見たけれどやっぱり間抜けな顔で写っていて、消してしまいたいと思ったけれど隣に写る彼はいつも通りかっこよかったので消すことなんて私には出来なかった。

「2年生の借り物競争が終わったらお昼ですから、また後で合流しましょう」

「...私も借り物競争出れば良かった。そうしたら私もテツヤ君借りられたのに」

「都合よくお題が僕に当てはまるものだったかは分かりませんよ」

彼の言うことは尤もだ。
もしも大食いの人、なんてお題だったら彼に頼めない、火神君あたりが適切だろう。

「かっこいい人とか出たら間違いないのに」

「...それで合格が貰えたなかったら僕が傷付くんですが...まぁ気を使われて合格を貰った方がきついですけど」

そんな心配なんてする必要ないと思うのだけれど。
彼は少し自己評価が低いところがあると思う。

「ほら、カントクも出るとおっしゃっていましたし応援しましょう」

再び彼にそう促されて私は渋々席へと戻った。
もうリコちゃんは席を離れておりすぐにグランドの中に現れた。
そしてテツヤ君と同じように走り出しお題の紙をとって、さっきと全く同じ、リコちゃんに手をとられ私は再びグランドの中まで戻ることとなった。

リコちゃんの引いたお題はクアッカワラビーに似てる人。
私はそれがなんだか分からなかったのだけれど取り敢えずまた動物であることだけは分かった。
リコちゃんは係りの人の前で私の携帯を出すように言ってそれを素直に手渡すと開いて待ち受け画面に設定してあるテツヤ君の写真を私に見せた。
単純な私は途端に顔が緩んでしまう。
するとそんな私を見ていた係りの人は合格をくれた。
わけが分からないながらもリコちゃんは1番でゴールする事が出来たからまぁいいかな、と深く考えることはしなかった。

後でテツヤ君にその話をすると確かに似ているかもしれないですねと言ってクアッカワラビーの画像を見せてくれた。

顔立ちが笑って見えることから世界一幸せな動物と呼ばれているらしい。
それを聞いて確かにテツヤ君の事を考えている時の私はつい笑ってしまうかもしれないなと思った。
犬の次はクアッカワラビーだなんて。
やっぱり少し複雑だったけどテツヤ君がクアッカワラビーを見て可愛いですよねと言ったので別にいいかとまたすぐに思った私は本当に単純なのだと思う。

「日本では埼玉の動物園で見られるようですから、いつか会いに行きましょうか」

私とデートしてくれるつもりで言ってくれたのが嬉しくて思わず抱き付いてしまった。
抱きついてからしまった、と後悔したけれど彼は拒まず私の頭を撫でてくれたのでその優しさに甘えてしまった。

そして昼食の後応援合戦の為に学ランを着たテツヤ君のあまりのかっこよさに私は気を失いそうになってしまった所をたまたま近くにいた木吉君に支えられ、それを見た彼が心配をしながらも少しヤキモチを妬いてくれたことに心が幸せで満たされた。

本当に、毎月体育祭があればいいのに、と。
私はそんなことばかり何度も考えてしまう。


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